花の領地『フォータム』②
突然目の前に立ち塞がったノフィーは、両手を広げて真剣な眼差しで私を見つめていた。ノフィー越しに見える美女達に目を向けるが、寄ってきた人達に花を配っているだけで変わった様子はない。
「でも、お花貰うだけだし…ちゃんとすぐに戻ってくるから!」
驚きつつも、ノフィーを避けて一歩踏み出す。すると、ノフィーがまた行く手を阻む。
「絶対に行ってはなりませんッ!!」
ノフィーの大声に周囲がざわめく。
が、次の瞬間。
「トゥアックッシュンッッ!!!」
近くからノフィーの大声を上回るくしゃみのような声が聞こえてくる。周囲の視線がノフィーから逸れるやいなや、顔を赤らめたノフィーが素早く私の耳元で囁くように話し出した。
「あの花束を配っているのは、フロースウィター社という生花販売をしている団体の人達なのでございます。あの団体の花束を貰ったら最後、ずっと花束の定期購入を迫ってくるのでございます…それにあの花束には、位置を把握する魔法がかけられていて…」
「え!?」
背伸びしたノフィーと目が合うが、嘘を言っている感じはない。さらに小声になったノフィーは続けて話し出す。
「悪い団体ではないのですが…フォータムの約8割の領民が何かしらの形で関わっているため、多少強引な勧誘でも許されているのでございます…」
位置情報が『多少』なのかは気になったが。
「それは〜…ちょっと困るかも…」
結局花束を貰うのを諦めた私は、皆んなと一緒にゲートへ向かうことにした。
アーチ状の花のゲートを通り抜けると、目の前の景色が一瞬にして、桜色に切り替わる。
「うわぁ〜ッ! 綺麗!」
見渡す限りに広がる満開の桜。舞い落ちた花びらは、柔らかな風に乗ってどこかへ流れていく。
「ステラ様、どうかされましたか?」
「…綺麗すぎて…クルクルで見てたのより、何倍も綺麗だよ!!」
「私も初めてこの景色を見た時は感動いたしました…」
二人で目の前に広がる絶景を眺めていると、後ろからノワの声が聞こえてくる。
「2人とも、そろそろ城に向かおう。あまり時間に余裕はないからな」
「申し訳ございません!」
ハッとしたノフィーは、すぐに歩きだし、私もその後を追った。
どこまでも続く桜並木の中を動く歩道のようなものに乗り、進んでいく。
周囲を観察すると、花の領地と呼ばれるだけあって、そこかしこに花がある。この桜に似た『フェリティスの木』は、年中領地のどこでも見ることができるらしい。
そして、何より……美男美女多すぎるっ!!! エクセルが、フォータム出身だと間違われるのも納得だ。
すれ違う人やお店の人が、明らかにエルドとは比べものにならない顔面偏差値の高さ。クルクルの検索結果で出てきた『美男美女の多い領地No.1』は伊達じゃない。
色々見てまわりたい気持ちを抑えつつ、パティスリーにある転移魔法陣と同じもので領地内を移動していると。
「着きましたよ! ステラ様!」
花で飾られた検問所を通ると、少し先にお城が聳え立っていた。
真っ白な壁を飾るように色鮮やかな花が咲き乱れ、まるでおとぎの国に迷い込んだような雰囲気だ。周囲には至る所に石像も飾られている。
ノワを先頭に城内に入ると、すぐに二人の美男美女が迎えてくれた。ノワと背丈が変わらない位のイケメン青年が一歩前に出て話し出す。
「城内の案内をいたしますアルダーと申します。ノワール様とステラ様は私が。エクセル様とノフィー様は、ポメラが面談の間までご案内いたします」
そう言い終えると、二人揃って優雅なお辞儀をした。私も急いでお辞儀をし終えると、ノフィーは心配そうな顔で見つめてくる。
「再度お伝えいたしますが、推薦状には2種類ございます! 私とエクセル様は、通常の推薦状でございますが、ステラ様は特別推薦状で申請されております! 特別推薦状の際は、領主様も来られますので、くれぐれもお気をつけくださいませ! それからデラフトール様からの依頼された物も忘れずにお渡しください! それから!」
まだまだ話し足りないノフィーだったが、ハッと案内係がいることに気づき、何度も後ろを振り返りながら、エクセルと共に行ってしまった。
残った私とノワもアルダーの案内で、城内を進んでいく。
そういえば、試験の時って、特別推薦状の面談も兼ねてたから、あんなに長くなったって言ってたな…今日はそこまで長くならないよね…?
まるで美術館のような絵画や彫刻などが飾られた通路を進むにつれて、ジワジワと緊張感が増していく。
ヤバい…緊張から胃が痛くなってきた…薬持ってきてたっけ…? いや、いっそノワに回復魔法を頼んでみようかな…。
ノワに話しかけるタイミングを探っていると、どうやら間に合わなかったらしく。案内係のアルダーがピタリと止まり、振り返る。
「こちらが面談の間でございます」
「あ、ありがとうございます…」
腹をくくり、繊細な彫刻が施された扉の前に立つと、ノワが話しかけてくる。
「俺はこの中には入れない。何かあったら、連絡してくれ」
「わかった! 頑張ってくる!」
ノワに意気込みだけ伝えると、自動でスッと扉が開く。中に入ると、すぐに体がスキャンされ、もう一枚の扉が開いた。
部屋の中にいた案内係に連れられ、先に進む。もちろん、こちらの案内係もイケメンだ。
そして、護衛の為だろう、通路の左右に等間隔で騎士らしき人達が立っている。もちろん、イケメンである。
イケメンロードを抜けると、大広間に面接官らしき人達が見えてくる。席に着いているのは3人。細身のキリッとした美魔女とヒゲを生やしたダンディー系イケおじ。中央には、1番宝石のあしらわれた服を着た領主らしき優しそうなイケメン男性が座っていた。
「ステラ・プルプルと申します!」
案内された椅子の横に立ち、名前を名乗ると、中央に座っている領主らしきイケメン男性が気軽な感じで話しかけてくる。
「掛けてくれ。私がフォータム領主のラヴィンデル・フォータムだ。デラフトールから君の話は聞いているよ。君の作るものはどれも美味だってね」
「恐悦至極にございます!」
レブロ直伝の「貴族から褒められた時の対応」通りに対応したところで、ノフィーの言葉を思い出す。
「デラフトール様より、こちらをお渡しするように申し付かりました」
ポシェットから大小一箱ずつ取り出すと、一瞬ピリッとした雰囲気が流れたが、後ろにいたイケメン案内係がスッと現れて箱を美魔女に渡した。
手渡された美魔女面接官は、大小箱の中身を確認すると、目をギラっと光らせて。
「オホンッ! このフェリティスの形をしたものは何かしら?」
イケメン領主とイケオジも気になるようで、箱の中を覗き込む。私は再び背筋を正し、箱の中身を落ち着いて説明する。
「ツーウィンクル領で作っているマカロンでございます。今回はフォータム領をイメージしてフェリティスを使ったマカロンをお持ちいたしました。外側にはフェリティスの粉末を使い、クリームにはフェリティスの花を塩漬けにしたもの練り込んでおりますので、甘じょっぱい味わいになっております」
デラフトールからの依頼は、フォータムをイメージした手土産だった。そのため、フォータムの名物といわれているフェリティスを使ってみた。香りや味も桜に似ていて、混ぜるときの割合を決めるのに時間がかかった。
「まぁ、これもマカロンですの? いつものより小さいですわね」
「カリーナ様は、マカロンを食べたことがあるのかい?」
「え!? ええ、まぁ…ツーウィンクル領とは友好関係を維持しなければなりませんので」
「そういえば、最近よくツーウィンクル領を訪れているみたいだね」
微笑んだイケオジをチラッと睨みつけた美魔女は、すぐに正面を向き、マカロンを摘み上げた。
「オッホンッ! これも評価に加えなければいけませんからね。では、私から…」
手に取ったマカロンを一口食べると。
「んまぁ! 優しい甘さの後に、フェリティスの香りと塩気がふわっと追いかけてくるような、ローズのマカロンとは違う味わいですこと!」
うっとりとした表情に変わった美魔女を見て、隣のイケメン領主とイケオジもマカロンを手に取る。
「おお! 美味しいですね! これが話に聞いたマカロンというものか!」
「確かに。甘味と塩味のバランスが絶妙で、フェリティスの香りが鼻をぬけ、これならどこにいてもフォータムを思い出すことができるな…」
どうやら満足していただけたようでホッとすると、視線が私に向けられる。
「では、これから君が特別推薦状を出すに値するのか、面談を始めるよ」
「お願いいたします!」




