マフィン販売開始
マフィン作成から数日後。やっと今日から販売することになった。
朝起きるとテーブルには、パンとマフィンが置いてある。珍しくクルトも気合が入っていて、ここ数日は朝早くからパンと一緒にマフィン作りも熱心にしていた。朝からマフィンと聞くと、オシャレな響きだが、出来れば卵焼きやソーセージと一緒に食べたい。私は家での火魔法を禁止されているので、卵を焼くこともできないのだ。
朝食後は、いつも通り風魔法を練習しながら、登校する。授業が終わると、今日はすぐに帰らなければならない。
なぜなら、マフィンの宣伝をする為だ。この日の為に作った「新商品! マフィン販売中!」と書いた看板を店の前に置いてきたが、どのくらい売れているだろうか。ワクワクしながら帰宅したが、世の中そんなに甘くなかった。
うん、そうだよね…。
『マフィン』という聞きなれない商品に、そう簡単にお金を出して買ってくれる人はいないのだ。パンと一緒に買いやすいよう、小さくお試し価格にしておいたが、考えが甘かった。
私は落ち込んでいるクルトに声をかけ、パンを買ってくれた人や知り合いを中心に無料で配るように伝えた。
「タダで渡すの!?」
クルトはびっくりしていたが、まずはマフィンを知ってもらうことが肝心だ。私はもう1つ、ある作戦を考え、すぐにクルトにマフィンを焼くように伝えた。その間に、風魔法が得意だという洋服店の少年『ルイン』に声をかけ、マフィン販売の手伝いをお願いする。
「ルイン、マフィンが出来上がったら、通りに向かって風をブワァ〜って、匂いが流れるようにして欲しいの!」
ルインは、私より年下の11歳だが、風魔法が上手だと、トトルから聞いてた。本当はトトルにお願いしたかったが、私と同じで、風魔法は上手く使えない。もちろん、私より上手いのだが…。
「わかった! やってみるね」
ルインは可愛らしい笑顔で私を見ると、風魔法を使い、全開にした工房の扉へ風を流していく。
お菓子が焼きあがっていく甘くて香ばしい匂いは、思わず足を止めずにはいられない。焼き上がりが近づくにつれて、甘い匂いが周囲に広がっていく。
ゴクリッ…私も食べたくなってきた!
作戦は成功し、店の前で立ち止まる人が多くなる。すぐに私は店の前に立ち、興味がありそうな人に声をかけ、マフィンの紹介や試食をしてもらう。
私は学生時代にデモンストレーションのアルバイトをしていたので、手際よく人数をこなした。後ろを見ると、トトルも見様見真似で、友達や近所のおばさんにマフィンの紹介をしてくれている。
「これ、マフィンっていうんだけどさ、すんげぇ、うまいんだぜ! 焼き立てだともっとうまくて、中はモチモチしてるのに外はカリカリしてて、果物より甘いんだ!」
私は数をこなしているが、トトルの方がデモンストレーションの素質があるのか、試食したい! と周囲に人だかりができていた。
ー凄いよ! トトル!
こうしてマフィン販売1日目は、あっという間に終わった。