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【両想いの魔法陣】 SWEET★FIL ~ 火力最強の非戦闘員!? ~  作者: 三色アイス
第1章 エルドの町
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エルドの町

「キュイールッ!」


 私はさっき取得した魔法を使うべく、作業台の上にある果物に手をかざし、呪文を唱えた。


 ボンッと大きな音と共に火柱が天井まで上がり、果物があっという間に黒焦げになった。びっくりして、後ろに倒れ掛かると、クルトが口を開けたまま、黒焦げの果物を見ていた。


「ステラ! 何したんだ!?」


 ―それはこっちのセリフだ。


 どうせ果物の表面に少し焼き色がつくくらいを想像していたのに、いきなり巨大なバーナーで焼くような勢いで火がでたのだ。クルトもまだ混乱しているようだが、怪我がないことを確認され、家では《キュイール》の魔法は使わないように約束させられた。


 一度部屋に戻ると、これまでの疲れがどっと押し寄せてきて、いつの間にか眠っていた。



「姉ちゃん、朝だよ! 早く起きてよ!」


「ん…ん~~、おはよ…」


 目を開けると、そこにはトトルの顔があり、起きても元の世界に戻っていないことがすぐにわかった。トトルは部屋を出ながら、私に声をかける。


「朝ごはん食べたら、すぐに学校に行くよ」


 私は学校に行く準備をし、テーブルに置いてあるパンを食べた。昨日からパンしか食べてないなと思いつつ、外に出るとトトルが今や遅しと待っていた。


「姉ちゃん、遅刻しちゃうよ」


 トトルは少し速足で学校に向かいだし、私も風魔法を使いながら、トトルに付いて行く。


 昨日行った魔法店とは反対方向に進んでいくと、大きめの建物が見えてきた。これまで通ってきた学校とは違い、洋館のようなちょっと古ぼけたところに子供たちが沢山集まっている。


 学校の中に入ると、すぐに先生らしき人から声をかけられる。私はトトルと別れ、先生について小さめの部屋に入った。


 そこには簡易的な机と椅子が置いてあるだけだった。椅子に腰かけると、すぐに先生が自己紹介を始めた。


 先生の名前は『レイラ』、2年前から教師をしていて、年齢は22歳だ。元々は水の町(アイール)出身で、結婚してエルドに移り住んできたらしい。


「レイラ先生、水の町(アイール)ってどんなところですか?」


「そうね、この領地では一番綺麗な町だと思うわ。町の中には真っ白な水路を挟むように花が咲いているのよ。色々な回復系魔法を使える人が多いから、よく大怪我をした人が運ばれてくるわ。…ステラちゃんのお母さんも水の町まで運ばれていれば、助かったかもしれないんだけど…」


 重くなる空気の中、今のエルドの町の現状について教えてくれた。


 エルドの町は、元々鍛冶屋の町で、戦争時に武器や防具を作り生計を立てていた。だが、今は戦争をしていない為、仕事がなく、他の町や領土にいく人が多く、人口がどんどん減少しているらしい。


 仕事減による人口の流出…どの世界でも同じような問題を抱えているなと思っていると、レイラから将来どんなことをしたいかという質問が飛んでくる。


 私の将来の夢……。


 私はパティシエを目指した時のことを思い出す。すごく単純なのだが、中学生の時に好きだった人が私の作ったマフィンを美味しいと笑顔で言ってくれたことがきっかけだった。


 昔からお菓子を食べるのも作るのも好きで、大学卒業後はお菓子を扱う会社に就職した。でも、実際に働いてみると、私の思っていた仕事とは違っていて、1年後に退社してしまった。その後、やっぱり「お菓子で人を笑顔にする」仕事に就きたいと考え、パティシエを目指した。


 今にして思えば、1年で退社したのは、仕事に対しての考え方が甘かったからだ。長く続けることで、変わってくることも多い。


 フランスでの修行も最初の1年は、本当に辛かった。言葉がうまく聞き取れず、仕事をミスしてしまったり、職場の人間関係がギスギスして、メンタルがかなり削られた。でも、経験を積み、技術を磨く為にきたんだと割り切って、なんとか耐え抜いた。


 それから、2年目3年目と一緒に仕事をしていると、周囲の目も変わっていった。任される仕事が変わり、職場の人に飲みに誘われる機会が増え、職場の雰囲気も最初とは違って感じられた。


 会社を辞めてパティシエの道に進んだことを後悔はしていない。色々な経験を積んだからこそ、これまでやってこられたと思っている。


 そして、これからもその気持ちは変わらない。


 私は、レイラに向かって答える。


「お菓子で人を笑顔にする仕事がしたいです!」


「お菓子…?」


 レイラは目を丸くしながら、私を見た。きっと、レイラの中にある選択肢のどれにも当てはまらなかったのだろう。


「…ステラちゃんは、果物を育てたいの?」


「はぁい?」


 私は「お菓子」と言ったのに、なぜ「果物を育てる」ということになるのだろうか。


「あの…私はお菓子って言ったと思うんですが?」


「ええ、甘いものはすべてお菓子でしょ、果物は全部甘いもの」


「…………」


 確かに果物は甘いし、食後のデザートに果物が出てくることも多い。だが、私の言っているお菓子とは違う。


 レイラに話を聞いていると、どうやらこの世界は、甘い果物がどこでも採れるので、お菓子文化が発展していないらしい。ちなみに白砂糖もなく、メープルシロップのような木の樹液から採れる甘味料があるだけだという。


 家に帰ったら、色々確認しなければと考えていると、いつの間にか時間が過ぎていたようで、トトルが迎えにきてくれていた。


 結局、話が色々なところに脱線してしまい、勉強らしい勉強はなく、帰宅することになった。

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