出発準備
「念のため、これも入れとこ」
クルトに買ってもらったポシェット型の魔法圧縮袋にマイバッグを詰め込む。明日は待ちに待った水の町『アイール』に行く日だ。
依頼を受けてすぐ今後についての話し合いがあった。その時、『まずは、ツーウィンクルについてもっと知ってから、作るお菓子を考えたい』という私の願望…いや要望が通ったのだ。
「よし! 後は明日着て行く服だけだね」
洋服については、クルトとレブロが買ってくれることになったのだが、まだ貰っていない。
「おい、ステラ! ちょっと来てくれ」
「はーい」と返事をしながら、1階に降りる。居間には、クルト、レブロ、トトルの3人が揃っていて、テーブルには茶色の袋が置いてあった。私は袋を見て思い出す。
「父さん、言うの忘れてた! 魔法店の人が何か届いたって言ってたよ」
「良かった、間に合って! ちょっと魔法店に行ってくるよ」
飛び出す様に出て行くクルトを見送り、居間のテーブルに向かうと、レブロから茶色の袋を渡される。
「明日着て行く服だ。着てみてくれ」
「おじさん、ありがとう!」
ウキウキしながら、すぐに袋の中を確認する。中には、茶色のニット素材の布が入っていた。広げてみると、茶色のタートルネックだった。さらに、茶色のズボンと茶色のニット帽も入っていた。
中身を確認した私は3点セットを丁寧に畳んで戻し、レブロに確認する。
「…ねぇ、これ着るの?」
「当たり前だ。その為に用意したんだからな」
袋から出てきた茶色3点セットを再度手に取る。
ーいやいやいや、全部茶色なんてありえない! センス悪すぎ!
チラッとレブロの服装に目をやるが、いつもと変わらない。シャツに、ズボン。この2点だけでは、なかなか相手のセンスの有無は分からない。レブロのセンスが、ここまで無かったなんて!!
ウキウキ気分から一転、明日が不安になってくる。
なんとか別の洋服を調達しないと。作戦を考えていると、ガチャガチャと音を立てながら、サンタのように大きな袋を持ったクルトが帰ってきた。
「ただいま! 本当に間に合って良かったよ!」
「父さん、なにそれ?」
「これはステラが明日着て行く服だよ」
そう言うと、テーブルにガシャンと袋を置いて、中身を並べ出した。
「まず、これが頭で、これが体で、これが…確か腕か脚だったな」
ガチャガチャという音と共に、テーブルの上に鎧の一部らしき金属が増えていく。
それを見ていたトトルが興奮しながら、1つ手に取り、持ち上げる。
「スゲェーカッコいい! 俺も着たい!」
「ステラの後にね。ステラ、ちょっとこれつけてみてよ」
久しぶりに見たクルトの満面の笑みに、『いらない』と即答もできず、とりあえず一番手前にあった兜を手に取る。
銀色に輝く兜は、思っていたよりも軽く、ほとんど冷たさを感じない。きっといい素材を使っているのだろう。
クルトは私が被るのを待っている様で、こちらをずっと見つめている。仕方なく、兜を被ってみたが、頭を動かすたびに兜がズレて視界を妨げる。
「ちょっと大きいのかな…」
「姉ちゃん、俺にも貸して!」
私は兜をトトルに渡して、レブロに尋ねる。
「おじさん。他の町に、こんな鎧みたいなの着てる人いるの?」
きっとレブロもクルトに気を使ったのだろう、少し間を置いて。
「フルプレートアーマーか。そうだな…まぁ、兵士か騎士団員くらいか。町中では、見かけないな」
思った通りの回答だ。だが、クルトは納得していない様で、レブロに反論する。
「でも、これを着ておけば、何かあった時に怪我しないだろ?」
「確かに多少の物理も魔法も防ぐことはできるが、動きにくいからな。実際、逃げる時は、鎧を脱いで逃げる奴もいるくらいだ。子供が着ていくには厳しいだろうな」
レブロから正論を叩き込まれたクルトは、明らかに落ち込んだ表情をしている。だが、正直言って、鎧なんて着たくない。というより、服ではない。
すると、今度はレブロが袋からタートルネックを取り出し、服の間に果物を入れた。
「これも物理も魔法もかなり軽減してくれる。見ててくれ」
レブロは茶色のタートルネックに突然ナイフを突き刺し、更に風魔法を浴びせた。
「ブハァッ」
突然、風が顔に直撃する。すぐに止んだが、部屋のあちこちで物が落ちていた。
そんなことには気にせず、レブロはタートルネックの間に入れた果物を取り出すと、私に見せてくれた。
「ほらな、傷がほとんどないだろ?」
果物の表面は少し潰れて、かすり傷程度だった。それに、果物だけでなく、タートルネックにも傷はなかった。
クルトとトトルも覗き込み、興奮する。
「スゲェー! 傷ついてない!」
確かに凄い服だけど…だけど、色が…
縋る思いで「他の色は?」と尋ねてみたが、「ない」と即答されてしまった。
分かってはいたけど…やっぱり全身茶色なんて嫌だ! 鎧でも茶色でもない、第三の選択肢を!!
そして、祈りが届いたのか、私は第三の選択肢を導き出す。
「私、今からルインのとこ行ってくる! まだやってるだろうし」
ルインの家は、洋服屋だ。きっと外に着ていく服も販売しているはず。私はクルトにお願いしようとするが、レブロから茶色3点セットを押しつけられる。
「あの店で買える服は、ただの布だ。外に出たいなら、これか鎧を着ることだ。着ないなら、外出は許可できないな」
「そんなぁー!」
クルトもレブロに同意するように頷いている。その後ろでは、トトルが鎧を着けて遊んでいた。
茶色3点セットか鎧か…究極の二択ッ!!
考えた末に、茶色3点セットを渋々部屋に持ち込んで、着替えることにした。
はぁ、やっぱり全身茶色だ。帽子の線端が少しとんがっているのも嫌な感じだ。だけど、町の外に行く為には、仕方がないのだ。私はなんとか茶色3点セットの良いところを探す。
いやいや、そもそも『茶色』って思うからいけないのかも。そうよ、『キャメル』! 『オールキャメルコーデ』!!
気持ちを奮い立たせて、1階に降りると、すぐにトトルから指を刺される。
「姉ちゃん、それ。うッ」
話の途中で、レブロがトトルの口を塞ぐ。
「サイズは良さそうだな。明日はそれを着るように」
レブロは急に早口になり、トトルの口を塞いだまま、工房に消えていった。
残ったクルトは、物悲しげに鎧を見つめている。
オートキャメルコーデで行くと決めた以上、私が鎧を着ることはない。それに、最近は売り上げもそこそこあるけど、こんなことにお金を使って欲しくない。きっと色々考えてくれたんだろうけど…。私は心を鬼にしてクルトに告げる。
「父さん、ちゃんと返品してきてね」




