表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【両想いの魔法陣】 SWEET★FIL ~ 火力最強の非戦闘員!? ~  作者: 三色アイス
第1章 エルドの町
31/77

火祭り2日目⑤ 想い

 ギルドの前に立つと、外まで声が漏れている。すでに多くの人で賑わっているのだろう。


 扉を開けると、町内の女達が料理を運び、男達は大きな酒樽をいくつも並べている。端に目をやると、すでに酔いつぶれた人が数名寝ていた。


「あら、ヤーニさん。2階で上役達がお集まりですよ」


「そうかそうか、もう集まっとんのか」


「ええ、山車が終わったら、すぐに来られてましたよ。ステラちゃん、ヤーニさん連れてってあげて。せっかくだから、食べていきなさいよ」


 きっと人手が足りないのだろう、町内会の出店で一緒だった奥様方も手伝っている。


 ヤーニさんを2階に連れていき、上から空いてる席を探す。テーブルごとに色々な料理が乗っている。どうせなら美味しそうな料理の乗ったテーブルに座りたい。見回していると、一際大きな肉の塊が目に入る。


 おぉ! あれ美味しそう!


 大きなローストビーフのような肉が乗ったテーブルは、まだ座っている人も少ない。


 私は急いで1階のカウターで炭酸飲料『ルポリン』を受け取り、席に着く。


 肉に近づくと、野菜やキノコが入ったソースから、とてもいい匂いがする。周りには付け合わせのマッシュポテトが乗っていて、これだけでお腹いっぱいになりそうだ。


 私は子牛一頭分はありそうな肉に、ナイフを突きつけると、肉汁が溢れてくる。早く食べたい気持ちを抑えつつ、切り進めたのだが…なかなか切れない。


 やっと半分切れた時、料理を運んでいたお姉さんが立ち止まる。


「何チマチマしてるのよ。貸してみなさい」


 私からナイフを取り上げ、肉の真ん中に突き刺す。そのまま持ち上げて《クーペ》と唱えると、どんどん肉が切れていく。


「ほら、皿貸して。乗せてあげるから」


 皿を渡すと、肉の山が出来上がった。一口食べると、肉汁と一緒にグレイビーソースのようなアッサリだけど濃厚な味が口いっぱいに広がっていく。


「んー、美味しい!」


「元気になって良かったわね! いっぱい食べなさい」


「ありがとうございます!」


 再び、肉に齧り付くと、近くに座っていたおばさんがボソッと言う。


「なんで馬車の前なんかに飛び出しちまったのかね…あんなことがなきゃ、リアンだって…」


 ドンッ


 おばさんの話を遮るように、隣で飲んでいた目の据わった男がジョッキをテーブルに叩きつけた。


「そうじゃねぇ、あの目は…覚悟を決めた奴の目だ」


 男はボソボソと話し出すと、また酒をグイッと飲み、今度は私に鋭い眼光を向けてくる。


「お前は、どんな覚悟で飛び出した?」


 尋問されているような雰囲気に、喉がごくりとなる。


 正直、そんなこと聞かれても、まったく思い出せない。それに、失った記憶は戻ってくる気配すらないのだ。


 私は俯きつつ、答える。


「まだ記憶が戻ってないので、分かりません…」


 視線を上げると、男はジョッキを見つめていた。そして、またボソボソと話し出した。


「感謝しろよ、レブロに。アイツの持ってたエリクサーがなきゃ、死んでてもおかしくねぇ」


「エリクサー?」


「あぁ、万能薬だ。どんな怪我も治せるが、くそ高けぇ。普通の奴に買える代物じゃねぇ」


「そんな薬があるなら!」


 立ち上がった私に向かって、


「落ち着け、エリクサーでも死んだ奴は蘇らねぇ。アイツが来た時は、もう手遅れだった」


 重い空気が流れる中、大きな声が酒場中に響く。


「ギルマスから酒が届いたぞ! しかも上ものだ!」


 その途端、隣でボソボソと話していた男が突然立ち上がり、


「タダ酒だぁあ! どんどん飲むぜぇえ」


 と大声を出しながら、凄い勢いで酒樽へ向かって行った。


 ちょっと変わってる人だったけど…もっと話を聞きたかった。肉を食べながら待っていたが、アル中男が戻ってくる気配はない。


 ルポリンのおかわりを貰いに立つと、10代後半位の青年達がこちらへ向かってきていた。


 ーこ、これは! 出会いのチャンス! 年下…いや、年上彼氏をゲットできるかもしれない!!


 口にソースがついてないか確認し、ルポリン片手に席に戻る。そして、話しかける策を練る。


 うーん、やっぱりここは…定番「取り分け作戦」で話しかけるか!


 すっかり忘れていたが、魔法で肉を切ることができるのだ。私は肉に手をかざし、呪文を唱える。


「クーペッ!」

 

 ……だよね…。肉の表面についた引っ掻き傷を見ながら、うな垂れる。


 すると、後ろから聴き慣れた声が聞こえてくる。


「ステラ、帰るぞ」


 振り返ると、そこにはレブロが立っていた。あんな話を聞いたばかりだけど、せっかくのチャンスを無駄にしたくない。私は居座る覚悟を決める。


「まだ来たばかりだし!」


「もう遅い」


「まだ食べてるし!」


「肉なら家でも食えるだろ」


 あー言えば、こう言うで、全然諦めてくれない。だけど…私だって諦めたくない。


「これ飲み終わったら帰る!」


 と言いながら、ルポリンを握りしめる。


 後ろから半端ないプレッシャーを感じるが、私は負けない!


 と思っていたのだが…あっという間に握りしめていたルポリンが奪われる。


「これが無くなれば、帰るんだな?」


 レブロが一気に飲み干し、空のグラスがテーブルに置かれる。 


「あー! ルポリンが!!」


「よし、帰るぞ」


 空になったグラスが見つめていると、レブロに腕を掴まれる。


 ー絶対に…帰らん!


 手を振り払い、椅子を寄せて、そのままテーブルにしがみつく。


 が、レブロの魔法だろう。私のところだけ、風が吹き始める。


 周囲に助けを求めるが、大人達は知らんぷりだ。向かいに座っている青年達も驚いた顔でこちらを見つめている。よーく見ると…左手の薬指に指輪をしている。


 ん…指輪…んんん、隣の人も指輪してる…その隣も隣も隣もぉおおおーーーー! みんな既婚者やんけーーーーーーッ!!!!


 ガクッと項垂れた瞬間、強風でテーブルから離されていき、


「ウプッ」


 強硬策にでたレブロに担がれ、肉と炭酸飲料の詰まったお腹が圧迫される。


 ーでででで、出るぅ~! こんなところでキラキラモザイクを使う事態にはなりたくない! 口を両手で押さえて、逆流してくる奴らを必死で戻す。


 闘いが落ち着いた頃には、ギルドの入り口まで連れてこられていた。


 はぁ、せっかくのチャンスだったけど…既婚者じゃね…。


 ギルドに残ることを断念した私はレブロに伝える。


「帰るから降ろして」


 なんとかキラキラモザイクを使うことなく乗り切った私は、看守のように見張ってくるレブロの前をとぼとぼと歩く。


 しばらく歩いていると、珍しく神妙な面持ちでレブロが話しかけてくる。


「そんなにルポリンが飲みたかったのか?」


 私はとりあえず同意しておく。「出会いのチャンスを探してました!」なんて言えない。


「…うん」


「そうか、なら今度買っとく」


「…ありがと」


 いつも買ってくれる『ポムジュース』(りんご味)よりルポリンの方が値段が高い。お金が失くなったのは私のせいだから、我慢しないと…と思っていたが、ここはお言葉に甘えておこう。


 「ただいまー」と、家に入るが、すでにクルトもトトルも寝ているらしく、何の返事もない。


 私も寝る準備を済ませて部屋に戻る。


「あー、もう火祭りも終わっちゃったな。これも次の時には着れないんだよね」


 1日着ていた火祭りの衣装を見つめ、この2日間を振り返っていると、あることを思い出す。


「そういえば! 確かこの辺にあったような…」


 いつか着るかもと部屋に移して置いたリアンの服を漁る。大きさは違うが、ほとんどが私の服と似たり寄ったりものだ。


 でも、一着だけ他とは明らかに違う花柄のワンピースがあった。


「これだ!」


 ワンピースのポケットを触ると、金属の感触が手に当たる。


 取り出してみると、片方だけ炎のついたディーミアのペンダントが出てくる。


「これ…どうしよう」


 リアンの旦那であるクルトに渡すのが一番なんだろうけど…わざわざ洋服のポケットに入れて隠していたものだ。へそくりと一緒で旦那に知られたくないのかもしれない。


「よし! ここはもう一人の大人に聞こう!」


 ペンダントを握り、レブロの部屋の前に立つ。ノックをすると、「どうした?」とレブロが扉を開ける。


 いつもと変わらない表情だったが、見つけたペンダントを見せると、怪訝な顔に変わる。


「それはどうしたんだ?」


「前に部屋の片付けした時に見つけたんだけど…母さんの洋服のポケットに入ってたんだ」


「リアンのか…貸してみろ」


 レブロにペンダントを渡すと何かを確認しだす。


 そして、私の目を見て質問してくる。


「ステラ、炎はお前がつけたのか?」


「ううん。最初からついてた」


 その途端、ペンダントを触っていた指がピタッと止まる。


「おじさん?」


「あぁ。これは…俺が預かっていいか?」


「うん、いいけど」


 レブロは憂いを帯びた瞳でペンダントを見つめている。


 少し気になるけど、これで用事は済んだ。後はレブロが何とかするだろう。


「おやすみなさい」と言いながら、部屋に戻ろうとすると、突然腕が引っ張られる。


「このことはクルトには秘密にしてくれ」


 NOなんて言えない雰囲気に、


「うん。わかった!」


 と返事をすると、掴まれていた腕が自由になる。


「引き止めて悪かったな。おやすみ」


 レブロはそう言うと、部屋の扉を閉めた。


 私も部屋に戻って、ベッドに横になる。


 炎がついてたってことは…それって……。


 リアンのことを考えながら、夜が更けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ