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【両想いの魔法陣】 SWEET★FIL ~ 火力最強の非戦闘員!? ~  作者: 三色アイス
第1章 エルドの町
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Re★Start ー 魔法とパン作り

「……いい匂い…」


 小麦の焼けるような匂いで目を覚ます。


「ンン……頭痛い…今何時!?」


 頭を押さえながら窓に視線を向けると、日が昇っていた。


 ヤバい…パティスリーのオープン初日に遅刻なんてありえない!


 私は混乱したまま、慌てて駆け出した。


 そして、バンッと扉を開けると——そこには見慣れない景色が広がっていた。


「こッ…ここどこぉ————ッ!?」


 叫びながら、辺りを見回す。カラフルな三角屋根の家が連なり、まるでヨーロッパの片田舎に似た町並み。行き交う人の中に、普段見かけるスーツや学生服の人達はいない。その上、車やバスが通っている気配すらない。暖かな日差しの元、のんびりとした雰囲気が漂っている。


 だけど、この町にあんな秘密があったなんて…この時は、まだ知る由もなかった。



「父ちゃーん、姉ちゃんが目を覚ましたよ!」


 急に後ろから少年の声が聞こえてくる。


 振り向くと、10歳位だろうか、真っ直ぐに私を見つめている。すぐにその少年の父親らしき男がやってきて、ギュッと私を抱きしめた。


「ステラ、良かった…もう少し寝てなさい」


 私は言われるがまま、再度ベッドまで行く。男は私がベッドに入ると、すぐに部屋を出て行った。そこで私はあることに気が付く。


 あーこれは…夢に違いない!

 寝て起きれば、元に戻ってるはずだ!


 私は目をつぶる。


「…」

「……」

「…………」

「………………ア——ッもう寝れないッ」


 あまりに現実感のある夢に戸惑いながら、起きる前のことを考える。武を追いかけて、その後…何度思い出そうとしても思い出せない。色々考えてみたが、わかりそうもないので、気持ちを切り替え、ベッドから起き上がる。


 私は一番近くの窓に向かうと、ガラスに薄っすらと誰かが映り込む。そこには、クリーム色の長い髪にラズベリー色の目をした少女が映っていた。


 これ…私……!?


 明らか35歳ではない。容姿の違いに戸惑いながらも、少しずつ冷静さが戻ってくる。


 ―よしッ! ひとまず、情報収集だ!


 だが、一通り部屋を見てまわったが、特に重要な情報は得ることができなかった。ここにいてもこれ以上の情報を得ることはできないだろう。意を決してゆっくりと扉を開けると、先ほどの少年が立っていた。


「父ちゃんがさ、姉ちゃんの様子がおかしいから見張るように言われてるんだ」


 遊びに行けなかったからなのか、不機嫌そうな顔でこちらに近づいてくる。私はとりあえず情報収集の為、少年に話しかけた。


「ねぇねぇ、ちょっとこっちでお話しない?」


「…なんか、いつもの姉ちゃんじゃない」


 怪しんでいる少年をとりあえず部屋に招き入れる。何から質問しようかと考えていると突然言葉に詰まりながら、顔を伏せた状態で少年が話し出す。


「あのさ…かっ母ちゃんのことだけど……助からなかったんだ」


 どうやら今の私は1か月前に馬車に跳ねられたらしい。私は母親が庇ってくれたおかげで、一命をとりとめたが、意識は戻らず、母親は酷い怪我でそのまま息を引き取ったということだった。


 思いの外ヘビーな話に何を聞いていいのか、わからなくなってしまった。沈黙が続く中、私は昔読んだ本を思い出した。その本は事故で記憶喪失になった少女が、日常生活を送りながら徐々に記憶を取り戻していくという内容だ。実際に記憶がないのは事実なので、少年にありのままを伝えることにした。


「実はね…私、何にも覚えていなくて」


「え? 俺の名前も覚えてないの?」


「…ごめん…」


 少年は目を丸くして私の目を見つめ返してくる。少し考える素振りをみせた少年は「父ちゃん呼んでくる」と言いながら、部屋から出ていってしまった。


 すぐにバタバタと大きな足音が近づいてきて、扉が勢いよく開いた。父親らしき男に本当に記憶がないのかと確認され、自分の名前すら憶えていないと伝える。男は悲しそうな顔で、記憶以外でおかしなところはないかと聞いてきた。


 んーさっきまで歩き回っていて、痛いと感じるところはなかったな…問題なさそう。


 問題ないことを男に伝えると、ほっと一安心したようで、私の名前、家族の名前、町のことなど色々教えてくれた。


 今の私は12歳で名前は『ステラ』。父 『クルト』、母 『リアン』、弟 『トトル』の4人家族で、仕事は代々パン屋をしている。これまで夫婦で切り盛りしてきたそうだが、今は以前のようには売れていないらしい。そして、町の名前は『エルド』という。


 馬車に跳ねられる前までは近くの学校に通っていて、「明日から学校に行けるか」と質問され、思わず首を縦に振ってしまった。それを見たクルトがトトルに事前に先生に事情を伝えるよう指示を出す。トトルはすぐに部屋を出て行き、一通り話が終わったのか、しばらくするとクルトも仕事に戻っていった。


 私はまたベッドに横になって色々考えていたが、しばらくすると香ばしい匂いが漂ってくる。パティシエの血がうずいた私は、パン工房を見に行きたくなった。


 そろ~と扉を開けると、そこには誰もいない。そのまま部屋を出て匂いがする方に向う。


 どんな工房なのかとワクワクしながら、扉を開けて周囲を見渡すと、そこにはオーブンや窯などはなく、作業台があるだけだった。


 これでどんなパンが焼けるんだろう…。


 不思議に思っていると、クルトがパンの材料に手をかざし、呪文を唱えた。


「トゥルーネ」


 その瞬間、置いてあった材料がふわっと浮き上がり、混ざり始める。粉がキラキラと舞いながら、卵などの材料とグルグル回り、どんどん生地がまとまっていく。


 すごい!! 魔法でパンが作れるんだ!


 私は興奮しながら、パンが出来上がっていく様子を眺めた。


 生地が出来上がたら、今度はパン生地に向けて《クーペ》と呪文を唱えると、パン生地が細かく分かれていく。


 おおお~~~! ナイフもいらないじゃん!


 更に興奮しつつ、パンの出来上がりがどんどん楽しみになっていく。


 最後に《キュイール》と呪文を唱えると、パンの焼けるいい匂いが部屋中に広がっていく。


 グゥ~~~~~ッ…


 パンが焼きあがったばかりのシンとした工房に、私のお腹の音が響く。音が聞こえていたのだろう、クルトが出来上がったばかりのパンを持って、私に近づいてきた。私はパンを受け取ると、そのまま噛り付いた。


 …少しパサパサしたコッペパン?


 正直、あまり美味しいとは言えなかったが、空腹時に食べるものは何だって美味しく感じる。


 お腹がいっぱいになった私は、すぐに魔法を使ってみたくなった。

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