町長からの依頼
私はレブロとの一件以来、学校が終わると、直行直帰で帰っている。今日は授業が延びたので、トトルには先に帰ってもらった。
「はぁ~荷物がないだけで、こんなに楽なんて!」
私は独り言を言いながら、家の近くに差し掛かると、近所のおばさんから声をかけられた。
「ちょっと、ステラちゃん!」
「はい、なんでしょうか?」
「レブロ君、家に戻ってきてしばらく経つけど、その~大丈夫なの?」
「えっと、大丈夫って、どういうことですか?」
私がおばさんに聞き返すと、どこからかおじさんが出てきた。
「クルトとレブロで、リアンを取り合ってたからなぁ」
「ちょっと!! アンタ、子供の前で話すことじゃないわよ!!」
おばさんに怒られるおじさんを見ながら、私の脳内はすでに切り替わっていた。
―そう、『昼ドラ脳』に……。
おばさんが制止するのも聞かず、おじさんが色々語り出す。
~ おじさん小話 パン屋の家族 [抜粋]~
クルトが10歳位の時、母親が亡くなり、代わりにリアンの母親がパン屋の手伝いをしていた。しばらくすると、リアンの父親が突然失踪する。その後、リアンの母親がパン屋に移り住んで、内縁の妻のような関係になっていった。
クルトとリアンは同い年で、レブロは小さい頃は2人にくっついて回っていたが、年頃になると、クルトよりもレブロの方がしっかり者でモテていた。傍から見てもレブロとリアンの方がお似合いだったが、レブロが成人した年に、2人の結婚が決まり、レブロはしばらくすると家を出て行った。
私はおじさんの話を聞きながら、噂好きなのはおばさんだけではないと確信する。おじさんにも気を付けなければ、色々な情報が漏れてしまうかもしれない。様々な感情が沸き上がる中、私の脳内はまだまだ昼ドラ化していた。
帰宅すると、クルトが売り子を担当していた。私がいる時は、私が売り子をしているのだが、いない時は、最近クルトが売り子をしているらしい。
私は昼食を食べ終え、すぐに工房に向かう。工房では、レブロとトトルが2人でパンを作っていた。いつの間にか、トトルは風魔法が上達し、クルトよりも作るのが上手くなっていたのだ。それに、トトルの顔は整っていて、今は可愛い系だが、将来はイケメンに成長する可能性が高い! 2人の様子を見ながら、私の昼ドラ脳が活性化する。
私はクルト似だけど…トトルは……レブロ似!?
レブロとリアンが付き合っていたかまでは、近所のおじさん情報網でもわからなかったが、仲が良かったのは間違いない。のちに、イケメンの弟に乗り換えることだって考えられる。私は2人を見ながら、膨れ上がる妄想を爆発させていると、レブロから声をかけられる。
「ステラ、何やってる? 忙しいんだから、クルトに代わって、早く売り子やってくれ」
「はいッ!」
私は急に現実に引き戻された気持ちで、売り子を始める。
「あ、いつもありがとうございます! メロンパン3個ですね! また、よろしくお願いします!」
いつも通りの行列を捌ききった時には、昼ドラ脳も落ち着いていた。
「はぁ~、今日はなんか疲れた」
「お疲れ、体調でも悪いのか?」
「え? レブロ。ステラ体調悪いの?」
「姉ちゃん、大丈夫?」
座り込んだ私の周りに、3人が集まってくる。私はマジマジと3人を見つめながら、再び昼ドラ脳が活性化するのを感じていると、髭を生やした恰幅のよいおじさんが店を訪ねてきた。
「クルト君、レブロ君。繁盛してるみたいだね!」
「町長! ご無沙汰しています。お元気そうで何よりです」
「今日はどうされたんですか?」
すぐにレブロとクルトが対応する。
「今年の火祭りに向けて、エルドの町の名物を作りたいと考えているんだよ。それで、今話題のメロンパンを作っている君たちの店に頼めないかと思ってね」
「うちに…本当ですか?」
「ああ、領主様も君たちのメロンパンを甚く気に入っていらっしゃるようで、報酬もはずんでくださるそうだよ」
「領主様が!?」
「悪い話ではないと思うんだが、引き受けてくれるかな?」
すぐにクルトとレブロが話し合い、依頼を受けることに決めた。
私はトトルと一緒に後ろで話を聞きながら、いつの間にか昼ドラ脳から解放され、商品開発のことで頭がいっぱいになっていった。




