花畑
んん…いい匂い…メロンパン……?
起きて工房に行くと、レブロがすでにパンを作っていた。早すぎじゃない!? と思った時、クルトも起きたらしく工房に顔を出した。
「おはよう、レブロ。早いな」
いやいや、早いな、じゃないくらい早い。まだ外は暗く、ほとんどの人が寝ている時間だ。
「昨日教えてもらったメロンパンを練習したくてさ。悪いな、起こしたみたいで」
「いいよ、好きに工房を使っていいから。俺はもう少し寝るから、また後で」
……この2人、本当に兄弟?
レブロは、イケメンだからもっとチャラチャラしているのかと思っていたが、すごく真面目だ。どちらかというと、クルトは寝坊してても慌てず開店時間を遅らせるような性格だ。2人の性格の違いが気になったが、私も二度寝すべく部屋に戻った。
朝起きると、テーブルにパンとマフィンとメロンパンが置いてあった。いつものか…と思っていると、レブロが目玉焼きとベーコンを焼いて持ってきてくれる。
今日…ついに朝食に革命が起きました! ありがとう、レブロ様!!
私はレブロに感謝しつつ、朝食を食べ終える。登校時、クルトに授業が長引くことを伝え、3人でお店を回してもらうようお願いした。
授業を終えた後、少し後ろめたい気持ちでギルドへ向かう。扉をゆっくり開けると、すぐに頼れるお兄さんが声をかけてくる。
「すぐに行けそうか?」
「はいッ! よろしくお願いします!」
「そういえば、名前を聞いてなかったな、俺はノワ。よろしくな」
「私はステラです! 今日はご迷惑おかけします!」
挨拶を済ませ、すぐに2人で森へ向かう。森に着くと、前回同様ペンダントを失くした場所を適当に指さす。すると、ノワは指さしたところに行き、呪文を唱える。
「シェルル…ここら辺にはなさそうだな…」
探索系の魔法らしく、森を進みながら、指さしたところでノワが呪文を唱えた。
見つかるわけないのに…。
時間が経つにつれ、一生懸命探してくれるノワへの懺悔の気持ちがこみ上げてくる。上から水をかけられたって文句は言わないッ! いや、むしろかけられてスッキリしたい!! 脳内パニックを起こしながら、少しでも早くペンダント探しを終えることを考える。時間は有限だ、これ以上ノワの時間を奪いたくない。
「もしかしたら、誰かに持っていかれたのかもしれないです。なので、もう諦めます。一緒に探していただいて、ありがとうございました!」
「…諦めるのか? 大切なものなんだろ?」
「…………」
きっと、本当に大切なもの失くしていたら、簡単には諦めきれなかった。ノワの真っ直ぐな強い視線に、思わず目を逸らすと、何かを察したのか、話を逸らしてくれた。
「…ここまで探してないとなると、確かにもうこの森にはないかもしれないな」
「…」
「なら、いい場所に連れて行ってやるよ。せっかく森の奥まできたからな」
俯いている私の手を引っ張り、森の更に奥に進んだ。引っ張ってくれる大きな手に、私の鼓動が早くなっていくのを感じる…いや、走ったせいかもしれないけど…。
しばらく進むと、大きな崖があったが、ノワの魔法で簡単に登ることができた。
「着いたぞ」
ノワの声と同時に、視界には一面の花畑が広がっていた。赤、黄、ピンク…色とりどりの花が咲き乱れ、心地よい風といい匂いに包まれる。今まで見てき中で一番綺麗な景色だ。
「…綺麗…」
知らぬ間に心の声が漏れていたようで、ノワが話かけてくる。
「そうだろ? 俺も教えてもらった時には、感動した。特別な場所だ」
風魔法が使えない私では、きっと来ることはできないだろう。
お礼を言いたくて、振り返ろうとした瞬間、私の頭にポンッと大きな手がのせられる。
「少しは元気でたか?」
急に忘れていた罪悪感と気遣ってくれるノワの優しさで、胸がいっぱいになりながら、私は笑顔で答えた。
「はいッ!」
その後、2人で花を摘み、お礼を言って森の入口で別れた。私は摘んだ花を飾りながら、プリンスのことを思い出していた。
プリンスもあそこで花を摘んだのかな…。




