ギルド
「さぁ、今日はメロンパンの販売日だよ!」
クルトがメロンパン作りに慣れてきたので、販売を開始することになった。
マフィンの時とは違い、最初からどんどん売れていく。見慣れた形をしているからだろうか。その後も順調に売上が伸びていった。
私も学校帰りに森で砂糖を作る日々が続いていた。なぜなら、メロンパンのクッキー部分にたくさん砂糖が必要だからだ。
翌日、学校に行くと森への実習中止の話題で持ちきりになっていた。どうやら、森に火の魔獣が入り込んでいるらしい。
私は連日森に入っているが、一度も見たことがない。実習中止だけの問題だと思っていたが、違っていた。魔獣の討伐が終わるまで、森への立ち入りは禁止で、見張りが立つというのだ。
他クラスの実習中止という他人事だと思っていたが、死活問題だ! 砂糖がなければ、順調に売上を伸ばしているメロンパンが作れなくなる。私は急いでレイラの元に向かった。
「レイラ先生、森に火の魔獣が出るって本当ですか? もう森には入れないんですか!?」
「ええ、しばらくは入れないと思うわ。少し前から、森で魔獣が焼けているという報告があって、火の魔獣の仕業だと思うの」
「焼けた魔獣……」
……犯人は…………私です!
襲ってくる魔獣を手当たり次第、《キュイール》で焼き鳥にしたことを思い出す。そして…私が犯人だと、いつまで経っても討伐されずに森に入ることができない!
「あの…討伐が終わるのを待つ以外に、森に入る方法はないんでしょうか?」
「そうね、冒険者であれば、森に入れるわよ」
―冒険者!!
詳しく教えてもらうと、ギルドにいけば、冒険者がたくさん集まっているということだった。特に、今は火の魔獣討伐クエストがギルドから出されているので、色々なところから冒険者が集まってきているらしい。情報通だなと思っていると、レイラは教師をしながら、冒険者もしているそうだ。
教師と冒険者のダブルワーク…カッコイイ!
この世界の魔獣は、某ゲームのような倒すとお金が貰えたり、アイテムが落ちたりするわけではないが、ギルドからの報酬と魔獣によっては貴重な素材が手に入ったりするらしい。
私は授業が終わった後、森に入る方法を考えながら、教えてもらったギルドに向かう。
しばらく歩くと、年季の入った『ギルド』と書かれた建物が見えてきた。なぜだか、建物自体にすごく傷が入っている。
私はギルドに入る前に、咄嗟に考えた森への侵入作戦を再度心の中で復唱する。
その1.パーティーを組んでいない普通そうな冒険者を探す!
その2.森で落としたペンダントを一緒に探してほしいと泣きつく!
その3.ペンダントを探すふりをして、タトル池で砂糖を作る!
その4.ペンダントが見つからないので、今日は諦めて、明日探したいと泣きつく!
…よしッ、いけるよ、ステラ! メロンパン、そして売上の為だ!
自分を鼓舞しながら、恐る恐る扉を開けると、色々なタイプの人がいた。
……アフロ……モヒカン……アフロ……丸刈り……アフロ……
…なんか、アフロ多いな…あっ普通の人!!
私は急いで普通っぽい青年に駆け寄り、声をかける。
「あの…すみません。お願いがあるんですが、一緒に森でペンダントを探していただけませんか? 昨日、森に行ったときに落としてしまったんです!」
声をかけた青年は、20歳位だろうか。1人でクエストボードを見ていたので、パーティーを組んでいない可能性が高い。青年が振り返り、目が合う。
ダークチョコレートのような髪色に、ピスタチオ色の瞳、長身で『頼れるお兄さん』といった印象だ。
「落としたのはどの辺だ? どんなペンダントなのか教えてくれ。森で見つけたら、持って帰ってきてやるよ」
そうきたか! 私は自分で森に行きたいのだ!
パーティーを組んでいない人を狙ったのは、人数が多くなると、はぐれるタイミングが難しいと思ったからだ。頼れるお兄さんになんとか連れてってもらうべく、私は演技を続けた。
「とっても大切な母の形見なんです! 少しでも早く見つけないと…私…。一緒に森に連れて行ってくれませんか?」
「そっか、それは大変だな。見つかるといいんだが」
頼れるお兄さんに連れて行ってもらえそう! と思った時、チカチカッと頼れるお兄さんのブレスレッドが点滅する。
「悪い、用事ができた。連れて行ってやれそうもないな」
私はガッカリした気持ちでいると、頼れるお兄さんが他のパーティーに話しかける。
「悪い、俺の代わりにこの子を森に連れて行ってやってくれないか? 母親の形見を森で失くしたらしいんだ」
頼れるお兄さんは、そう言ってギルドを出て行ってしまった。
すぐに頼まれた3人組のパーティーが事情を聞きにきたので、私はさっきと同じことを説明し、森へ連れて行ってもらえるようにお願する。少し考えていたが、なんとかパーティーに入れてもらえることになった。
パーティーに入れてくれたのは、火属性のファイター『ガイ』、水属性のプリースト『イルミーナ』、風属性のレンジャー『アーネス』の3人組だ。私は知らなかったのだが、森に入るにはギルドへの申請がいるらしい。申請書を貰いに行ったガイが戻ってくると、
「ステラちゃん、ギルドの申請書に役割とか使える魔法とか書かないといけないんだけど、どんなことできる?」
「えっと…」
「あ~、例えば、風魔法で攻撃できるとか、回復魔法が使えるとか、何かないかな?」
「……」
火魔法で敵を倒します! なんて言えないな。
「ガイ、あんたバカなの? まだ子供なのに、そんな魔法使えるわけないでしょ? 何考えてんのよ!」
「ガイは何も考えてないんじゃないかしら?」
見かねたアーネスとイルミーナが話に入ってきた。ガイは、頭を掻きながら、反論する。
「人は見かけによらねぇっていうからさ、一応聞いとこうと思っただけだよ! じゃ、非戦闘員ってことで、申請書出してくるわ!」
「ステラちゃん、ごめんなさいね。ガイはいつもああなのよ、火属性からかしらね」
3人のやり取りを聞きながら、私は思ってしまった…火属性って…言えない!
申請はすぐに終わり、4人で森に向かった。私は帰りのことを考え、葉っぱでパンパンにしたマイバッグを持ってきているので、とても歩きにくい。途中ガイから持ってあげようか? と声をかけられたが、軽いの大丈夫と断っている。
「ステラちゃん、どの辺で落としたのか覚えてる?」
「確かこの辺だったと思うんですが…」
私は適当なところを指さす。すると、アーネスが風魔法で周囲の葉っぱをブワッと巻き上げた。
「この辺にはなさそうね」
私は探すふりをしながら、3人から徐々に距離をとっていく。その時、小型の魔獣がガイ達の前に飛び出してきた。すぐにガイが火魔法で倒したが、その隙をついて私は何とかタトル池にたどり着くことができた。
「すぐに砂糖作らなきゃ!」
私はいつもより強火で砂糖を作り、マイバッグから葉っぱを捨てて、砂糖を押し込む。
すると、ガサガサッといつもより大きな音が鳴る。私が身構えると、ガイ達の声が聞こえてくる。もし魔獣を《キュイール》で倒せば、焼き鳥騒動の犯人が私だとバレてしまうかもしれない! それに、非戦闘員ぶっているのに、魔獣を黒焦げにするところを見せたくない! 急に不安になり、音のする方から距離をとる。
―逃げよう!
さっと砂糖の入った重いマイバッグを抱えて逃げようとすると、今まで見たことのない、大きい虎のような魔獣が飛び出してきた。
―いつもの鶏じゃない!!
本能なのか、逃げる私を追いかけてくる。追いつかれる! と思った瞬間、ガイの放った魔法が魔獣に命中する。私は一目散に3人のいるところを目掛けて走ったが、途中転んでしまった。
「ステラちゃん、大丈夫? ケガはない?」
イルミーナが心配そうに声をかけてくれる。大きな怪我はなかったが、膝や手をすりむいていた。
「いたたた」
「ちょっと待っててね、キュア…これで大丈夫!」
おおお~~~! 初めて回復魔法みた! すごい!
膝や手の擦り傷を見ると、綺麗に治っている。そして、私が回復魔法を受けている間に、ガイとアーネスが魔獣を退治していた。ちょうど退治されたの魔獣が火属性だったこともあり、今回の元凶だということになった。
森の入口までくると、3人はギルドに報酬をもらいに行くというので、私はその場で別れた。別れ際、イルミーナから《キュア》の代金を請求されてびっくりしたが、今回はギルド報酬がでるからと、なんとかチャラにしてもらえた。
有料なら、先に言って欲しい…水属性の人は、しっかり者が多い気がする…。
翌日、レイラに話を聞くと、数日で森への立ち入り禁止も解除されるとのことだった。
私は安心するのと同時に、今後は魔獣を強火で焼き尽くす! と強く誓った。




