手土産の依頼
私はこっそり家に戻り、マイバッグを隠すと、工房に向かった。工房に入ると、すぐにクルトから売上報告があり、いつの間にかオーナーと従業員という関係が出来上がっていた。
私がクルトから報告を聞いていると、近所のお爺さんがマフィンの賞味期限について聞いてきた。話を聞くと、エルドの町から3日程かかる孫娘の家に行くそうだ。その時の手土産を探して、マフィンについて聞きにきたのだという。
3日か…通常なら2、3日は常温で持つが、この辺は暖かいので、安全を考え2日が限度だろう。せっかく持っていたマフィンが腐っていては、渡す方も貰う方も可哀そうだ。賞味期限を延ばす魔法もあるようだが、この町には使える人がいないらしい。それに中級風魔法で、買うにはお金がかかる。
日持ちするお菓子か…うーん、やっぱりクッキーかな。1週間は持つはずだし!
お爺さんの出発日を確認し、しばらくお土産を買うのを待ってもらうことにした。私はさっそく今日作った砂糖を使い、クッキー作りに取りかかる。と言っても、クルトが作るのだが。
通常クッキーは、薄力粉で作る。色々な食材を扱っている店に聞いてみたが、この町にはなく、他の町からの取り寄せになる為、お金が高くなるとのことだった。コストのことを考え、しばらくは強力粉で作るしかない。
強力粉のクッキーは、作ったことないけど、まずはいつも通りに作ってみようかな。
クッキーの材料は、薄力粉(今回は強力粉)、卵黄、砂糖、バターで作ることができる。砂糖は、レイラと作ったとクルトには伝えている。誰かに教えて、みんながタトル池で砂糖を作りだしたら、すぐに池が干上がってしまう。
クッキーの作り方を教えると、クルトはマフィン作りで腕が上がったのか、手際よく作ってくれた。出来上がったクッキーを一口食べると、
「う~ん、味はいいけど、ちょっと固いかな?」
日持ちさせるには、なるべく水分がない方がいいが、クッキーのサクサク感は欲しい。
今度は、粉末状のタトルの実を入れて作ってみる。
「おお! さっきよりサクサクになった! これなら間違いなく喜んでくれそう!」
クルトも「うまい!」と言いながら、食べている。
その後も何度も試作品を作り、満足のいくクッキーが出来上がった。
後日、依頼主のお爺さんにクッキーの試食をしてもらい、先に代金を受け取った。お爺さんに渡すのは、少しでも日持ちさせるために出発日の予定だ。
お孫さんに喜んでもらえるといいな…。
出発日の早朝。
お爺さんが受け取りに来たので、クッキーを渡す。店の前でお爺さんを見送り、工房に戻ると、クルトから売上の相談があった。
「ステラ…売り上げのことなんだけど…」
元々パンの売り上げは少ないが、マフィンの売り上げも更に減ってきているということだった。クッキーを販売しようかと思ったが、人手が足りない。生地を薄く延ばして、小さく切って焼かないといけないクッキーは、マフィンよりも手間がかかるのだ。マフィンで持ち返したとはいえ、今の我が家に人を雇うほどの余裕はない。
よし! 次のブームを考えるぞ!




