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地味なサイドバックの悲願  作者: 確かな嘘
8/9

親善試合 オランダ戦

試合の翌日の今日は、試合に出ていない面々と出場時間の少ない面々は、汗を流しているが、青山らはリカバリーだった。


カズは何故かのハッスルをし、汗を流す面々に加わり、その面々を扱くという奇妙なことがあったのと、青山のインタビュー事件以外は静かに過ぎた。



インタビューを終えた青山は専門ドクターの岡田とリカバリーのためのケアをしていた。前半だけであったが試合に出た以上は、翌日の練習で汗を軽く流し、岡田とリカバリーのケアをしっかりとするのが青山の普通だ。他の選手たちは軽いリカバリーの後は各々がリラックスしている間に体を隅々まで丹念にケアしているのがベテランの証だ。



なお、怒られるので、菅、神山、大沢、畠山の出場したレジーナ組はもちろん、ベテランの近田は付き従う。ケアを怠る奴は死刑とアイアンフィンガークローを受ける可能性を避けるためだ。なお、練習でハッスルしたカズもケアに付き合った。この辺を怠らないのが50に近くても動ける理由だった。



「畠山、管、神山、大沢はいいだろう。近田も大丈夫だ。行っていいぞ」

岡田の言葉にそれぞれが部屋をウキウキして出て行く。ミーティングまでの2時間はフリーだった。



「何で、ケアより自由時間かね。引退したらいくらでもあるのに」

「まぁ、若ささ」


「俺は若い時もそんなのなかったけどな」

「青が変だ」


「そうかな。岡田さん。カズさんは出会った時にこんな感じだったよ」

と関係ないカズにふる。


カズは急な展開に突っ込む。

「おい、俺は若い時はアップとダウンは真剣だったが、こんなおっさんくさいことはしてなかったぞ」


「そうなんすか。カズさんは体のケアを人一倍なされるから、若い時からちゃんとなされてたのかと思ってました」

「普通よりはしてたけどよ。こんなんは若いうちからしねえよ」


「まぁ、畠山らも軽めにしかしてないからな。近田はしっかりだけどな。あいつはもう少しケアに真剣になってほしいもんだ」

「カズさん、あいつにも説教を!」


青山は結構、午前の練習の前の説教というより、その後のインタビューがきつかったので、近田にも苦労をさせようと考えていた。



「まぁ、言っておくよ」

「キツく言ってやってください」


そう、強く推す青山に、(こいつ、インタビューと説教が相当堪えたんだな)と感じたカズは今日は優しくしようと後でラモンらに伝えることにした。


そのおかげで、夜のラモンらの謎の労いに余計に疲れた青山だった。人を嵌めようとすると天罰が下るとはこのことだった。



翌日以降の日本代表はきっちりとシステムのうまくいかなかった所の修正に時間をかけ、次の試合に進んだ。



親善試合第二試合目はオランダだった。オリンピック前の最高の相手にマスコミ、ファンは期待した。青山はベンチスタートとなった。


試合はまたもや苦しい立ち上がりで前半30分までやられたい放題であった。オランダはポゼッションを高めつつ、サイドからの攻撃を中心に攻めてくる。特に左ウィングの選手が技術も高く、足が速い。これに手を焼き、右にポジションを取った板垣、三芳のコンビがボロボロにやられていた。



前半32分についに失点をする。やられたのは散々にやられていた右ではなく、左サイドバックに入った橋元という選手だった。所属するチームではどちらかと言えば3-6-1ウイングバックを基本にする選手で守備も攻撃もいいが、サイドバックの守備はそこそこという選手だった。専門じゃないだけにそこを責めるのは可哀想というもの。



橋元が抜かれたことでバタバタした守備陣が崩され、近田がシュートを一度は防ぐものの、弾いたボールを拾われてセンターフォワードに決められた。



痛恨の失点にファンは強豪には勝てないのかと失望する。日本サッカーファン、マスコミのお得意技、掌返しが発動した。


ツイルターは日本はやっぱり弱いのハッシュタグで溢れる。しかしながらそれでも粘り強く戦う日本代表は前半の残りを崩れることなく、1―0という最小失点で切り抜けた。


一部の、いや青山のファンという玄人サッカーファンはよくあそこで崩れなかったとツイルターにあげるも、他のサッカーファンにサッカーを知らないのかと叩かれるという謎の現象がハーフタイム中に起きた。


サッカーを知らないのは多数の方。日本のサッカーとはこんなもん。本当に弱いのはサッカーファンの頭の中である。日本に本当の意味でのサッカーファンは少ない。殆どがファッションファンばかり。それで金が協会に入るので、協会はそう言ったファンに媚を売るというのが最悪の日本のデススパイラルだ。




後半、ヴァンゼムは青山を投入する。青山は前半のメンバーは良かったけどなと思っていたが、出る以上は頑張ろうと思う。


後半はオーバーエイジが近田と青山で、キャプテンは近田という状況だ。近田はメンバーを鼓舞した後で青山に託す。このチームは青山のチームとなり始めていた。



「おいおい。お前ら顔が暗い。前半もいい試合してたよ。オランダは強いからね。ある程度やられるのは仕様がない。その状況で崩れなかっただけで賞賛に値する。でもそれじゃあ勝てない。じゃあ、どうすんの?」

「・・・」


「はぁあ。ダメだな、お前ら。プロだろ?プロは勝てるためにできることを全てやるの。それがプロ。できることもしないで負けるのはアマチュア。やる?やらない?」

「やります」


管が言った。青山はニヤリとする。今日初レギュラーでプレスを頑張っているが、それ以外できないでいるFW の管、FW としてはボールも来ないという辛い状況でも、強く「やる」と言った。その管の成長は儲けもんだなと笑う青山だった。



「よし、じゃあできないことはやめようぜ。高い位置からのプレスは禁止、センターラインを超えた時からプレス、そしてカウンターだ。いいな?」


「でも、それじゃあ監督のサッカーではない?」


「おい、三芳。監督がいつ監督の教えたサッカーだけをしろと言った?お前で判断するサッカーをしろと言わなかったか?基本はゲーゲンプレスと可変システム、でも選手の判断が優先だと言ってたぞ」


「確かに」


「さっきもロッカールームでそう言ってたよな?」

「はい」


三芳は確かに強く返事をする。



「だったら、できる状況まではやらない。できる状況になったら監督のサッカーで決める。いいか?」

「おおおおおう」


「よっしゃ、行こう!」

「「「「「おおおおおおお!」」」」」




そう円陣を終わり、チームは動き出す。キックオフはオランダボールスタート、長くポゼッションするオランダ、日本のファンはあいも変わらず攻められる日本にため息ばかり。


オランダはサイドチェンジやボランチとセンターバックでのパス交換で日本を揺さぶり、縦パスをサイドに出してクロスへとつなげていく。



それでも日本は前半と変わり、センターライン以降でのプレスという徹底した戦術でオランダの攻めを一向にゴールエリア内に入れない。青山、畠山、神山を中心に、オランダがする前線への縦パスへは厳しいチェックを粘り強く行い、得点に繋がるパスを跳ね返し、得点せないように守る。


これがハマり後ろに安心したことで、前線も少しずつ余裕を持ち始め、プレスを効果的に使い始める。するとオランダは中々、ボールを日本側の陣地では繋げなくなって来る。




この状況にツイルト、会場のファンの声が変わり始める。


あれ?オランダが攻めあぐねていないか?そういうツイルトが増え、会場のファンも少しずつため息が減る。




そして、オランダは攻め疲れを見せ始める。青山はニヤッと笑う。攻めても攻めても点が入らないというのは精神的に来るものがある。オランダはついに破綻を迎える。


管のプレスでオランダDF のパスが乱れる。すると、それを三芳と、ボランチの斎東がプレスをかけて、神山が奪う。これでカウンターが発動する。



神山は青山にパスをして、自分は上がる。システムの通りの位置で得点を奪う形で行く。そんな意思の籠もった神山の動きにチームは連動する。ボールを受けた青山はここで、オランダのお株を奪うサイドチェンジを入れる。


反対サイドに後半投入された久保田がそれをトラップして橋元が久保田を追い越し、久保田は橋元の欲しいところに最高のパスを送る。



橋元はそれを受けて、フリーで左サイドを突破する。オランダの右サイドバックは攻めたがりで、守備は下手だった。前半、橋元はこいつにやられた。


ウィングが囮でその奥のサイドバックに突破されたのが橋元にはかなり屈辱だった。それを同じようにやり返す橋元、サイドをえぐり、中に侵入する。するとゴールエリアに突っ込んできた神山がフリーになる。



そこに橋元からピタッとパスが通る。神山は流れるように右足を振り抜く。放たれたシュートは一気にゴール右隅へ。それをオランダのキーパーが何とか防ぐが管がセカンドボールを詰める。



管がボールを取った位置は右のゴールポストから1メートルほど右のタッチラインより、シュートコースがない。


しかし、そこに聞き覚えある、青山のよく通る声がする。

「管、後ろ」


管は振り向くと、三芳がいる。青山の声に反応した管は反転から三芳にパス。



三芳は絶好の位置でもらい躊躇うことなく左足を振り抜きシュートをした。




『ゴール。ゴール。ゴール。三芳選手のシュートがゴールに突き刺さった。日本が後半29分ついに同点に追いついた』


という実況が鳴り響く。



三芳は管と共に青山の元へ走って行く。そして青山は、おいこっち来んなという顔でいる。それでもお構い無しに三芳と管は青山に抱きつく。そして遅れて他の選手たち、控え選手たちが青山に抱きついてきた。


「俺は点取ってねえ」


そう、青山は叫ぶが関係ない。青山の作戦で粘り強く守り、そして取った得点にチームメイトは青山に抱きつく。



「うげえええ」


と変な声を上げる青山は照れ笑いをするも、代表メンバーは関係なしに喜び合う。



そしてそれが終わると、試合は再開される。オランダは移動の疲れと失点によりモチベーションが下がり、攻撃を上手くできない。日本もここまでの必死な守りの疲れが出て、攻撃を繋げられない。青山は適度にチームの潤滑油としてバランスを取りながら攻撃を活性化させるが、力及ばず、引き分けに終わった。


それでもマスコミは大騒ぎになる。ファンもツイルトがすごい。



青山は流石にヒーローインタビューは無しでホッとする。そこにラモンが来る。

「みつ、後半はよくやった。うまくチームを率いてくれた」


「ラモンさん、たかだか親善試合ですよ。これからが本番です。まだまだですよ」

「そうだな。みつ、本番も頼むぞ」


「ういっす」

そう言い、青山はロッカールームへと引き上げて行く。他の選手たちがピッチで喜んでいる中で青山は早めのロッカールームへの帰還だ。



ロッカールームでは岡田が待っていた。

「青、大丈夫か?」


「ええ、まだいけますよ。体はやっぱきついっす。そう遠くないうちに引退かな」

「そうか。2、3年前からお前の体が悲鳴を上げ続けているのは気づいていたが」


「まぁ、10年以上もほぼ試合に出ていますしね。管とかいい若手も出てきた。今回は俺も活躍してチームの名前を売った。後は五輪で活躍したらスポンサーも少しは金くれるっしょ。ロートルはそろそろかな」

「そうか」


青山はスターの引退、2部落ちという状況でチームを一身に背負ってきた。それがどれほどのことか?休むことは許されず、ケアをしっかりして、練習でも後輩を引っ張るために先頭を走る。そして試合ではキツイところをしており、ほぼ全ての試合に出る。



それが青山光吉のサッカー人生だ。このチームに引っ張りあげてもらったからとレジーナに恩を返し続ける。そうしてなければもっとすごい選手になった。


これはレジェンドの総意だった。1人に背負わせてしまった。そう思うレジーナのOBは多い。そんな中での代表選出だったために皆が喜んだ。



強い、頑固、天才という言葉が彼には似合う。



巫山戯ていることも多い。試合では飄々としている。サッカー観もおかしい。それはチームを1人背負ってきたからこそ、どの試合も勝つ。そうしないとチームがなくなるという思いからできたもの。


だから、プレッシャーに負けないように巫山戯て、飄々として目立たない。目立てばこのチームから自分は去る。


会社に売られる。そういう感覚で試合してきた。



ヴァンゼムが青山を20の時に海外に連れていけば、そうはならなかった。でも彼は2部落ちやラモンらの引退を経験した。それから圧倒的な責任感を負う。それを知っているのは風田やカズ、ラモン、鉄、岡田くらいだ。だからこそ誰よりも目をかけている。



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