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地味なサイドバックの悲願  作者: 確かな嘘
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再会

青山がインタビューを終え、クラブハウス内の荷物の整理をして、自宅に帰ろうとしていた時、ある人物が青山を訪ねてきた。



それはレジーナのレジェンド、ブラジルから帰化した選手だったラモン・ロイとキングこと三島一貴だ。

「あ、お久しぶりです。ラモンさん、カズさん」

「よお、青、やっとか」


「カズさん、ありがとうございます。やっと代表入りしました」

「そうだね。みつも代表入りしたよね。五輪だけど」


「ラモンさん、その五輪だけどを強調するのはやめてもらってもいいですか?」

「ははは。30になって五輪代表入りおめでとう」


「だから、五輪を強調するな」

「あ?」


「すみません。ラモン教官」

「うむ」


この2人は新人の時の青山を厳しくも優しく指導した人である。青山の性格が捻じ曲がっているように見えるのはこの2人のせい。



「そうそう、私もコーチとしてついていくから」

「ラモンさんが?」


「ああ。カズはスペシャルアドバイザーだって。コーチの話を現役だからって断ったんだよ」

「ああ、カズさんらしい」


「そうだろう。青、俺はまだ代表入りできるぜ」

カズが自信満々に言う。青山はまだJP2で活躍できるカズは天才で、怪物だと常々思う。もう48歳にもなるのに、まだ一年に10試合は出場できるカズは青山にとって尊敬する選手である。



「でしょうね。カズさん、30超えても動ける方法を教えてください」

「青、何だ。もう引退か?」


「いや、このタイミングではしないですよ」

「そうか。お前の“唯一”の栄光の時だもんな」

「唯一と強調しないでください」


レジーナのレジェンドの前で、現在のレジーナのアンタッチャブルで、王である青山もタジタジである。



「あ、そうだ。中谷くん、畠山と管、加藤、それに近田を呼んできて」

「はい」


青山の近くで控えていたお付きの人である広報の中谷に若手を呼んで来させる。



中谷はチームスタッフの中でも、青山の1番の家来であり、最も青山のために行動しているスタッフである。特にインタビューに関して青山がキレるタイミングを理解して、そうならないように、できる限りインタビューを入れない、長くしない、マスコミを青山に関わらせないというのを徹底している。入社したのは7年前で青山と同い年だが、下っ端扱いである。




そして、呼ばれてきた面々がカズやラモンに挨拶する。

「まず、こいつが畠山で今回の五輪代表のDFの要になるでしょうね。そのうち代表入りしますよ」

「おう、畠山君はいい守備するからね」


「うむ。ビデオで見たよ。いいプレーだ」

「ありがとうございます」


畠山はレジェンドを前に恐縮している。


(俺の前では恐縮しないくせに、あとでいじめよう)


そう青山が心で決めているとは知らずにカズ、ラモンに褒められ喜ぶ畠山、アイアンフィンガークローあたりのお仕置きがが決まった。



「ついで、こいつが今年入ったばっかで代表入りした奇跡の男、管です。こいつ大学時代は無名なのに、うちに入ったら代表入りとか超ラッキーボーイです」


「管です。みつさんの教育のおかげで日々成長しています。ラモンさん、カズさん、よろしくお願いします」


「ああ、君のヘッドはいいね。迫力がある」

「それにポジショニングもいいよ」

カズ、ラモンが褒める。


「ありがとうございます。みつさんには怒られてばかりですが」

「青は基準が厳しいからね。基本欧州で活躍できるレベルを求めるから」


「まぁ、そうなるよう、みつに教えたのは私とヴァンゼムだけどね」

「ははは。あの時の事は思い出したくもないです」


「ぷっ、青が良くキレてラモンに食ってかかるけど、逆にボコボコにされるのは日常だったよね」

「そうだね。鉄がさらに蹴りまくってたからな」


「う、鉄さんは五輪代表のコーチじゃないですよね?」

「ああ、鉄は入ってない」

「よかった」


管は、まるで夢かのように青山の様子を見ている。同様に畠山らも。青山がいじめられていたというのは衝撃の事実だ。今の青山は正反対でいじめる方だ。


まぁ、それでも若手に根気強く教えてくれる青山を管も、畠山も尊敬している。特に管にとってはプロになって知った事が多すぎるほど、今までと比べものにならないほどに成長できたので、青山に出会えたことに感謝している。



「まぁ、次は加藤っすね。こいつは今回代表入りしなかったけど、今のままでも、いずれは代表入りくらいまでは行きます。特に右足の技術、守備はなかなかです。覚えておいてください。メンタルが弱いんで、鉄さんあたりに鍛えてもらいたいですが」


「臨時コーチでも頼んだら?言っておこうか?青が鍛えてほしい若手がいるって言ってたと伝えるよ」


「そうすか。オリンピック期間に頼みたいですね。ただ、俺からって言うのは無しにしてもらえます。あとで、『俺に物を頼めるほどに偉くなったか?五輪代表様よ〜』とか言われて蹴られそうです」

「するね」

「するよ。みつは蹴られる」


カズとラモンが笑う。加藤は青山が恐れる鉄こと浜谷一鉄が来るかもしれないことに戦々恐々である。




「まぁ、最後は知っていると思いますが、近田っす。まぁ、早く代表入りすべき選手です。川下さんより全然いい選手っすよ」


「そうだろうね。JP2ではNo. 1だよねー」

「ああ。だろうな」


「あんま、調子に乗せないでください。練習を頑張りすぎるんで。真面目すぎるんですよ。いいやつだし、才能あるんすけどね。そろそろ、いい歳だからほどほどを覚えてほしいくらいっす。歳を食ったら、体を整えることも仕事と口すっぱく言ってるんすけど」


「そうだね」

「そうだぞ。近田」


褒められてウキウキして練習したくなっていた近田だが、レジェンドの言葉を真摯に受け止める。今日はこれ以上は練習しないと決めた。



青は紹介を終えて、畠山らを下げさすと、カズらに向かって話しかける。

「カズさんも、ラモンさんもこれから暇っすか?飯でもどうですか?」


「ああ、それを誘いにきたんだよ。ヴァンゼムから青を連れてこいって言われたんだよね」

「そうだったな。カズ。みつ、行くぞ」


「承知。カズさんたちは車っすか?」

「いや、飲むだろうからタクシーだ」


「自分が運転します。俺の車で行きましょう。俺は飲まないっすから」

「青は、酒まだ止めてんのか?」


「筒井さんの教えっすからね。一年で飲むのはシーズンの終了日くらいっすかね」

「そうか。筒井さんの。まぁそれがいいよね」

「だな」


こうして、話をやめて駐車場で青山の車に乗って、目的地に向かい、ラモンたちの指示で、あるホテルに入って行く青山らであった。そのホテルは先程の会見のあったホテルである。




豪勢なドアを開けると、白髪混じりのフランス人ヴァンゼムとその通訳のイケメン長身の40代の男、ダバデアがいた。

『よぉ、ダバオ、老けたな』


「青、日本語で話せよ。あと、ダバオと呼ぶなといつも言っているだろう」


「なんだよ。ダバオ。気にしてんのか。イケメンは老けてもイケメンだろう。ダバオ」


「ダバオ、ダバオと言うな。気にしてるのは老けたことじゃない。ダバオという呼び名だ」



ダバテアがダバオと呼ばれるのを嫌うのは、ヴァンゼムが東京レジーナにいた当時、通訳としてきていたダバデアを鉄こと浜谷一鉄がダバと呼び、青山がダバオと呼び始め定着したのだが、これを漢字でどう書くかという会議を鉄、カズ、青山でしたところ、駄馬王と書くことに決まり、その意味を知ったダバデアが怒ったという事件に起因する。


ダバデアが怒ったと言っても、当時のレジーナのアンタッチャブルであるカズ、鉄、それにラモンがそう呼んでいるおり、チームの期待の若手である青山もそう呼んでいれば、それを覆すことなど一介の通訳には無理だった。ヴァンゼムはそんなことを気にしないので、訂正に協力しない。



『青、座れ』

『ああ、ヴァンゼム』


『今回、君を呼んだのは、今回に君の全てをかけてもらうためだ』

『おい、俺をすり潰す気か?』


『最近のお前のプレーを見て、そろそろ限界に近いだろう。どうせ、レジーナでコーチ、末は監督になるんだろう?ならば最後のチャンスに全てをかけろ』


『ふざけんなよ。てめえが海外に呼ばないからだろうが』


『いや、青を獲得してほしいと伝えたが、お前をアーシオンに連れて来るのは無理だった。確かにヨーロッパでも中程度チームならお前を呼んで活躍させることはできるが、アーシオンでは首脳陣を納得させられないから取れん』


『わかっているよ。俺じゃあ、技術でも、身体能力でも欧州のトップは遠い。俺くらいの基礎能力じゃ、どんなに戦術眼があっても欧州のトップにはいけない』


『いや、お前なら活躍できる。だが、いきなりアーシオンが取るというのは無理だった』

『実績不足ってか?』


『ああ』

『そうか』


フランス語を青山が話せるのは、ダバオに教えてもらったからだ。同様にフランス帰りのカズ、ダバオに習ったラモンも話せる。



『で、私の提案は納得したか』

『理解したけど、納得できねえ』


『そうか、なら今回は外すことになる』

と、ヴァンゼムから厳しい言葉が飛ぶ。



それに待ったをかけたのがレジェンドたち。

『おい、ヴァンゼムよ。それは話が違うぜ。それなら俺は降りるぞ』

『カズ』


『私も降りよう』

『ラモン』


ダバオが2人を注意する。



『うるせえな。ダバオ。言っとくが、俺が今回受けたのはバカの青がやっと代表入りするって言うから、今回の五輪でメダルを狙えると思ったんだ。すっと協会や代表監督には青を入れろって言ってきたのによう。活躍してねえとかふざけた事言いやがって。こいつほど有能な選手は欧州でも見たことねえぞ』


『ああ、カズの言う通りだ。一緒にプレーした中で、これほど上手い選手を見たことがない。始めて見たときにみつが成長したら引退しようと思わされたくらいだ。日本の未来はみつにあると思ったぞ』


『カズさん、ラモンさん』


『鉄はお前のプレーを初めて見た時に俺は下手すぎだなって呟いてたな』

『ははは。ラモン。それは言っちゃいけねえって言うやつだぜ』


カスが笑う中、ヴァンゼムは渋い顔をしていた。



思い詰めたかのようにヴァンゼムは話し出す。


『わかった。だが、青、全力を出せ。最近のお前はセーブしてるだろう?』


『う?そうだよ。ベテランになっちまったからな。頭使ってやらねえと引退になっちまう』


『だが、お前にとって最後のチャンスだ。わかるな?』


『わかったよ。すり潰すのはさせねえけど、全力は出してやる』

『ならいい』


こうして、話し合いを終え、昔話に花を添えながら、5人は仲良く飲み食いを始めた。なお、途中から鉄が来た時は青山の顔が青ざめ、その後に筒井が来た時は青山が涙した。




筒井が来た時の話だが

「てめえ、みつ、俺が来た時は喜んでなかったのに筒井さんには喜ぶのか?」


「鉄さん。鉄さんに会えて喜びました。でも筒井さんは俺の中で神なんです。しょうがないでしょう。同じポジションで、世界一憧れた選手です。その人に久しぶりに会えたら喜びます」


「どれくらいぶりだ?」

「一年ぶりくらいですか?」


「俺とは?」

「三年ぶりくらいですかね?」


「てめえ」

青山にアイアンフィンガークローをかける鉄。苦しみの表情を浮かべる青山。10年前の光景が再び繰り返される。



「鉄、そのくらいしろよ」

「筒井さん」


鉄が筒井を見て、息を吐く。その瞬間にアイアンフィンガークローが緩まる。筒井は鉄を宥めるように話しかける。



「まぁまぁ。鉄。いいじゃねえか。みつもお前の事は尊敬してんだろう」

「はい。鉄さんを尊敬しています」


青山の返事に顔を歪め、怒る鉄。

「てめえのは軽いんだよ」

「痛い、痛い」


再び強くなるアイアンフィンガークロー。またも筒井が止めに入る。



「ほら、一杯」

「すみません」


筒井は2人を仲介するかのように、鉄に酌をする。鉄はアイアンクローをやめ、両手でコップを持ちビールが注がれるのを持つ。体育会系ならではの光景であった。



それを見てニタニタと笑うカズ。そのカズを見て焦る青山。カズは爆弾を投下する。

「そういえば、鉄、青が鉄に臨時コーチを頼みたいって」


筒井の酌が終わり、一口つけた鉄は青山を睨む。この世の終わりが来たと焦り、冷やせを流す青山。



「なんで、俺が青にコーチを?」


「いえ、レジーナの後輩にセンスと技術はあるんすけど、メンタルの弱い奴がおりまして、鉄さんの強い心を叩き込んでくださればと愚考した次第であります」


「ほう。五輪代表様は俺に物を頼めるほどにお偉くなられましたか?」


と睨む鉄。ほら、言われた。と青山は思い顔を顰める。カズとラモンはニヤッと笑う。



「いえ、私めでは力不足でありますからです。我が師匠、浜谷一鉄さんにしか不可能ではと愚考したであります」


「そんなにメンタルが弱えのか?」


「はっ、ブラッドの高速FWにプレスをかけられた程度で慌てて雑なパスをサイドバックに流すほどです」

「はっ?なんだその軟弱者は?」


「加藤と言います。鉄さんと同じセントラルMFです」

「ほお。そいつは。五輪期間にお願いしたいと言う話か?」

「はっ」


「わかった。上に通しておけ」

「はっ」


と、加藤を生贄にした青山は冷や汗を拭う。そんな様子を見てヴァンゼムは変わらないなあぁと微笑む。




その後は和やかに飲み会が終わり、青山は二次会という地獄に鉄、カズ、ラモンにドナドナされていく。車で来ているので、飲めないのに。行くのは定番のカラオケである。


カズは往年のアイドルの歌、ラモンはラテン系の洋楽、鉄はバリバリの演歌を歌う。それを合いの手を入れて盛り上げるのが青山の仕事だ。このレジェンドたちは東京で飲む時は必ず、青山を呼ぶ。基本的に当時のレジーナの後輩で最も可愛がられていたのが青山だった。この3人がレジーナにいた時は青山は未成年だったが。


なお、二次会には、ヴァンゼムとの飲み会に関係なかった北崎、武井も呼ばれた。青山と比べれば遥かに先輩の北崎、武井は俺を呼ぶなと青山に文句を言ったのはその後の話だ。だが、青山は拒否権など持ち得ていない。カズが電話した時にもう抑えられなかった。


そして、それがお開きとなり、青山は家路に着いた。


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