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地味なサイドバックの悲願  作者: 確かな嘘
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選考結果

それから3ヶ月近くがたったがJP2でレジーナは調子がいい。7勝1敗1引き分け。優勝候補のブラッドが開幕戦で転けて、そのあとも調子が上がらないという波乱気味のJP2リーグの首位にレジーナが立っている。



そんな最中、日本で行われるオリンピックのサッカー代表が発表される。数試合をこなし、本メンバー選考を終え、オリンピック本番を迎える代表であった。この代表は少し曰く付きである。日本は関係なくオリンピックに出れるが、五輪のアジアの出場権をかけた大会で日本五輪代表は一次リーグ敗退という結果に終わった。


マスコミは騒ぎ、監督交代という事態になった。

青山はそれを見て言った。

「他のチームは出場権確保のために本気だったのに、協会もJPリーグも最高の選手を出さない、本気度が低いんじゃ、監督は可哀想だよ」



その言葉は、代表に普段から選ばれていながら、大会スケジュールのために出なかった畠山も聞いていた。畠山は五輪代表監督だった人を尊敬していたため、青山をさらに尊敬した。青山は口は悪いし、ダーティーなプレーはするし、口煩いから、嫌う選手もいる。実際にその言葉に耳を傾けずにちょっと活躍した程度でレジーナを出て一部に行き、消えていった選手を畠山は見てきた。


それ故に、青山の言うことを真摯に受け止めて学んできたが、青山のことを好きかと言われるとちょっとなと思う。小さい頃は憧れではあった。ジュニアユースからいた畠山にとっては青山=レジーナだったが、プロに入り青山の本質を知り、少しだけ尊敬できなくなっていた。



そんな折の言葉だったので、再度、青山を尊敬した畠山は青山門下生の筆頭信者だ。



そしてテレビに釘付けになる畠山と加藤、管。彼らはまさに今回の五輪代表世代だ。レジーナは多くの選手が20代前半で、10代や20になったばかりの選手も多い。その筆頭がレギュラーである加藤、管、畠山である。他の五輪代表世代はレギュラーを取れていないため、選ばれたいと思うが、選ばれるとは思っていない。



青山の予想は畠山のみか、うまくいけば管も入るといったところだ。管はJP2リーグで既に5点を決めている。ここ最近の彼は成長がすごい。青山門下生に入り、物凄いスピードでサッカーを学んでいる。それが生きており、ポジショニング、ヘッド、そしてキックの質が上がっている。



そんなテレビを食い入るように見ている3人の横で、茶化すように青山は言う。

「おい、食い入るように見ようが、クールに見ようが代表は変わらん。ちょっとはテレビから離れろ。ていうか俺は川田アナが見たい。お前らの顔は見たくない」

そんな悪ふざけの言葉にムスッとする3人。



「おい、師匠に喧嘩売ってんのか?買うぞ。キャメルクラッチか?釣り天井か?アイアンフィンガークローか?」

「いえ」


畠山が小さな声で断り、テレビから少し離れる。他の2人もテレビから離れる



教育と言う名の鉄拳制裁を見てきた3人は反射的に青山の機嫌を損ねないようにする。実際にその機嫌を損ね被害にあっているアホのブラジル人を今も横で見ている。今日は青山の食べ物を食っていた。練習後に必要な栄養を取るために買っていた食い物だ。それを盗み食いするという恐れ多いことしでかしたロベルトは青山の足に絡められて逆十字腕固めを今も食らっている。


「ノーーーーーーーン」

この叫びが今も部屋にこだましており、そのうるさい声のためにテレビを食い入るように見ているなどとは言えない3人だった。



青山も飽きたのか、逆十字固めをやめ、テレビに集中し始めたところで会見が始まる。


「おい。あのおっさん」

そう青山が呟くと出てきたのは白髪だらけのフランス人。日本のサッカーファンなら誰もが知る人物だ。



そして協会長が口を開く。

「まず、代表監督について、やっと決まりました。アーク・ヴァンゼム監督です。日本でも東京レジーナの指揮をしたことがあり、日本人、日本のサッカーを知り尽くしている。しかも名将であるヴァンゼム監督に協会は五輪代表の命運をかけることにしました」

おおおおおっという歓声が会見場に響く。



青山は思う。

(日本人や日本のサッカーを知り尽くしてどうなる。それに何の意味がある?それで強いチームを作れるなら、日本人監督でW杯を優勝しているっていうの。サッカーを知らないとダメ、日本はサッカーを知らない。選手、監督、協会、ファン、全てがサッカーを知らない。日本人でサッカー知ってんなっていう監督は風さんぐらいだよ。本当に協会の上はバカだな)



しかしながら、日本のメディア、ファンはヴァンゼムが日本代表監督になることを昔から望んでおり、そのヴァンゼムがついに監督になるという話に会場のマスコミは大騒ぎになる。


「ごほん。ワタシはヴァンゼム。ジャパンのカントクとしてオリンピックに出ます」

おおおおおおっとまた歓声が起きる。



拙い日本語をやめフランス語で会見を続けるヴァンゼム。

『ここからは親善試合2試合の五輪代表のメンバーを発表します。今回はオーバーエイジも含めました。それではメンバーは・・・・DF畠山、東京レジーナ・・・・・・・・FW斉川、東京ブラッド。菅、東京レジーナ』

ここまではかなり予想通りの面々だ。菅がサプライズだが、まだメンバー選考は24人と本メンバーより遥かに多い。菅が残れるかは微妙である。




『最後にオーバーエイジの候補はFW大崎、ブレーメク、ドイツ。GK近田、東京レジーナ。DF青山、東京レジーナ』

おおおおおおおおっと。また歓声が湧く。



畠山らは青山を見る。青山は唖然とした表情をしている。そこに、広報の中谷が部屋に来る。


「畠山くん、青山さん、急いで、準備してください。メディアの方々がインタビューをしたいそうです。近田くんも準備しています」

「はい」

畠山が元気よく答えた。


だが、青山はまだ、固まっている。なお、青山だけがさん付けなのは東京レジーナの絶対権力は監督と青山だからだ。選手で青山に逆らえる者はいない。スタッフもコーチですら青山には気を使う。東京レジーナが三部に行ってないのは青山がいるおかげであるのは誰が見ても明らかであったからだ。



「青山さん」

「おう。おう」

青山は混乱する頭を振り、答えた。



「ボス、おめでとう」

「おう」

驚きのあまりに言葉を紡げばない青山は何とかロベルトに答えた。



(あのおっさん今頃出てきて、俺を代表にだ。海外に呼ぶとか言いながら自分はビッククラブに行って、呼ぶこともなく。いつかは代表監督になるからその時に呼ぶとか言いながら、全然ならねえで。今更かよ)

青山は呆然とする頭の中でそう考えていた。



そしてインタビューに入る。

「あの、青山選手、今回の発表に関してどのようにお考えですか?」


「嬉しいですね。日本で行われるオリンピックに出場できるかもしれないという事は光栄です」


「ヴァンダム監督は、青山選手の選考理由をサッカーをよく知っている選手で、若い選手に成長をさせてくれる選手、五輪代表チームに足りない物を与えてくれるとおっしゃっておりましたが、青山選手はどのような点がそうだと思いますか?」


(それを俺に聞くか?くそ、こいつら俺のこと知らねえな)

「監督に聞いてください。ただ、本戦にも選ばれるならばチームの成長のために自身の経験を全てかけるつもりです」


何も答えてない返答に記者たちは困惑する。



そんな中で、今まで黙っていた髭面のフリーの記者だろう者が質問する。

「青山選手については、同じポジションの代表選手である長岡選手もサッカーをよく知っている選手で尊敬していると前におっしゃっていました。サッカーを知るのに大事なことは?」


「サッカーを知るには経験して、考えて、試して、失敗して、学ぶことです。やりもしないのにわかることは、表面的なことのみと思います」


ちょこちょこと嫌味を入れる青山に記者たちは騒然とするも、青山はどこ行く風と気にしない。記者は質問を続けるようだ。



「そうですか。ヴァンゼム監督の元でプレーした選手は現役の日本人選手で青山選手のみかと思いますが、その点についてヴァンゼム監督が信頼寄せているのではと思いますがいかがですか?」


質問した記者は『確信をついてやった、俺すごいだろう』と、してやったりという顔、周りの記者はそうかと納得の顔をしている。


(あほ、あれほどの名将なら、自分のスタイルの経験なんて関係ねえっていうの。それを短期間で教え込めると自信があるから今回の話を受けたんだろう。本当にマスコミはバカばっかだな。サッカーを知らないのによく記事が書けんな)


「関係ないのでは?ヴァンゼム監督ほどの方なら、短期間でチームを作る事は可能だと思います。それができない人じゃないと思いますね。それに現役でヴァンゼム監督の元でプレーした経験のある選手にはキングこと三島選手もいますよ」


記者はしまったと一瞬だけしかめっ面をする。自信を持った質問をバカじゃないかと暗に返されたのである。レジェンド、キングの名を使われて。



それでも質問を続ける記者は、

「では、ヴァンゼム監督はどんな方ですか?」


「うーん。理知的で、理論派。それでいて選手の自主性を大事にする、選手をよく見ている監督という感じでしょうか?」


「そうですか。青山選手をプロにしたのも、レギュラーに抜擢したのもヴァンゼム監督ですよね?恩師というところでしょうか?」


「どうでしょうか。一軍に入ったのは、当時のレジーナがサイドバック不足だったのも理由ですし、レギュラーになれたのはレギュラーの選手が怪我したことも大きいですね。ただ、知らなかった欧州のサッカーを教えてもらいました」


嫌味をふんだんに入れつつも、興味を引きそうな事を言う青山。



それに記者は食いついた。

「欧州のサッカー」


「ええ、正確に言うと、世界基準と言いますか。日本サッカーの当たり前が世界では通用しないということです」


「それは元ミランの堀尾選手や長岡選手も言ってましたね」

知ったように答える記者、青山はバカが偉そうにと思うも話を続ける。



「欧州に行って経験したんでしょう。私の場合には映像を見せられて、コーチに同様の動きをされて、日本の場合と欧州の場合を比較しながら何度も説明されましたね。ですから外国人選手だろうが、欧州帰りの選手であろうが。新人選手であろうが、JPリーグで苦労したことがないですね」


「そうですか。青山選手のマッチアップ勝率は8割を超えているのはそれが理由ですか?」


「一つの理由です。経験の方が大きいかと思います。映像を見ただけで何でもできるなら苦労しましせん」

(この記者初めて見るけど、結構調べてんな。バカだけど)



その後もどうでもいい質問が飛び、青山がイライラし始めた。

「ありがとうございます。これでインタビューを終えます」


と、広報の中谷が打ち切った。中谷がどうでもいい質問に青山がキレないように配慮した結果であった。




(しかし、ヴァンゼムのおっさん、日本代表監督になるなら連絡ぐらいしろよ。アーシオンを首になってから暇だったろ。まぁ無理か。協会が秘密主義を前面に出したんだろうな。あそこのおっさんらは本当に老害だからな。カズさんあたりが引退して協会入りしてくれれば変わるんだけどな。もしくは中井さんか。欧州を知っているあの人らが協会入りしてくれればな。まぁ無理だろうな。あの人たちは協会を嫌ってるから)


いわゆるレジェンドとは仲がいい青山。欧州に行ったようなレジェンドは皆、青山のポテンシャルを評価している。であるから仲が良く、時たま連絡が来る。通信アプリLi ve友達である。


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