願わくばこの夢の先を
中学二年の夏。
何もかもが嫌になった。
それまで特別何かが好き、というわけでもなかったけれど憧れていた先輩がいたから面倒な毎日でも学校までせっせと足を運んだ。
でも、部活に行ってもその先輩にはもう会えない。
綺麗なフォームで打たれたサーブもスマッシュもボレーも・・・・・もう、見えない。
その瞬間に気づいたんだ。
「嗚呼、私は何をやってもダメなんだ」ってね。
勉強だってやる気は0。
来年受験が控えているのに言うセリフじゃないけれど、受験なんてクソくらえ。
私は私の楽しい毎日を送りたい。
そんなことを考えていた。
そしてその結果、部活にはあまり出ないし学校も休みがちになった。
毎日同級生から浴びせられる「また遅刻かよ」「今度は早退?」「ちゃんと部活でろよ。」
「つかもう学校くんなよ」「なんでいつも二時間目になるとくんの?」
いやな悪口の数々。
しかしそれらはすべて本当のことだから言い返すことなんて出来ない。
我慢、我慢、我慢・・・・・それだけが頭にあった。
学校の教師たちは皆、「相談があったらいつでも言ってね。先生があなたの相談に乗るから。」
と心配なんだか興味本位なんだか分からないような言い方をした。
だからいざ相談してみれば
「それはお前が悪い。」「なんで?もっと詳しく聞かせて。」「先生も昔は・・・・・・」
というように私を否定するか、興味があるだけか、自分の昔話を始めるやつらばかりだった。そんな毎日が窮屈だった。
きることが少なくなった冬服。
エナメルの匂いがしっかりと染み付いている。
かといって臭いわけではなく制服独特のにおい。
そんな制服はいつしかハンガーにかけられたまま放置されるようになった。
私は毎日自分の部屋でその制服をみて、溜息をひとつこぼすだけだった。
情けない、そう思うしかなかった。
先輩に「気持ちを入れ替えて頑張れ。応援してるよ」とメールで言われたときにはあれほどに頑張ろうと思ったのに、
今では常に自堕落の日々。
先輩に合わせる顔もなかった。
やはり、世の中とは不公平に出来ているのだ。
そう思った。
何度左手首にカッターの刃を走らせようと思ったことか。
しかしすべて未遂。
怖くて未練がましく途中でやめた。
自分の傷がない手首に鮮血が走り肉が裂け、皮が破れるその様が異様に怖かった。
他のクラスメイトたちは毎日私の悪口を言いあざ笑うのみなのに、
私はどうしてこんなにも苦しまなければならないのだろう。
そう思った。
私はそのときは自分が間違っている、なんて事には気づきもしなかった。
ただ、ただ自分が可哀想、私はこんなにも傷ついている!
と主張したかっただけなのだ。
今考えればバカらしい。
同級生と仲良く出来ないのも自分が意地っ張りなせい。
それすらもすべてを人のせいにした。
気に入らないことがあると壁や木を殴った、蹴った。
そんな私を見ていた人はどれほどに嫌な気持ちになっただろう?
私はガキだった。
何も分からずに前に突っ走るだけの単純バカだった。
何も考えずにひたすらに突っ込むだけのただの大バカ野郎でしかなかった。
そんな自分を見て、誰が同情するだろう?
同情して私は一体どんな言葉をかけて欲しかったのだろう?
恐らく、「大丈夫?」と心配して欲しかったのだ、色々な人に。
もっと私を見てほしかったのだ。
もっと私を構って欲しかったのだ。
私はワガママで貪欲、ガキで大バカ野郎だった。
それは、今も変わらないのかもしれない。
たくさんの人に迷惑をかけ、満足している自分がそこにいるのかもしれない。
これは、一生変わらないのかもしれない。
私の中には悪魔が住んでいて・・・・・などという可愛らしいものではいないのだ。
恐らく私自身が悪魔であり、自らも知らぬうちに悪魔にすべてを奪い取られ、望むのはただひたすらに自分が満足するような出来事。
嗚呼、いつ頃かまだ私が人間だった頃に視た夢が懐かしく、愛おしく思える。
幸せだったあの頃。
今とは違い荒んだ目をしておらず、濁った目も見せずに、キラキラと輝いていた夢のような時間を過ごしたあの頃に、私は戻りたい。
本当はこれは長い夢で私はまだキラキラしたあの時間の中にいる。
今だけは、少しだけはそう思わせて欲しい。
せめて私が"人間として"生きていたという事実だけはこの時間の中に留めておきたい。
嗚呼、願わくばこの夢の先を私に・・・・・・。
そしてその夢を今すぐ崩壊して欲しい。
この物語は実話が元になっております。
去年の私の色々な人に迷惑をかけた恥とバカさとガキっぽさ・・・・・・。
先生にも友達にも先輩にも、もちろん家族にもたくさん迷惑をかけました。
そんな時代を生きた私の物語でした。