密談 その13
エリスがアイリスと一夜を共にしている頃、リルクは一人、大広間へ向かっていた。深夜、誰もいない廊下を進んでいると、ふと背後に人影を感じ、立ち止まる。
「誰だ」
振り返ることなく問うと、靴音が嫌みとばかりに露骨に大きく響いて止まった。
「誰だと思う?」
リルクが振り返ると、数メートルは離れていると思っていた声の主がすぐ後ろにいることに気が付いた。男は暗殺部隊用の黒いコートに身を包み、フードを目深に被っているせいで顔がよく見えない。
「先に質問したのはこちらだぞ。お前は何者だ」
再度問う。次の瞬間、男は目にも止まらぬ速さでリルクの首を片手で掴み、締め上げた。
「かはっ……」
「フロスティーナとアイリスは元気かい?」
男はリルクの首を絞めたまま問う。
「どうして……母さんと、妹の名を……知って、いる!」
男は口角を吊り上げ、フードを脱ぎながら言った。
「私が君の父親だからだよ」
「ちち、おや……」
男の告白をリルクは薄れる意識を懸命に保ちながら聞いた。
男はようやくリルクの首から手を離すと、咳き込むリルクの金髪を無造作に掴み、言った。
「なあリルク、君に頼みたいことがあるんだ。パパのお願い、聞いてくれるよな?」
男の髪は金糸のように輝き、瞳はリルクとアイリスが受け継いだものと同じように、赤く染まっていた。
 




