第11話 3【その少女、真紅と翡翠のエクセプションなり】
負けを認めることになった形のダン・ニコルソンは今後の判断を妻であるエリスさんに任せて退席した。夫の背中を見送ったエリスさんは、笑顔で語り出した。
「よかったじゃない、リルク。念願叶って妹さんに会えるのよ」
「……やっぱり、全部知ってたんじゃないか」
エリスさんは先ほど、リルクの妹は極秘任務で捜索しても見つからなかったと語った。それが彼女のついた嘘であり、全てが茶番だったことにリルクは怒っていた。
「悪かったわ、だからそんなに睨まないでちょうだい。私にも立場ってものがあるのよ……それに今はあまり時間がないの。苦情ならあとでたっぷり聞くから。ね?」
「……分かったよ」
笑顔から一変、焦りを滲ませるエリスさんにリルクはそれ以上の反論をしなかった。
一時間後、身支度を終え、綺麗に着飾られた少女と対面した僕たちは、予想外の結末を迎えることとなる。
ミドナちゃんの部屋には隠し部屋が存在していた。入り口には厳重な施錠があり、リルクはそれを見て顔をしかめたが、何も言わなかった。
十数年振りに再開した妹は、肌艶もよく、美しい女性へと成長していた。彼女の外見はリルクをそのまま女にした、という説明が妥当だろう。それほど一卵性の双子は似ていて、違うところと言えば腰まである髪の長さと性別――――それから、瞳の色が左右真逆だということくらいだろうか。
「お前……アイリスなんだよな? 俺だよ、リルクだよ! ごめんな、お前を見つけるのにこんなに時間がかかって……でも、もう大丈夫だ。俺と一緒に暮らそう。これからは俺がお前を守るから」
生き別れた双子の兄と妹の、感動の再会――――涙無しでは見られない光景を思い浮かべた目の前で、差し出された傷だらけの手は、快音と共に跳ね返された。
「暮らす? 守る? 一体どの面下げて私の前に現れたの?」
耳を塞ぎたくなるような、辛辣な言葉の羅列だった。
リルクは妹に跳ね返された右手を、信じられないといった表情で見つめていた。




