第8話 5【エクセプションの歴史とリルクの力】
リルクが僕に魔法をかけた?
「それってどういう……」
「君はエクセプション。本来、魔法など使えない立場だ。それなのに、君は魔法で守られた。これがどういう意味を示しているか、分かるかい?」
黙り込む僕に、キャロルさんは答える。
「分かることは、君とリルクの回路が正常に繋がっているということ」
「そう、なんですか」
「あの光はリルクが生きていることを証明している。その証明は必要なかったかもしれないけれど、君が本当にリルクと命を共有している確証がなかったからね」
僕が本当にリルクと命を共有している存在なのか確かめるために、ミドナちゃんに僕を攻撃させて、リルク本人に守らせた、ということか。
キャロルさんは冷めた瞳をカミヤさんに向けた。
「あいつは君の血縁である前に、ここの研究者なんだよ。エクセプションだけれど、過去に成した偉業から特別に中立者として存在している」
「中立者?」
「それはあいつから渡されたその有害図書を読めば分かるさ。私としても、これ以上話を脱線させてしまうと怒られてしまいそうだから」
僕は先ほどカミヤさんから手渡された本(今は椅子の端に置いてある)に目をやった。
「はあ……」
「あのバカの最大の目的は、リルクの居場所を特定することだった」
「リルクの?」
「そう。手当たり次第に探して見つからないのなら、あちらから痕跡を残してもらうのを待つしかない。そこで今回の計画が練られた。ミドナ様に君を攻撃させる。君がもし本当に命を共有する相手なら、奴が助けないわけがないからね。後はその魔力の痕跡を逆探知すれば居場所が割れる」
「もし、僕がその、命を共有する相手じゃなかった場合は?」
「その時は、まあ、死んでただろうね」
「ひっ……!」
九死に一生を得た事実を知った途端、急に全身から冷たい汗が噴き出した。
行き当たりばったりもいいところだ。確かにこんな計画、成功した方が奇跡だ。
「ひとまず、君は無事に自分の身分を幹部たちの前で証明することが出来た。それは喜んでいい。リルクと命を共有するエクセプションに手を出そうというバカはいないだろうから」
「どうしてですか?」
「本来、魔力の色は使った本人の瞳の色に反映されるものなんだ。ミドナ様の魔法陣は瞳と同じで赤かっただろう」
キャロルさんの説明に僕は首を傾げる。
「僕を守ってくれた光は、二色ありましたよ?」
僕の前に現れたのは、真紅の光と翡翠の二色。それが何を物語っているかと言うと――――
「リルクは左目に赤、右目に翡翠色の瞳を持つ、虹彩異色症の持ち主なんだよ。それに加え、奴は双子で、母親の胎内にいる時にどうやらバニシングツイン現象を起こしている」
「バニシングツイン現象?」
聞き慣れない言葉に僕は首を傾げた。
「双子の成長過程でどちらか優れた方に片方が吸収されてしまう現象だ。本来は存在ごと吸収されることが多いそうだが、奴の場合、妹の魔力だけを自身に吸収して生まれたらしく、妹は奴と同じく赤い瞳を持ちながらエクセプションという、奇怪な状態で生まれた。リルクは二人分の魔力をその体に有することとなった。君は、そんな奴と命を共有して、訓練次第では奴の魔力を使えるんだ。それがどういうことなのか、想像できないわけじゃないだろう?」
つまり僕は魔法を使えるということなのか? しかもとびきり強い人の魔力で?
「キャロルさん、僕、魔法の訓練頑張ります!」
キャロルさんは呆れたように微笑んで、言った。
「その心意気は褒めてあげよう。でもとりあえず、今日はミドナ様の部屋に泊まって、この子の側にいてあげてくれないか。私はこの子に酷いことを言ってしまったから、しばらく口をきいてもらえないだろうから」
寂しそうに微笑むキャロルさんがなんだか可哀相で、僕は「はい」と首を縦に振った。
「ありがとう、陽。この子の分も、礼を言おう。部屋にはマリアたちに案内させる。しばらくの間ゆっくりしてくれ。マリア! リリィ!」
「はい!」
二人はキャロルさんの横で片膝をつき、指示を待っている。
「陽をミドナ様の部屋へお連れして、身の回りの世話をしてやれ」
「は!」
二人の返事を聞き届けたキャロルさんは、僕に眠っているミドナちゃんを預けると、もう一度だけ頭を下げた。
「出来れば今度、ゆっくり話をしよう。私が育てたあの子について、君のこれからについて」
「はい」
そうして大広間を出た僕たちは、ミドナちゃんの部屋へ向かうのだった。
 




