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第8話 2【時間稼ぎ】






「へ、へぇ~」



「どうせ、こういう雰囲気になることは最初から分かっていたけどね」



 キャロルさんは途端に優しい笑顔でカミヤさんの肩口を叩いた。



「疲れているなら、いい店を紹介するぞ、カミヤ」



 カミヤさんはこめかみに青筋を立てて言い返す。



「キャロルの紹介する店? そんなのどうせロリッ娘専店だろ。お前が僕に優しい時は決まって裏がある。もう騙されてやらないからな」



 一度目はしっかり騙されてしまったらしいカミヤさんだった。



「ばっ! こんな場所で言う奴があるか! お前、後で覚えてろよ」



 辺りを見渡しながら慌てて誤魔化そうとするキャロルさん。



「はいはい、後でなー」



 適当な返事をするカミヤさん。

 ミドナちゃんは僕を膝の上から笑顔で見つめていた。リルクという青年は、話を聞けば僕と瓜二つの顔をしているらしい。年齢と、身長差など、多少の誤差を除けばミドナちゃんにとって僕は、間違いなく彼の代わりとなっていた。


 偶然から生まれた奇妙な現在の状況は、僕にとっては少なからず幸運の部類だったのかもしれない。位の高い人間にこうして気に入られ、立場が低いにもかかわらず、優遇されているのだから。

僕はこの時、少しだけ贅沢な悩みを持ってしまった。不安、と言い換えてもいいその悩みは、生まれてからこの方、愛されて育ったと感じる僕だからこそ持ちえた悩み。少女の瞳に「僕」が映っていない、という事実は、存外悲しく感じてしまうものだった。


 僕がこの世界へ連れてこられたのは内面ではなく、外見を買われた、という誰が見ても納得の理由。そもそも、エクセプションという時点で、僕に内面的価値など最初から存在していなかったのだ。


 自惚れ主人公の意識を引き戻してくれたのは、先程のやりとりをまだ続けていたらしいカミヤさんの声だった。



「見たことがないものを信じろ、という方が無理な話だ。それは理解している。これは僕の身勝手だ。この場が終わったら、忘れてくれてもいい」



「それでもお前がその女神に会ったっていう狂言は撤回しないんだな」



 カミヤさんは不機嫌さを漂わせながら口角を下げて静かに反論した。



「狂言ねぇ……お前が僕を信じなくとも、誰に何を言われようとも、僕は彼女に会ったし、実際にその声を聞いた。その事実は変わらない」



「頑なだな」



「頑なにもなるさ。今の僕は地球が丸いと主張した偉人の気分だよ。今は誰も信じてくれないけれど、いつかきっと皆僕が正しかったと認めてくれる。そんな日が来ると信じているよ」



「おめでたいなぁ、お前は」



 キャロルさんは呆れたように眉を下げる。



「偉人たちの頭の中はいつもおめでたいものだよ」



 カミヤさんは体の向きを変え、僕を見ながらキャロルさんへ話題を振る。



「そんなことよりキャロル。時間が押しているようだ、巻きでいこう」



 キャロルさんは自身の腕時計に目をやり、顔をしかめた。



「ああ、そうだな……今はやるべきことをやらねば。陽くん、見苦しいところを見せてしまって、申しわけない」



 僕は緊張から「ひゃい!」と裏返った声で返答する羽目になってしまった。



「ミドナ様、そろそろ彼の膝から退いてさしあげてはいかがでしょう?」



「どうして?」



「優しい彼はきっと言い出せないでしょうから私から申し上げますと、どうやら彼は足が痺れてしまっているようですので」



「え! ひーくん大丈夫? ごめんね、ミドナが重かったせい? 嫌いにならないで」



 少女に涙目で必死に訴えられ、咄嗟に「ならないよ」と返すと、彼女は安堵の表情を見せ、僕の膝から退いた。


 それからミドナちゃんはキャロルさんの方へ足を運び、小さな声で「……だっこ」と恥ずかしそうにお願いした。


 キャロルさんは「もちろん」と少女の体を慣れた手つきで軽々抱き上げると、その格好のまま、僕へお辞儀をした。



「お勤めご苦労様、陽くん。ミドナ様は少しの間でも君と触れ合えて、とても喜んでいるようだ。心の傷も多少は癒えただろう。君には最大級の感謝を申し上げる。本当にありがとう。私たちはこれで失礼するが、君はここで他の幹部たちと少し交流していくがいい。明日の朝には私が君をメルヴィン様たちのところへ責任を持って送り届ける。その後、元の世界へ帰れるように手筈もしよう」



「え?」



 そう言ったのは王座に座る僕ではなく、現在キャロルさんの腕に抱かれているミドナちゃんの方だった。





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