密談 その8
ねえ、ダン。君は神様の存在を信じるかい? 別に神様でも天使でも、悪魔でも、何でもいいんだけどさ。要するに、君は非現実をどこまで信じることが出来る人間なのかと思ってね。
そんな呆れたような顔をするなよ。言いたいことは分かるさ。こんな、返ってくる答えが分かりきっている質問をすること自体が君には理解出来ないんだろう?
君が非現実を信じないような、現実的な人間だったならば、一人の人間のためにここまで出来やしないだろうからね。
何が言いたいのかって? 私はね、これから話そうと思っていることを、君がどれほど真剣に聞いてくれるのか、少しだけ確認したかっただけなんだよ。
私たちの共通点――――それはなんだと思う?
私は別に、死んだ誰かに会いたいと思っているわけではないし、ただの善行でこの場にいるわけでもない。私はね、子供の頃に会った女性にもう一度だけ会いたいんだ。
つまり、君と私の共通点は、特定の女性に会いたい、という願望を持っている点だね。
これは男の性なのかもしれないけれど、一度気に入った女性を我が物にしたいという願望は――――欲望は、いつの時代も色あせることはない自然な感情だろう?
その相手が君の場合は奥さん。私の場合は子供の頃に会った女性、というだけの違い。
え? 妻ではないのかって?
残念。私は確かに妻と出会い、二人の子供を儲けたけれど、どうしてそれが、愛故だと言える? 世の中には望まない結婚を強いられる者は沢山いる。そんな人々が、相手に対して好意を抱いていると、君は本当に思っているの?
生まれてくる子供たちが全て、恋人たちの愛の結晶だとは思わない方がいい。そんな考えを持っているのなら、君はとてもかわいそうな人間で、幸せな人間なのだろう。
作り出される新たな命は、番が愛を育んだ故に生まれるのではない。
もっと単純な――――人間の欲求によって生まれるものだ。
子供というのは、そこに愛がなくとも生まれるものさ。
私は妻と子供たちに関しては――――何も思っていない。
妻が、あの子たちが今、どこにいて、何をして生きているのかさえどうでもいい。
だったらどうして妻と子供を作ったのかって? ただの気まぐれだよ。
この年で、妻と子供がいるのは世間一般的には普通だろうし、家庭を持っていた方が、色々と都合がよくてね。結局、それだけの理由さ。
分かっている。この点において、私と君が理解し合う事など出来ないことは。だからね、私がこれまで築き上げてきた「私」という肩書は「彼女」に会うという最終目標の為だけに作り出した、体の良い情報収集の道具でしかないんだよ。
別に、私が何をしようが君には関係のないことさ。私は今まで通り仕事をこなすだけ。
それによって君は期待通りの成果を手にし、私も新たな情報を得ることが出来る。ビジネスパートナー。
私と君は、ずっとそうだったじゃないか。私が君に自分のことを語るのは、そう、信頼を得る為だよ。それでもかまわないって、君は昔に言ってくれたよね。君がどうしてこんな私を信用してくれるのか、いまだに分からないけれど、少なくとも、私は君を気に入っているよ。これは本当。
え、なんだい? 私が会いたい「彼女」について知りたいって?
まあ、いいか。私はね、子供の頃――――神様に会ったことがあるんだよ。




