第6話 4【リリィとマリア】
悲鳴を上げながら露になった股間を押さえて内股になったところで、リリィという名の少女の後方から今度は本物の女の子の悲鳴が上がった。
「どうしましたか! 大丈夫ですか!」
リリィさんは様子を見にやってきた職員らしい男の声に、
「ああ、大丈夫だよぉ。ラッキースケベってやつだからぁ」
と、軽い口調で答えた。
「みみみみ、見ちゃった……男の子の裸……あわわわわわわわ……」
「ほーらぁ! マリアは純情過ぎなんだよぉ……男の子の裸なんて初めて見たわけでもあるまいしさぁ? あんたの持ってるゲームとか漫画、そういうのいっぱい描いているじゃーん」
もう一人の女の子が突如、リリィさんの首筋にアイスピックのようなものを突き立てた。
「それ以上言ったら本気で刺すわよ」
「ひゃ~、マリアちゃんは怖いなぁ~。分かった、分かったよ。もう言わないから、首のやつ戻してよぉ、怖いからぁ」
わざとらしいリリィさんの反応に、マリアという名の女の子は鋭利な先端のアイスピックを懐に戻した。二人が言い荒らそっている隙を見計らって素早く絨毯に落下したタオルを拾い上げる。
「あの、キャロルさんは? 確か、夕食はキャロルさんが持ってくるって聞いてたんだけど」
「ん? ああ~、キャロルはミドナ様に呼び出しくらったとかで、来れないから代わりに私たちが行けって頼まれたんだよねぇ、マリアちゃん?」
「押し付けられたの間違いでしょう? だいたい、どうして私がこんな奴の為にわざわざ食事なんか……」
「まあまあマリアちゃん、そんなに怒らないで? 女の子は笑顔が一番だよぉ?」
「ふん」
ここで彼女たちの外見をおさらい。
まずはリリィさん。彼女はピンク色の髪の毛をてっぺんでお団子にしていて、赤い大きなリボンで結っている。ヒールを履いているので分かりにくいが実際の身長は僕より低いように感じた。瞳は黄色。黒のロングコートを着ていて、その中に白いビスチェを身に付けており、下半身は丈が短いジーンズ生地のショートパンツに黒のニーハイソックス姿。爪には様々なパーツがついたネイルを施しており、手首や首元にはアクセサリーが揺れる。
続いてマリアさん。彼女の外見を目の当たりして驚いたのが、髪の色だった。
マリアさんは真っ黒で長く艶やかな髪を持っていた。長さは腰のあたりまでで、前髪を真っ直ぐに切り揃え、もみあげの部分を顎のラインに沿って切り揃える、いわゆる姫カット。頭のてっぺんに配置された真っ赤なカチューシャが彩りを添えている。
身長はおおよそ百五十センチあるかないかといった感じで、足元は踵のない黒のパンプスを履いている。黒いコートの中は白いシャツの上から膝上丈の赤いワンピースを着ていて、足首で折り返しがついた白い靴下を履いている。
「ちょっとそこのアナタ! いつまでそんな粗末なものを私たちに見せつけるつもり? さっさと服を着て、テーブルを移動させなさい! じゃないと、食事はあげないわよ!」
視線に気が付いた様子のマリアさんが怒鳴る。
「は、はいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
僕は慌てて用意されていた服へ袖を通すと、窓(実際は地下なので、窓の外にはバーチャル映像が流れている)際に配置されていた四人ほどが肩を並べられるサイズのテーブルをソファの前へ引っ張る。それから椅子の用意をしたところで、振り返る。
「えっと、準備できました!」
「……なんでアンタの分の椅子しかないのよ。私たちとご飯を食べるのが、そんなに嫌なのかしら?」
「……へ?」
よく見ると、彼女たちは銀のトレイを一枚ずつ持っていて、リリィさんのトレイには、二人分と思われる食事が乗せられていた。
どうやらこの二人、僕と一緒に夕飯を食べに部屋を訪れたらしい。




