第1話 1【史上最悪の肝試し】
僕の名前は夏川陽。どこにでもいる男子高校生。
どういう理由か僕は今、友人たちと共に肝試しをしている真っ最中だ。
草木も眠る丑三つ時、律儀にも校則を守り、制服を着こんで外出した僕は懐中電灯を片手に辺りを警戒していた。
両隣には友人の綾瀬と桜城もいたが、人数が増えたところで恐怖が薄まることはない。どころか、テンションは下がる一方。見つめる先には暗がりでもその不気味さが際立つ廃墟がそびえ建っていた。
「なあ……本当に行くのか?」
「あたりまえだろ! 夏と言ったら肝試し! 高校生のうちにやりたいことはやっておこうぜ」
綾瀬の言葉に、僕はうんざりした様子で答える。
「別に、肝試しなんてこの年になってまでやりたいと思わないんだけど」
「夏川、こういうイベント好きって言ってたじゃん」
「そうだけどさあ……」
そういう類はテレビの特番で十分なのである。わざわざオカルトチックな体験を現地に行ってまで味わいたいとは思わない。
「家に引きこもったままだとせっかくの青春が台無しだぜ? どうせ家にいても漫画読んでるだけなんだろ?」
「ほっとけ」
僕は綾瀬を放置して、今度はもう一人の友人である桜城に声をかけてみることにした。
「なあ、桜城。なんでお前みたいな面倒くさがりが今日に限って来たんだよ?」
桜城はサッカー部のエースストライカーで、顔もいい。いわゆる絵に描いたようなイケメン様なのだが、一つだけ欠点として極度の面倒くさがりという点がある。そんな奴が文句一つ言わずにここまでついてきたのだから、不思議に思うのも当然だ。
「だって面白そうじゃん。乗ったら最後、行方不明になるエレベーターとか、胡散臭くて逆に興味沸く」
「お前のテンションの基準が分かんねぇよ……」
桜城の楽しそうな顔を見て、僕は溜息をつき「帰る」という選択肢を頭の中から消した。
曰く付きの廃墟の噂が広まったのは、今から二十年程前。大型デパートの跡地であり、本来なら早々に取り壊される予定だったこの場所で最初の行方不明者が出た。
それは施設の管理をする人間だったようで、二十年程経過した今も最初の行方不明者は発見されていないらしい。
そんな経緯もあって、それから一時は閉鎖されていたらしいが、二十年も経つとその閉鎖も形だけのものになり、廃墟は当時の姿を残したまま、放置されていた。
今回肝心なのは、行方不明者が出たという場所。当時から伝わる証言では、管理室に続くエレベーターに乗った姿を見たのが最後、その人は二度と戻ってこなかったらしい。
証言元が某ネット掲示板なので、真偽のほどは分からないのだけれど。
ともかく、それからというもの、夜になると電気供給の途絶えた廃墟のどこかで今も無人のエレベーターが作動していて、乗り込んだが最後、二度とこちらの世界には戻ってこられなくなる、という話だ。
「まあまあ、とりあえず、行ってみようぜ!」
「えー……」
綾瀬の最後の一押しで、史上最悪の肝試しは幕を開けたのだった。
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