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第5話 3【リルクの話】






「どうして君がその名前を知っている?」



「いや……そのミドナって子に言われたんですよ。僕がその人に似てるって。メルヴィンたちも知っているみたいだったけれど、結局その正体までは教えてくれなくて」



 キャロルさんは考える素振りを見せたあと、再び僕の手を引いて歩き出しながら一言、



「そうか」



 と呟き、リルクの正体について説明を始めた。



「リルクはミドナ様が八つの頃、来訪先の町で行き倒れているところを拾った男でね、ミドナ様がずっと想いを寄せていた方さ」



「へえ……」



「それから二年後、メルヴィン様がエドワーズ様と一緒に組織を逃亡されてからは、リルクがメルヴィン様の代わりとなり、まるで本当の兄のようにミドナ様の精神を支えたのさ」



「その当時のリルクは何歳だったんですか?」



「ミドナ様が十歳の頃に十八歳だったはずだから、今は二十歳かな」



 まさかの僕より年上だった。



「けれど、リルクはある日突然いなくなってしまった。今も行方不明。組織の連中は、彼が死んだものと決めつけていた。それほど外部から来たあいつは皆に嫌われていたのさ。ミドナ様の寵愛を一人で受けていたのだから当然と言えば当然だけれど。ミドナ様は諦めなかった。そして、君を見つけた」



 言われている意味が分からず首を傾げる。



「どうして僕なんですか……」



 いくら僕が似ているからと言って、妥協したわけではないだろう。他に理由があるはずだ。

 そう考える僕に、キャロルさんは言った。



「君とリルクが命を共有している同士だからさ」



「命を、共有?」



 それは一体どういうことだろう。それがこの世界に連れて来られた理由になるのだろうか。

 これはもっと詳しく話を聞かなければ――――と、そこで僕は人とぶつかった。



「うわっと!」



 人混みに流され、キャロルさんの手を放してしまう。人の渦に巻き込まれながら、僕は紙の束を配っているおじさんから一枚の紙を押し付けられた。よく見ると、皆そのおじさんが手に持っている紙を貰おうと押し寄せているようだった。


 僕は逃げるようにその場から這い出し、大通りの隅に一足先に非難していたキャロルさんの元へ戻る。彼は腕組みをして、不機嫌そうにこちらを見ていた。



「いや、あの、今のは不可抗力っていうか……意図的に手を放したわけじゃあ……」



「何を貰った? 見せなさい」



「へ?」



 彼が興味を引かれていたのは僕ではなく、僕が手に持っている紙切れの方だった。



「さあ……なんだか強引に手渡されたんで、僕にもよく分からないんですけど……」



 見た所、それは新聞のようだったけれど、書かれている文字が全て鏡文字になっているため、一目見ただけでは何が書かれているのかよく分からない。


キャロルさんは僕から手渡された新聞にざっと目を通したかと思うと、急に興味を無くしたようで、くしゃくしゃに丸めて捨ててしまった。



「ああ! 僕にも見せて下さいよ!」



 慌ててキャロルさんが捨てた新聞紙の塊を拾い、広げて見出しを見る。号外、と記された記事のトップはこの近くで起きた殺人事件を知らせるものだった。


 僕はゆっくりと文字をいつも読むのとは逆さまに、反転させながら追っていく。



「猟奇的殺人か? 死体から目玉と血液抜かれ。うえぇ……気持ち悪い! ご丁寧に死体の写真まで載ってるし……」



 白黒とはいえ、血まみれで目玉をくり抜かれ、黒い闇と化した瞳に思わず目を背ける。その場にしゃがみ込み、口を押える仕草をする僕に向かってキャロルさんは言った。



「殺人事件なんて、日常茶飯事だろう。軟弱者」



「僕のいた世界では新聞に死体なんて載せないんです! こんな気味の悪い事件、そうそう起きないし……」



「お優しい世界なんだねぇ……だから君みたいな男子が育つんだろうけど」



 笑うキャロルさんに、僕はもう反論するのも疲れて溜息をつくばかりだった。

 号外が配られ終え、大通りが少し静かになったところで、キャロルさんは気を取り直したように僕の手を掴み、再び歩き出す。僕は拾ったくしゃくしゃの号外を強引にポケットへ突っ込むと、慌ててキャロルさんの後を追った。



「それであの、僕はミドナちゃんに会って、具体的には何をすればいいんですかね」



「そうだねぇ……なに、そう難しいことじゃないよ。ミドナ様は確かに組織の一番上に君臨している女王様だけど、中身は普通の女の子だからね。大切な人が突然いなくなってしまったら、誰だって悲しいだろう?」



「まあ、そうですね」



 歩きながら答えていた僕に、キャロルさんは首だけ振り返って、



「だから君には――――ミドナ様を慰めてもらいたいのさ」



 笑顔でそう言った。





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