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第3話 4【残りの質問に答えてもらっていいですか?】






 半強制的に「鏡の国」に滞在することが決まった僕は、命の恩人メルヴィンと、滞在する原因を作った黒幕エドワーズさんと共に町外れの古い小屋で生活を始めることになった。

 この世界の状況を彼らから聞いた僕は、その夜、エドワーズさんの作ってくれた具沢山スープを食しながら、残った疑問を口にした。



「エドワーズさん、昼間に聞きそびれたことがいくつかあるんですけど、聞いていいですか?」



「ん? なんだい?」



「エドワーズさん達の正体をまだ聞いていなかったなと思って」



 エドワーズさんは「ああ」と手に持っていたスプーンでメルヴィンを指して答える。



「メルヴィンは、昼間に話した組織エリスの正式な後継者だったんだよ。それは創始者の実の弟であるボクも同じなんだけど。メルヴィンは、ボクの兄の孫にあたる存在さ」



 エドワーズさんは嫌な記憶を思い出しているような顔で続ける。



「どうしてボクらがこんな場所で生活してるかっていうと、それはボクとメルヴィンが創始者――――兄さんの研究の、本当の目的に気付いてしまったからなんだ……具体的にどうやって、生物を生き返らせるのかってことを」



「それってどういう――――」



 メルヴィンが、そこで初めて行動を起こした。ガシャンと音を立ててスプーンをテーブルに叩きつけるその形相は、まさしく「鬼」のようだった。



「おい、その話は今しなくてもいいだろ。飯がまずくなる」



「あ、ああ……そうだね、確かに蛇足だったかもしれない」



 途中で話を遮られた身としては、不完全燃焼も甚だしいが、この場で続きを催促できるほど空気が読めない人間ではない。火に油を注ぐのは、誰だって避けたい選択だろう。

 エドワーズさんは言葉を選んでいるような目線をメルヴィンに向けた後、スプーンで皿の中身をかき混ぜながら言った。



「じゃあ、その後の話をしようか。それが原因で組織を逃げてきたボクらは裏切り者として命を狙われるようになったんだけど、ミドナが話をつけてくれてね。自分が後継者になるから、ボクらを生かしてくれって兄さんに頼んでくれた。そして生かされることになったボクらはこうして君のような「穴」から迷い込んでくる人たちを元の世界に戻してあげる手伝いを任されたんだ」



「あの、エドワーズさん「穴」って、何ですか?」



 先ほどから何度か話題に上がっていた言葉が気になり聞いた。



「簡単に言うと、空間の歪みだね。君のいた世界と「鏡の国」の間には互いの侵入を防ぐための壁があるんだけど、老朽化しているみたいでね。所々に穴が開いてるんだよ。君もその「穴」に落ちた一人。見つけた「穴」は報告次第ミドナが塞ぐ決まりなんだけど、どうしたものかな」



 僕はスープを口に運びながら話を聞いていた。



「どうして二つの世界の間には、壁があるんですか?」



 それは少し考えれば分かりそうなことだけれど、確信を得るためにあえて聞いた。二つの世界が自由に移動出来たら、互いの世界の秩序が崩壊してしまうだろう。混沌(カオス)が生まれてしまう。



「それが、この世界の禁忌だからだよ」



 エドワーズさんは、真剣な表情で言った。



「禁忌?」



「壁が無ければ、互いの世界の人間同士が出会ってしまうだろう? もし万が一、出会った二人が恋に落ち、子を宿してしまったら、その子を殺さなくてはいけなくなる」



「……どうしてですか」



 僕は途中から食事を忘れて話に聞き入っている。メルヴィンはと言うと、自分で鍋からスープを皿に移し、三杯目を食べ終えていたところ。



「それが禁忌だからさ。ま、殺されなかった子が過去にいるんだけどね。特例だけど」



「詳しく聞きたいです」



「ん~、この話は出来ればあの人にお願いしたいんだけど……」



「あの人?」



「あの人って言ったらあの人だよ。お前は何でもかんでも一気に知ろうとし過ぎなんだよ。いいから黙って飯食えよ。なくなるぞ」



 メルヴィンは四杯目となるスープを口に運んでいる。鍋の中を見ると、スープは既に半分ほど減っている。途端に空腹が襲ってきて、僕は慌てて皿の中身を一気に腹の中へ流し込む。

 エドワーズさんは呆気にとられていたけれど、自分の料理を美味しそうに食す僕らに気を良くしたのか、その後お手製のアイスクリームを振る舞ってくれた。



「そういえば、迷子ちゃんの名前を聞いていなかったね。これから長い付き合いになるかもしれないし、一応聞いておいてもいいかい?」



 就寝前、不意にエドワーズさんにそんなことを聞かれ、すっかり気を許していた僕は、何の躊躇いもなく自分の本名を口にした。



「あ、はい。夏川陽です。太陽の陽で、ひかるって読みます」



「うん、陽くん。良い名前だね」



 名前を褒められ照れていたのも一瞬、ひょっこりと背後から顔を出したメルヴィンは、僕の耳元で、



「エドワーズは名前を教えた奴を魔法で操ることが出来るんだぜ」



 と囁いた。



「ひっ!」



 意地悪く笑うメルヴィンに、さすがのエドワーズさんも声を荒げた。



「こら、メルヴィン! ボクにそんなことは出来ないよ! いいからもう寝なさい!」



 その後、エドワーズさんによって強引にそれぞれの寝床に詰め込まれた僕らは、その日初めて三人だけの夜を迎えたのだった。




次回は17時頃の予定です。

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