第2話 3【青い瞳の魔法使い】
「……え?」
状況が理解出来ないまま、恐る恐る目を開ける。
飛び込んできた光景は、硝煙をまとうボブの姿――――ではなく、知らない背中だった。
夏だというのに小汚いマントのフードを目深に被っているその人は、二十代前後の青年のように見え、瞳は深い海のようにどこまでも青く澄んでいた。
「あの、えっと……」
上手く言葉を紡げない僕に、青年は首を傾げる。
この状況下で僕が助かるためには、彼の力が必要なのは明白だった。どんな魔法を使ったのか知らないけれど、彼は僕を打ち抜くはずだった銃弾を無効化してくれたのだ。
見ると、銃弾は彼の足もとで物言わぬ塊と化している。僕は咄嗟に青年のマントを掴み、声の限りに叫んだ。
「な、なんでもしますから、助けてくださああああああああああああああああああい!!!!」
青年は両耳を手でふさいで眉間にシワを寄せた。
「うるっせーな、そんなに大声出さなくたって聞こえるよ――――ていうか」
文句を言おうと思ったのだろう青年は次の瞬間、まるで米俵を担ぐように僕を持った。
「おい、飛ぶぞ」
「へ?」
目線が急上昇する。青年は僕を担いだまま、建物の足場を利用して上る。重力を感じさせないその動きは、現実世界でいうところの「忍者」のようだった。
「に、逃がすか!」
一発目の銃弾を無効化されてしまったボブは、頭に血が上ったようで、手当たり次第に引き金を引く。全てを器用に避けていた青年だったが、僕を担いでいるハンデがここにきてやってきたのか、一発の銃弾が、僕ら目がけて一直線に飛んでくる。
「危ない!」
青年は瞬時に上半身を半回転させ、迫り来る銃弾の軌道に手を翳す。
「チッ!」
青年の舌打ちが聞こえたかと思うと、目の前に信じられない光景が広がった。
ボブの放った銃弾は、青年の手の平から発せられた魔法陣に遮られ、それ以上先に進んでくることはなかった。
「あいつ……! エクセプションじゃないのか!」
エクセプション?
ボブの言葉に首を傾げながら、僕は先ほどの光景に勝手に感動し、目を輝かせていた。
「この世界って、魔法使えるんだ……!」
青い瞳の青年が、呆れたようにため息をついたのも知らずに。
 




