第2話「カワボが世界を救う? 後編」
第2話です。
「じゃあとりあえず、キャラメイクからスタートね。ネトゲとかやったことある?」
「あっ、はい、多少は……」
ネットゲームのプレイ動画を配信している人に影響されて、一時期ゲームにすごくハマった時期があった。
「っていうか、今から何するんですか? ゲーム?」
私はブラウンに尋ねた。
「あれ? ブラウン、説明してなかったの?」
「説明はしておいた方がいい」
奥の大男……パンダと呼ばれていた人が言った。
「ああ、そうだな。キャラメイクをしながら説明を聞いてもらうとしよう」
「ごめんねえ、ブラウンっていつもこうだから」
シャロと呼ばれている女性が、片手で謝るポーズをする。
「まあ、説明してくれるならいいですけどね……」
ブラウンが人の話を聞かず、説明不足なところがあるのはなんとなくわかってきていたので、今更驚くようなこともなかった。私はキャラクターの名前に「モエコ」と入力しながら、ブラウンの話に耳を傾けた。
「今から君には、バーチャル・ウォー・オンライン、通称・VWOをプレイしてもらいたい。キャラクターに扮して魔術や戦闘術を駆使して対戦バトルをするゲームだ」
ここまでならよく聞くゲームな気がする。
「今そのゲームで大規模なイベントが開催されている。二つの陣営に別れて対戦し、勝った方のプレイヤーに賞金が出るというイベントだ。賞金は勝利陣営のプレイヤー全員に配分されるが、総額は約一千万円だ」
「一千万円!?」
なんだそれは。たかがゲームだろう。一体どこにそんなお金があるのだろうか。
「まあ要するに、そのゲームを作った社長の頭がとても悪いんだ。そもそも資本金が一千万円なんだからそんな額を払えるわけがないんだが、全くご理解いただけなかった。ああ、そうだ。ここにいる俺たちは皆そこの社員だ。全く、とんでもない会社に入ってしまった」
「なんですかそれ……」
もはやギャグのような話だ。しかしどうやら現実らしい。
「そのうちマスコミにも大々的に取り上げられるだろう。ただ、会社としても黙って一千万円を差し出すつもりもなかった」
「そりゃまあ、そうでしょうね」
「というのも、社長は頭がからっきしダメだが社員はそんなことはない。社員がプレイヤーに扮して賞金を得ることで、被害を最小限に食い止めようという案が出た」
「え?」
そんなことをしていいのだろうか?ゲーム自体を作った会社なのだから、それなら圧倒的に有利になってしまうじゃないか。
「さすがにチートみたいなことはしない。これでもゲームを世の中に提供している会社としての矜持があるんだ。しかしーー結局うまくはいかなかった。すぐに我々の魂胆が一般のプレイヤーに見破られ、『全プレイヤー VS 会社』という構図が出来上がってしまった」
「全部裏目に出てるじゃないですか!」
なんだそれは、と思った。そもそも社長の出した企画が無謀すぎるし、それを安易な策で解決しようとした社員にも問題があるように思えた。
「最初は会社の持っている内部情報によって戦況を有利に進めていたのだが、圧倒的に人数も少ないし、向こうは賞金を得る前提で大量の資金を投入して装備を整えてきている。そしてここにきて、ゲーム終了まで残り1カ月となった。まさに万事窮す、といったところだ。そこで我々は、開発責任者に何か策がないか聞いてみた」
「そこで、今回呼んだモエコちゃんに話が繋がるのよね」
やっと私の話か、と思った。前置きが長い。
「そうだ。このゲームの開発責任者は重度の声フェチだ。独自に声の研究を行い、可愛い声、カッコいい声など魅力的な声に関する研究を行った。そして、その研究結果をこのゲームにフィードバックした」
「このゲーム、VWOには『声の魅力』という裏パラメータがあるの。これによって能力のポテンシャルがかなり上振れする」
「キャラメイクの時に、ボイス録音が必要なのはそのためだ。声による補正が大きくかかることは開発チームの極秘で、今のところプレイヤーには一切知られていない」
「そこで、そのポテンシャル的に最強クラスの声を持つのが、モエコさん、あなたなのよ」
「私が……」
私の声が最強クラス? 冗談も大概にしてほしい。しかし、この流れで嘘をつく理由などないのも確かだ。
「もちろん、声優などたくさんの人の声を聞いてみたし、研究の対象にもした。しかし、今回の設計パラメータとしている『声の魅力』は、声優などプロの発声方法を知っている人なら高くなるかというと、必ずしもそうではないということもわかった」
一体どんな声を「魅力的」と言っているのだろう。私はその算出方法の方がむしろ気になった。
「本来なら、内部のいざこざは内部で解決したらいいというのは我々もわかってはいる。ただ、どうしても我々の力では解決できそうにない。このままでは、社員は皆路頭に迷ってしまうし、救世主である君を頼る他に手はなかったんだ」
ブラウンの顔に陰りが見えた。会社的に窮地に陥っているというのは、やはり本当のことなのだろう。
「とにかく、一度ゲームをプレイしてみてほしい。長々と説明するよりもそのほうが早いだろう。今後引き受けてくれるかどうかは、そのあとに考えてくれればいい」
「そうね」
「なんだか腑に落ちないところも多いですけど、まあ話はわかりました」
説明を聞き終えたところで、ちょうどゲームのキャラメイクも完了した。
「キャラメイクも終わったみたいね。じゃ、ゲーム開始といきましょうか」
「多分、すぐに戦闘開始となるだろう。装備はゲーム開始後に渡すアイテムをとりあえず装備してくれ。あとはチュートリアル通りに呪文を使ってくれれば問題ない」
ブラウンの説明は相変わらず要領を得ないが、こういったゲームは実際やってみるのが一番早いので、私は黙って頷いた。