第102話[週1] 必要な答え合わせ
一年ぐらい顔を合わせない事もざらだった。
連絡も下手したら半年ぶりなんてのもよくある。
それが私と彼との距離感。
だけど、不思議なことに一年ぶりに顔を合わせえても、つい昨日会ったんじゃないかと思えるほど、懐かしさは感じない。
連絡だって、こまめに取ろうと心掛けているのに、気が付けば何か月もたっていると言うだけだ。
思うに、これは私の心の中に常に彼が存在しているからではないかと思う。
当然のように朝彼を思い、昼食中に彼を思い、寝る前に彼を思う。
だから、私は常に彼に会ってる気がするし、彼と一緒に過ごしている気分になる。
私は私の中で彼と完結してしまっているのだろう。
しかし、彼はどうなんだろう?
「それは寂しいに決まってるじゃないですか、先輩に気を使って言わないだけですよ。ってか、普通そんだけ彼氏さんのこと思ってたら、会いたくなりません?」
後輩にこの間彼と一年ぶりに会った話をしたら、唇を尖らせ怒られた。
「……そう言うものかしら」
「一週間先輩、変わってるとは思ってたけど、恋愛面でもやばいんですね」
「一応、先輩に向かってやばいはやめてね」
研究所の後輩である美咲ちゃんはたまに私に酷い事を言う。
私は父の勤めていた研究所で働いている。
勤めいたと言うのは、父は私が幼い頃に母とともに交通事故で亡くなったからだ。
この変わった名前も父が付けたらしい、一週間だから「なのか」本当に変な名前だ。
どんな意味を込めたかぜひ聞いてみたかったが、今はもう叶わない。
私は大学を出た後、父の友人からこの研究所で働かないかと、誘いを受けた。
研究職にはついてみたかったし、お給料も申し分なく、なにより父が未完で生涯を終えた研究に興味があった。
返事を出すまでにそう時間はかからなかったと思う。
「一週間先輩、本当にその人愛してるのかなー」
「……愛……してる、わよ?」
「なんか変な間がありましたね」
「ねぇ、美咲ちゃん、愛しているかって、どうやってわかるのかしら?」
美咲ちゃんは私を面倒な人を見るような目で見て、溜息をついた。
「また、一週間先輩が馬鹿になった」
「一応、先輩だから馬鹿はやめてね」
彼とは大学時代に知り合った。
ガサツなんだけど、しっかり人のことを見ていて細かい気の回る人だった。
なにより、私との距離感がうまかった。
私はどうやら変わり者と呼ばれる人間らしい。
人が嫌いじゃないけど、好きでもない。
近すぎるのも嫌だけど、遠すぎても寂しい。
この私との絶妙な距離感を彼は持っていた。
この人とだったら、上手くやれるんじゃないかと、私は生まれて初めての告白をした。
お付き合いしてくださいと、結婚を前提とした交際がしたいといった。
彼は特に悩む様子もなく二つ返事で了承してくれた。
受験の合格発表や犬とすれ違う時でもあんなに緊張しないのに、拍子抜けした。
彼は私より一年早く働き始め、私が働き始めたら一緒に住もうと約束をした。
でも、私は研究所に就職が決まり、その場所は彼の勤めている会社とは車で一日かかるほどの距離があった。
私は彼との約束を破ってしまったことを彼に謝ったが、彼は気にしないよと言ってくれた。
気にしていないのならよかったと私は少し微笑んだ。
もうこの研究所に勤めて五年は経っただろうか、今ではほぼここで暮らしている。
ここは広くて職員が希望すれば個人の部屋も用意してもらえたりするので、全く不便はしない。
「お正月は彼氏さんに会いに帰るんですよね?」
「うーん、でもお正月は今書いてる論文を一から見直したいし」
「そんなこと言ってたら、一生帰れないじゃないですか、彼氏に会いたくはないんですか」
「会いたいけど、論文も大事よ?」
父のやっていた研究は人の為になるものだった。
私はそれを誇らしく思い、この研究所に勤めている。
「はぁ、彼氏さんは会いたいって言わないんですか?」
「えぇ、頑張ってねとだけ言ってくれるわ」
「それ、気を使ってるんですよ」
「え? そうなの?」
「……この人、心配だなあ」
「一応、先輩だから心配しないでね」
私は美咲ちゃんに心配させないためにニコッと笑った。
美咲ちゃんは駄目な人を見るような目で私を見て、頭を掻きながら自分の仕事に戻った。
その日の夜、研究所内の自室で彼にメールを打った。
私は電話は苦手だ。
自分の言いたいことの半分も言えなくなる。
話の構成能力の低さとアドリブがきかないせいだろう。
美咲ちゃんが言うには、彼は気を遣っているらしい。
〉〉気にしてたの?
〉〉何の話?
〉〉私があなたと一緒に暮らせなかった事
〉〉あぁ、それか、なんで今(笑)
〉〉後輩がね、あなたは私に気を遣っているんだって
〉〉ふーん、いい後輩だね
〉〉やっぱり気を遣ってたの?
〉〉ちょっとだけね
〉〉お正月、そっちに行くわ
私はすっきりして、その日はいつもよりぐっすりと三時間も眠れた。




