第93話 [陸 最終]君となら楽しい回り道
俺は好きな人に振られた。
理由は単純でその人にはもう付き合っている人がいたからだ。
しかし、それでも俺は告白した。
知っていながら、告白した。
そのこと自体には、何の後悔もない。
今、問題なのはそのことじゃない。
俺の事を好きだと言ってくれる人がいる。
俺に好きな人がいることを知っていて、好きだと言ってくれる人がいる。
彼女に俺は無理だと言った。
今、好きな人がいるから無理だと。
それでも待つと彼女は言った。
そして、俺が振られた今は、その待ち続けた彼女に答えを出す時ではないんだろうか?
いつもの練習終わり、俺は沢田先輩をいつものファミレスに呼び出した。
いつものと言っても、もう二人きりでは随分行ってない気がする。
目の前の先輩は、彼女は、何も言わずについてきてくれた。
喉に何かドロッとしたものを流し込まれたみたいな詰まりを感じた。
しかし、俺は言わなくてはいけない。
「……俺、振られました」
目の前の沢田先輩は、少し冷めたコーヒーをすすった。
「うん、何となく見てたら、そうかなって思ってた」
沢田先輩は静かに頷いた。
前より大人っぽくなった気がする。
「で、どうする?」
彼女は俺に問うた。
この先は自分の口で自分で言わなくてはいけない。
今すぐ、付き合うのは無理だ。
俺の傷心など問題ではなく、彼女に対して失礼過ぎる。
彼女は待ってくれていた。
俺と俺の愛した三島先輩との関係に決着がつくのをだ。
そんな彼女にまるでスペア、二番手、代用品、穴埋め、そんな言葉が当てはまってしまうような事を俺はしたくなかった。
なら、俺と彼女が結ぶべき関係は、
「沢田先輩、俺と友達になってください」
「……は?」
沢田先輩の調子の外れた声が聞こえた。
それを無視して俺は続ける。
「俺があなたを好きになりたいなんて偉そうなことは言えない。でも、また先延ばしかよって思われるかもしれないけど、あなたをちゃんと知りたい。先輩とか後輩とか関係なく、友達になってちゃんと知りたい」
沢田先輩の苦笑しながら、小さく溜息をもらす。
「……なんだよ、それ」
俺は、回りくどい事をしている。
誰も望んでない事をしている。
でも、ちゃんと彼女を愛したいから、中途半端は嫌なんだ。
時間は大切だ。
だから、その大切な時間を彼女の為に使いたい。
そして、俺の為に時間を貰いたい。
「そして、俺からちゃんと沢田先輩に告白したいです」
彼女は顔を伏せた。
そこにいつもの勝気な彼女の顔はなく、また同じ言葉を繰り返した。
「なんだよ、それ」
俺はそれを了承と解釈した。
「取り敢えず、七海って呼んでいいですか?」
「……調子乗んな……それはもう少し後だ」
回り道もした傷もついた、そんな俺たちはもう焦らなくてもいい。
もう少しだけ自分たちのペースで回り道しながら歩こう。




