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第70話 [漫Bオマケ]友情熱き会議

 書店で及川におススメの漫画を教えていた時のことだ。


「私、赤ちゃん好きなんですよね」

「あぁ、頭のレベルが近いからな」

「寧ろ、頭皮は先輩に近いですけどね」


 今日は部室をヤンキー西川に占拠されているため、他の部員たちもそそくさと部室を後にし、その帰りに及川に捕まり、ここに来ることになった。

 食べ物系が好きだと言っていたから『食う寝る丸太』や『幸福グラビティ』などを進めるも反応が悪く、雑談になり始めたところだ。


「私、オムツ替えるのと、ミルク作らなくていいなら、ベビーシッターやってみたいです」

「お前、ベビーシッター何やるのか知ってる?」


 それほとんど何もやってねぇよ。


「あと、赤ちゃんの名前つけてみたいです」

「例えば?」

「私の尊敬する人の名前をとってクリストファーなんてどうでしょう?」

「お前、百エーカーの住人なの?」

「女の子なら、クリスティーナで」

「そのクリスに対するあくなき執念はどこからきてんだよ。まだ、きらきらネームの方がツッコみやすかったわ」

「……あず◯ゃん、とかですか?」

「それはきららネームだ」


 いや、きららネームなんてワードあるか知らんけど。


「ってか、お前、外国の名前ばっかり付けてるけど、外人とでも結婚する気なの?」

「いえ、私は先輩と結婚しますよ?」


 その言葉の後に変な間が出来る。


「……唐突なプロポーズやめろ」

「……はい、思ったより照れますね」


 及川の自爆により、両者ノックダウンし、互いに顔が直視できなくなる。

 その空気を変える為に及川が話題を変える。


「ところで、気になってたんですけど、いつも他の部員の人たちって部活ない日って何してるんですか?」

「あぁ、あの人達なら、大概、誰かの家か、ファミレスか、ファストフード店で駄弁ってるよ」

「えぇ、楽しそー、日常系アニメみたいですね。今度私達も行きましょうよ」

「そんないいもんじゃねぇよ」


 どこにでもいる男子高校生の時間潰しの会話なんてろくなもんじゃない。




「では、会議を行う。皆いるな?」


 その声は、会議室に響きは……せず、普通にファーストフード店の隅の飲食スペースの席で響いた。

 その声に細身のメガネが挙手して答える。


「はい部長、川本、西田、ヤンキー西川、及川ちゃんがいません」

「うむ、彼らには意図的にこの会議があることは知らせてない」


 部長の返事にぽっちゃりとしたメガネがやや呆れて会話に加わる。


「うち部員8人なのに、半分に伝えてないって皆とは程遠いですね」

「まぁ、議題が議題だからね」


 ぽっちゃりとしたメガネにメガネじゃない奴が答える。部長、細身のメガネ、ぽっちゃりメガネ、メガネじゃない奴、彼らは高校の漫研の部員である。

 今日は部室をヤンキー西川に占拠された為、こうしてファーストフード店でマッ◯シェイク片手にダベっている。

 これは割といつもの光景なのだが、一つだけ違うのは、今日は深夜アニメのアタリ、ハズレの話ではなく、漫研の部内のことについての話だという事だ。


 謎の沈黙に部長が議題を切り出す。


「ずばり、みんなも薄々分かっているとは思うが、我が部の紅一点、及川ちゃんの事だ」

「一応、西川も女ですけどね」

「あれは紅一点というより、点は点でもタバコの吸い過ぎでできる天井のヤニの後だ」

「聞かれたら殺されますよ」


 部長は日頃の恨みのせいかヤンキー西川の陰口がやや苛烈だ。

 話が逸れてきたので、メガネじゃない奴が軌道を修正する。


「要は及川ちゃんと西田でしょ?」


 皆の身体がわかりやすいぐらいに震える。

 及川は漫研内で少し前で言うところのオタサーの姫的存在で現在会議中の四人にちやほやされてきた。


 しかし、ここ数週間である変化が起こっている

 今、ここにはいないが、漫研の部員の一人であるオデコの広い男子部員の西田と明らかに距離感が近くなっている。特に地元の花火大会後ぐらいから顕著である。


「……やっぱり、あれって」

「皆まで言うな!」


 細身のメガネの言葉を部長が制す。

 部長の目にはきらりと光るものが見える。


「……部長」

「西田、いつも俺たちの事を遠目で眺めてるだけだったのに、どこで及川ちゃんと親しくなったんだ?」


 部長は悩ましげに頭を掻く。

 その様子に部員たちは労りの声を掛ける。


「埋めます?」

「沈めます?」

「溶かします?」


「…………」


 しかし、その声に部長は答えない。

 部長が震える手でマックシェイ◯を持ち、ストローに口を付ける。ストロベリー味だ。

 その様子を見ながら、他の部員たちは部長に聞こえぬよう、こそこそと話し始める。


「やっぱり、部長一番落ち込んでるな」

「まぁ、一番及川ちゃんに入れ込んでたしな」

「この前なんか、及川ちゃんが見たいって言ってたアニメのブルーレイボックスたまたま持ってたって貸してたもんな」

「あぁ、俺、部長の家によく遊びに行くけど、絶対あのアニメのボックスなかったよ。あれ、及川ちゃんが見たいって言ったから買って来たんじゃね?」

「マジかよ、重症だな」


 マック◯ェイクを飲み干した部長が次に口にした言葉は意外なものだった。


「みんな、見守ろう」


 他の部員たちは意外そうな顔をする。

 メガネじゃない奴が声をうわずらせる。


「いっ、いいんですか、部長?」


 部長はメガネの鼻を少し持ち上げる。


「いいんだ。及川ちゃんの幸せが一番だろ?」


 その言葉に他の部員の目にも光るものが、


「……部長、成長しましたね」

「部長を決める時なんて、絶対部長がいいって駄々こねてた人とは最早別人だな」

「部長がいいなら、俺たちは構いません。別に今まで通り及川ちゃんとは仲の良い先輩後輩で俺は満足です」


 皆の言葉は暖かった。

 部長はその言葉に照れくさくなり、鼻の下を指でこする。


「へへっ、それにもしかしたら棚ぼたもあるかもだしな」

「あはは、そっちの方が部長らしいや」


 ファーストフード店の片隅で小さな成長を遂げた瞬間だった。


 確かに及川は漫研内で、紅一点として四人からチヤホヤされている。

 しかし、細身、ぽっちゃり、メガネじゃない奴、彼らには部長に一つだけ秘密があった。


 部長は知らない。

 彼らにはそれぞれ彼女がいる事を。


 漫研は今日も平和だ。



注釈

「食う寝る丸太」……突然、己の意志を持ち、自由に体を動かすことが出来るようになった資材置き場の丸太。しかし、一切意欲的なことはせず、食って寝るだけの日々を送る。しかし、大食いチャレンジ編ではその特技を生かし、大食いで荒稼ぎをするも、読者の求めていたものと違うとクレームが入り、結局ほとんどを食う寝るだけの描写で終える。


「幸福グラビティ」……冴えない独身の主人公の元に突然現れた完全無欠のヒロイン、作中でも何故このヒロインが主人公の元に現れたか最後まで明かされず、毎度いくらかかってるんだと思うほどの食事を出し、幸せなのに、どこか謎の重圧を感じる料理系ラブコメの金字塔。ヒロインが夜中に包丁を研ぐ描写に毎話一ページ以上使うところに恐怖を感じる読者が続出。



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