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第62話 [双子5]夏の生温さ

「じゃーん、ミーくん、見て見て!」


私は双子の兄であるミーくんにそれを見せつける。


「先生に怒られても知らないよ」

「夏休みの間だけだもーん」

「また目立つ色にしたね」

「えー、ミーくん黒好きじゃん」

「それは服の色とかの話でしょ、ネイルの話じゃないよ」


そう、私はネイルをミーくんに自慢している。


「えー、黒大人っぽいじゃん」

「その発想が子供っぽいよ。大人がするから魅力が増すだけで恵がしても謎の奇病みたいだよ」


私は無言頬を膨らます。

そして、ミーくんに詰め寄り無言で「言い過ぎでしょ」の抗議の視線を送る。

流石に双子だけあって、そのサインにはすぐ気が付いた。


「ごめん、言い過ぎた」

「じゃあ、似合ってるって言って」

「嘘はつけないよ」


私はまた頬を膨らまし、綺麗なネイルがされてる指でミーくんの頬をつつく。


「えいえい」

「ちょっ、やめろって」


ミーくんの頬はマシュマロみたいに押した私の指を押し返してくる程の反発力がある。

それでいてスベスベで、しっとりとしていて女の私よりモチ肌かも知れない。


「ちょっと、恵?」


私はミーくんの言葉も耳に入らず夢中で頬をつつく作業に没頭した。

これがゾーンというやつか。


「恵、聞いてる? そろそろやめて」


「えい!」


私はうるさいミーくんの唇をキラキラとラメの光る指先で押さえた。


「私の悪口ばかり言う口はこれ?」

「…………」


ミーくんは唇を押さえられているので、何も言えない。

私は今度は、そのしっとりとした唇の虜になる。

ゆっくりとなぞり、その感触を味わう。


この口がいつも私を呼んでくれるんだね。


私はその唇の間にゆっくりと指を滑り込ませる。


……あったかい。


そして、仄かに硬い歯の感触がある。

この先にはあなたの舌があるんだね。


私の指を食べてもいいよ。


私は指先で固く閉じられた扉のような歯にノックする。


すると、ミーくんはゆっくりと目を閉じた。

そして、その扉は開き、私の指は彼と一つに――。


「いったーい! ミーくんが噛んだ!」


私の指をミーくんは結構強めに噛んだ。

甘噛みとか可愛いやつじゃない。

私はせっかくネイリストさんにしてもらったキラキラの爪に少し傷が入ってるのを見つける。


「あー、今日してもらったばかりなのにー、ってか普通に歯型ついてるー」

「調子に乗った恵が悪い。自業自得でしょ」


ミーくんはキッチンの流し台で、ぺっと唾を吐き出した。

なんかショックだ。


ミーくんはもう興味をなくしたようで、テレビをつけてソファに座った。


「……生活指導の先生とか普通に見回ってるから出かける時気を付けろよ」

「うん!」


私はその少し湿った指先をお風呂に入るまで洗わなかった。



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