第59話 [姫2]ミーハーからどハマり
私は朝ニュース番組をしっかりと見て学校に行く。
どう? 偉いでしょ。
「あんた、そろそろ出ないと学校遅刻するわよ」
「分かってる」
母が私を急かしても私は優雅にニュースを見る。
『さて、今日の星座占いです』
来た。
いつものお姉さんの元気な声がリビングに響く。
私は目を皿にして注目する。
『かに座は三位です。いつもと違った行動をすると吉かも。ラッキーアイテムはアルミホイルです』
私の星座は呼ばれ、お手軽なラッキーアイテムを付け加えられる。
三位か、まずまずね。
でも、あとあの人の星座がまだ呼ばれてないな。
『さぁ、残ったのはさそり座としし座のあなた』
—ドルルルルッ
安いドラムロールが流れる。
『一位はさそり座のあなた、何をやっても好転します。自信をもってなんでも挑戦してみましょう。ラッキーアイテムはカブトムシの幼虫です』
いつかクレームが入りそうなアイテムをお姉さんが読み上げると、私は小さくガッツポーズして家を出た。
一位がベスト、次が十二位だ。
だって、そっちの方が話題になるから。
私が早足で学校に向かうと、通学路でいつものキリリとした背筋の良い後ろ姿を見つけた。
私はコホンと軽く咳をして、喉を整える。
自分に出来る最高の可愛い声でその背中に声を掛ける。
「北条せーんぱい、おはようございます」
「おや、一条さん、おはようございます。今日も元気ですね」
「はい、元気だけが取り柄です」
今でこそ、こんなにスムーズに話せるようになったが、これには紆余曲折があったのだ。
北条先輩、私の高校に変な時期に転校してきた一つ上の転校生。
最初は噂程度にしか知らなかったんだけど、偶然通学路が同じことに気が付いてから、私はつい目で追ってしまっていた。
でも、ある日、私が慌てて学校まで走っていると、生徒手帳を落としてしまい、それをたまたま後ろにいた北条先輩が拾ってくれたのだ。
少女漫画みたいな展開でしょ?
でも、それ以降挨拶をする程度で全く進展はしない。
なので、私はどうにか接点が欲しいなと思った。
北条先輩は部活に入ってないし、校内じゃカッコいいことで有名なのでライバルも多い。
だから、アプローチをかけるなら、断然この登校中しかない。
しかし、何も話題が思いつかなかった。
何せ、まだ北条先輩の事は何も知らないのだ。
校内で流れる噂も骨董無形なものばかりで、いまいち確証がない。
そんな調子で挨拶をしては終わってしまう登校が過ぎて一、二週間ぐらい経ったときだった。
私は見つけてしまった。
そう、朝の星座占いをだ。
この世に生まれてきた限り皆の中に存在するもの、それは星座。
私はいつものように挨拶をされると、勇気を出してその話題を切り出してみた。
「北条先輩って、なに座なんですか?」
「私ですか? 私はさそり座ですね」
北条先輩はいつものように、どこかの執事さんみたいな口調で答えてくれた。
この話題の初日は気合を入れていた。
何故なら朝の時点で北条先輩の星座が分かっていなかったので、十二種全て暗記する必要があったからだ。
頭がいいとは言い難い私は人生で一番頑張って暗記した。
「わー、さそり座なんですか! 今日、朝の占いで二位でしたよ。ラッキーアイテムはくるみ割り人形だそうですよ」
「へー、そうなんですね、丁度くるみ割り人形を持っていたので良かったです」
「おー、凄いですね。って、何故持ってたんですか!」
「姫子さ、いえ……妹の持っていたものが、壊れてしまって、学校の帰りにでも修理に出そうかと」
「へー、妹思いなんですね」
普通、妹もくるみ割り人形は持っていないと思うけど、北条先輩のプライベート情報が手に入ったことが嬉しくてツッコむのを忘れていた。
そう、思った以上に上手くいったのだ。
下手したら、朝挨拶してただけの女が急に馴れ馴れしく占いの話をしだしたら、変な女だと警戒されて挨拶すら怪しくなるのではと危ぶんでいたが、北条先輩の海底二万海里のような深い懐があればそんなことは気にならないらしい。
その日は会話も弾み人生最高の登校となった。
なんなら、もう学校につかなくてもいいとさえ思った。
私が朝必死に占いをチェックする理由はそんな理由だ。
だから、今日も今日とてそこから切り出す。
「北条先輩、今日は星座占い一位でしたよ! 何をやっても上手く行くそうです。ラッキーアイテムはカブトムシの幼虫だそうですよ」
「それはそれは朝から、験がいいですね。丁度カブトムシの幼虫を持ってきてたんですよ」
「何で持ってるんですか! 流石ですね。でも、絶対私に見せないで下さいね」
「おや、一条さんも苦手ですか、私もあまり得意ではないんですが、亜里沙の趣味で朝忙しくて受け取れないからと、お得意様のブリーダーに私が受け取りに行く羽目になったんですよ」
ふむふむ、北条先輩も虫が苦手と、あとでメモしておこう。
でも、今はそれ以上に気になることがある。
「あの、亜里沙ってうちのクラスに転校してきた磯部 亜里沙さんですよね? やっぱり、二人は付き合ってたりするんですか?」
実は北条先輩と同時期にうちのクラスにも二人の転校生が来たのだ。
磯部亜里沙さんとはその一人でとても美人でよく北条先輩といることから、美男美女のお似合いカップルではないかと噂されている。
そう、今、私は校内でも五本の指に入る注目ニュースについて聞いてしまったのだ。
私と磯部さんではそもそも勝負にならないのだが、でもやっぱり好きな人に恋人がいるとしるのはショックである。
胸がドキドキしてきた。
しかし、そんな私を気持ちを知ってか知らずか、北条先輩はあっさりと答えた。
「亜里沙と私が? ありえませんよ。あいつとは腐れ縁ですよ」
「へっ、へー、いいなぁ」
「ん?」
「あっ、いえ、なんでも」
恋人でないことを知って、少し安心して口から油断が零れてしまった。
でも、私もいつも丁寧な言葉遣いの北条先輩からあいつとか言われてみたいなぁ。
これぐらいの願望だったら歪んでないよね?
私が脳内に花畑を咲かせていると、北条先輩が思い出したように「あっ」と短く声を上げた。
「これを一条さんに渡そうと思っていたんですよ」
そう言って鞄から取り出したのは、綺麗に包装された本みたいな形をしたものだった。
「これは?」
「正確な日にちが分からなくて申し訳ないんですが、星座からいって、そろそろ誕生日ですよね。何をお渡ししたらいいのか迷ったんですが、一条さん占いがお好きなようですし占いの本にしてみました」
好きなのはあなたです。
確かに私の誕生日は明日だが、思わぬ不意打ちにあたふたしてしまう。
「えっ? そんな誕生日プレゼントなんて本当に貰っていいんですか?」
「はい、いつもよくしてもらっていますし」
その太陽よりも眩しい笑顔に圧倒される。
私はそのプレゼントを受け取り、胸に抱えた。
「……もっと、ハマってしまいそうです」
「それは良かったです。また、詳しくなったら私にも教えてくださいね」
「……はい」
ハマるのはあなたにです。




