表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/352

第5話 [漫A1]君が目立つ理由

「なぁ、なんかおススメの漫画貸して」


 漫研の部室。

 古いストーブの上のやかんがカタカタと音を立てる。

 僕は部室の漫画を読んでいた。

 そんな時、金髪プリン頭の先輩が、僕から漫画をカツアゲしようとしてきた。


「僕、ワース○もク○ーズも持ってないんだけど」

「直幸、私がヤンキー漫画しか読まないと思ってない?」


 ちゃんと伝わるあたり、好きなのは好きなんだろう。


「暇なら帰れば?」


 そう冷たく言い捨てると、彼女は拗ねたように口を尖らせる。


「暇だから、ここにいるんだろー。お前、そんなに私といたくないわけ?」

「ぶっちゃけ、ヤニ臭いから、あんまりいたくない」


 わかりやすく目に涙を貯め出したので、素早くフォローする。


「嘘、嘘、冗談だよ」

「……殺す」


 ユーちゃんは、俗にいう幼馴染だ。

 小学校は、おろか、幼稚園からの付き合いである。

 昔は、おとなしい子だったんだけど、中学あたりから、ヤンキーへと豹変し、高校の今でも、ちょくちょく生徒指導を食らっている。

 うちの高校では、どこかの部に所属しなければならないのだが、そんな制度は半分形骸化していて、適当な部に幽霊部員化した部員がわんさかいる。

 その一人がユーちゃんだ。

 今日は友達と遊ぶ用事もない為、部室で暖を取っているというわけだ。

 日頃は、他にも二、三人部員がいるのだが、みんなユーちゃんにビビッて帰ってしまった。みんな、すまん。


「直幸の好きな女キャラが出てる、漫画貸してよー」

「絶対、ユーちゃんそういうの嫌いだと思うよ」

「別にいいよ、直幸の好きな女のタイプ調べるだけだから」

「…………」

「あっ、照れた?」

「いや、全く。漫画を悪用しようとしてたことが許せないだけだよ」

「えっ、ごめんな」


 本当は少しだけ照れた。

 ユーちゃんは、部室のパイプ椅子をガタガタと揺らしながら、しつこく話しかけてくる。


「直幸、私のこと好きか?」

「うん、好きだよ」

「…………」

「あっ、照れた」

「……少し」


 ユーちゃんが分かりやすく頬を染める。

 ユーちゃんは正直者だ。


 ユーちゃんは勢いそのまま、いつもの定型文を言う。


「なぁ、私たち付き合わない?」


 僕は、それにいつもの定型文で返す。


「ユーちゃん、僕の好きは家族や友達に対するLIKEだって言ってるでしょ」

「私はLOVEなのになー」


 そうなのだ。

 いつの頃からか、ユーちゃんは僕と異性として付き合いたいと言い出した。

 僕にとってユーちゃんは手のかかる姉のようなものなので、どうもそういう気分になれない。

 なので、僕はこの話になると、いつも決まってはぐらかす。


「今日は、もう帰ろっか」

「うん」


 ユーちゃんも慣れたもので、今日も無理かと、少し残念そうな顔をして帰り支度をする。




 昼休みの教室のベランダで、いつものように僕はクラスメイトの相良と、とりとめのない雑談をしていた。


「相良って、姉ちゃんいたよね」

「四つ上に一人いるな」

「その姉ちゃん好き?」


 相良は真面目な奴で、そんなふざけた質問にも真面目に考えて答えを出してくれる。

 こいつのこういうところは好きだ。


「家出したり、急に一人暮らし始めたり、破天荒な人ではあるが、嫌いじゃないな」


 大分ヤバい姉ちゃんだな。


「付き合える?」

「それは、無理だ」


 相良は即答する。


「だよなー」

「また、ユーちゃんさんの事か?」

「うん、最近どんどん告白頻度が多くなっている気がするんだよ」


 その後も昼休みいっぱいまで、僕らは互いの愚痴をこぼしあっていた。

 

 いったい、いつから、ユーちゃんは僕を異性として意識し始めたんだろう。


 あと、こんな冴えない男のどこがいいのかも全くわからない。


 ユーちゃんは、美人なのでもっといい男と付き合えばいいのにと常々思っている。


 世の中、思い通りにいかないものだ。




 今日は、部員の集まりも悪く、僕も好きな漫画の新刊が出ていたため、早く帰ることにした。

 漫研を出て、階段を降りようとすると、屋上につながる階段の踊り場の方から、何やら話し声が聞こえてくる。

 片方は、ユーちゃんも声だった。


「だから、無理だって」


「いいじゃん、唯。俺と付き合おうよ」


「いや、私、好きな奴いるし」


「えー、脈なしなんじゃないの?」


 どうやら、ユーちゃんのクラスメイトの小山先輩に交際を迫られているようだ。

 小山先輩かー。


  

 僕は、二人のもとに割って入った。


「すいません、僕の彼女なんで」


 そう言って、有無を言わせずにユーちゃんの手を引っ張って、その場を去った。

 ユーちゃんは、その手を強く握り返してくれる。

 

 小山先輩は駄目だ。チャラいし、頭悪いし、何より一度二股をしている。

 ユーちゃんにはいい男と付き合ってほしいのだ。

 僕が認めた男なら、喜んで交際を許可する。

 ユーちゃんの周りの男に、今のところ条件を満たしている男はいないけど。

 これは、あれだ、父親的目線だ。

 単身赴任しているユーちゃんのお父さんの代わりに目を光らせているだけだ。

 あー、ユーちゃんに相応しい男が現れなくて本当に残念だなー。


「ねぇ、いっつも思うんだけど、もうこれ付き合ってるって言って良くない?」

「駄目に決まってるでしょ、今日みたいな悪い虫を払う時だけだよ」

「そっか、残念だなー、だったら、もっと告白されるように、派手で目立つ格好しなきゃなー」


 本当、どこかに、ユーちゃんに見合う男はいないものかな。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ