第39話 [双子 1]何か言って
「ねぇ、私、今日誕生日なんだけど」
私は彼が忘れているはずがない事は、百も承知だったが念押しの為に告げてみた。
彼はソファで寝っ転がりながら中までチョコたっぷりなやつを食べていた。
「奇遇だねー、俺も誕生日なんだー」
そりゃそうだ。
だって、私たちは双子なのだから。
一応、私が妹でミーくんが兄。
でも、別にどっちが上とか下の感覚はあまりない。
「ミーくん、何か頂戴よ」
そして、私はめげないで物をねだった。
「じゃあ、恵こそなんかくれよ」
ミーくんは私の名前を呼び捨てにして反撃する。
小学校まではメグちゃんと呼んでいたくせに、同級生の子たちにからかわれるようになってからは、私の名前を呼び捨てするようになった。
それがきっかけだった。
私は人生で初めて名前を呼び捨てにされたのだ。
恵。特別珍しい名前じゃない。
でも、私の母も父も祖母や祖父だってメグちゃんと呼んでいる。
友達にもそう呼ばれていたし、先生や男子は苗字の吉河と呼んでいる。
だから、ミーくんに突然「恵」と呼ばれた時、体の中で何とも言えないものが走るのを感じた。
心臓が仔馬のように跳ね、脳がお花畑で日向ぼっこしてるみたいにトロンとし、指先がピリピリと冷えていく。
この感覚は何だろう?
最初は分からなかった。
ミーくんに「恵」と呼び捨てにされるときに、その感覚が押し寄せてくるのだけが分かっていることだった。
元々、仲のいい双子だったが、呼び捨てにされるようになってから私の方が生まれたてのアヒルのようにミーくんにべったりしだしたので周りからは更に仲の良い双子に見えただろう。
恵、恵、恵
あぁ、もっと読んでほしい。
ミーくんがソファにうつぶせになってテレビを見始めたのでチャンスだと思った。
私は何も言わずにミーくんの背中に体を重ねるように覆いかぶさった。
肩と肩を同じ高さに持ってくると私の足先がミーくんのふくらはぎの辺りで止まる。
双子なのにあんまり私たちは似てないみたいだ。
ミーくんの上で薄っすらとドキドキしながらも私もテレビを見た。
どうでもいい内容のバラエティ。
私がミーくんの上に乗ってもミーくんは何も言わない。
私の小さな胸がミーくんの背中に触れてもミーくんは何も言わない。
私の鼻先がミーくんの後ろ髪に触れ、私はゆっくりと鼻で息を吸う。
オレンジの香りだ。それは私の家のお風呂場にあるシャンプーの匂い。きっと私の髪からも同じ匂いがする。
私、ミーくんの髪を嗅いでる。
変態みたいだ。
ねぇ、ミーくん、分かってるでしょ。
何も言わないの?
「……ねぇ、ミーくん、欲しいもの決めた」
「何?」
ミーくんはこちらを見向きはしない。
きっと、私たち双子の唯一そっくりなその瞳でつまらないバラエティを見てるんだ。
私は背中越しのミーくんの胸板とお腹に滑り込ませるように両手を回す。
つまり、抱きしめている。
でも、ミーくんは何も言わない。
「……どこまでいい?」
私は、どこまで許されるの?
教えてよ、何か言ってよ、ミーくん。
私は何も言わないミーくんの耳を優しく甘噛みする。
「それ以上は駄目だよ」
あぁ、ミーくんが止めてくれて良かった。
彼の瞳はちゃんと私を見ていた。
私とそっくりなその瞳で。




