表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
341/352

第355話 私にだけ冷たい風

 冷たい風が頬を撫でた。

 冬の海辺はどこか寂しそうで私は丁度いい居心地の良さを感じていた。誰もいやしないけれど、時々横切る黒猫とカモメが完全な無機物感を破壊し適度にほぐす。


 私はローファーをカツカツ鳴らして誰もいない堤防まで歩いて行く。勿論そこまでの道程で誰とすれ違うこともない。


 空と海が重なって私の視界の一枚絵がシンプルな色味になった。


 次のバスの時間まで1時間以上ある。


「どうやってきたの?」


 なのに私の背後には省吾が立っていた。


「自転車」

「遠かったでしょ」

「1時間ぐらい」


 デートでだって歩調を合わせない彼がよくここまで来たものだ。


「飛び込むのか?」

「なわけないでしょ」


 省吾は私の隣に座った。


「寒くないか?」

「別に」


 痩せ我慢を言った。

 雲の流れを見つめ、夕暮れを待った。陽が落ちれば更に温度も落ちてくることだろう。

 

「……俺は捨てられるのか?」

「私が捨てらたんでしょ」

「誤解だって言ってるだろ」

「誤解じゃないよ、事実だけ」


 そこにあるのはそれだけ。

 どれだけ強固に見えていたものも呆気なく砕けてしまうものもある。


「さて」


 私は立ち上がりお尻を叩いた。


「バス来るから」


 次はもっと心の広い彼女を作りなよ。

 流石にそれは口に出来なかった。

 いつまで経っても子供みたいな理由で壊れていく。


「待ってくれよ」

「待たない、許さない」


 狭量だ。

 さぞ息苦しかっただろう。


 世界中の人にとって些細で下らないものを私は受け入れることが出来なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ