第350話 理由はなくて理由を探して
好きになるなら不思議な人がいい。
平凡、凡庸、普通に平均。どれもつまらない言葉の代名詞。
私はそうはなりたくなかった。
だから探した。私をそこから連れ出してくれる不思議な男。いや、条件さえ満たしているのなら同性だってかまわない。
いつも私はまっすぐ歩かない。
どこに行くにもふらふらと寄り道、道草。
当たり前だが、先生たちからは目をつけられている。
「それなにか意味があるの?」
天気の良い水曜日。
私は天気がいいし、水曜日だから早めに学校を出ようとした。無断早退だ。そんな私のわくわくとした背中に声を掛けるものがいた。
同じクラスの人だ。名前はまだない。いや、あるけど知らない。でも、同じ教室にいるのだから多分同じクラスの人だ。
「えっと、ごめん。私、アナタの名前知らない」
「別にいいよ。寧ろ知られてた方がビックリするし。田中さん、周りに興味なさそうだもんね」
「うん、私が興味があるのは変わったものだけ」
「そっか、それで今日は早退するわけなんだね」
「そう」
クラスメイト君は続けた。
「それに意味はあるの?」
「そういう普通の発想が嫌い。意味がないとアナタは歩くことも息をすることも出来ないの?」
「生きるためだから」
「歩かなくても生きていける」
「そんな馬鹿な」
「なら脚に障害のある人や、病気で寝たきりの人は死んでいるの?」
「極端だな。その人たちにだって何かしらの移動手段はあるだろ」
「ほら、歩かなくても生きていけるじゃない」
私の記憶が正しければ、私がクラスメイトとお話するのはこれが一か月ぶりだ。目の前の彼だけの話ではなく、クラス全体の話だ。それがこんな子供じみた口論になるなんてがっかりだ。
「それじゃあね、私は探し人がいるの」
「君みたいな変わった人が誰を探しているのさ」
私は変わっていると言われて少し嬉しくなる。
「私よりもっと変わった人。不思議な人」
「それは苦労しそうだ」
そう言われて私はもっと嬉しくなる。
「良かったらアナタも来る?」
嬉しいと人は口が滑る。
だから、こんなことを言ってしまったのだろう。
クラスメイト君は考える素振りをすると荷物をまとめ出した。
「喜んで」
「アナタも変わってるわね」
「初めて言われた」
その日も変わったことは起きず、不思議な体験も待ち人も現れなかった。
多分、水曜日だからだ。
「来週も誘ってね」
その一言だけが今までとの変化点だった。




