第330話 尾のないネコ
彼の邪魔をするのが好きだった。
本を読んでいる時、仕事の為にPCと睨めっこしている時、料理をしている時、どんな時でも私が無言で彼の袖を引くと「なに?」って言って作業を中断してくれる。
あぁ、彼にとって私が最優先なんだ。なによりも私を優先してくれるんだなって満足して「なんでもない」って返す。鬱陶しい女だと思う。自覚はある。
お互い積極的にキスするでも抱き合うでもなかったが、大概の時間はそばに居た。周りから見ればどちらも表情に乏しく、冷めたカップルに見えているかもしれない。でも、私は悪くないと一定以上の幸福感を得ていた。
私が何かをしてあげるわけでも、彼が何かをしてくれるわけでもない。
最初はただの学校の先輩と後輩だった。私が彼の友人に告白して振られたその日に彼が私の元へやってきて「付き合ってあげようか」と告白してきた。初めはあまりのタイミングの悪さに素で告白だとわからなかった。
「どこに?」
と、漫画の定番のような返しをしてしまった。もしかしたら彼なりの気遣いや同情のようなものだったのかもしれない。それこそ最初のうちは本当に私のことが好きなのか疑問だった。
彼は私を正面から抱きしめる事があまりなかった。
私がボーッとしていると彼が後ろから私の身体を包むように抱いてくる。
私は「なに?」と尋ねる。
彼は「なんでもない」と返す。
私たちは本当に不器用で臆病だ。こうやってお互いの存在を確かめ合い続けるのだ。




