第318話 肩の荷は下りたけど
達成感を覚えた。
口の中から吐き出した告白の言葉。
結果もまだ耳にしていないのに、胸の中には確かにあるものは達成感だった。
解放されたのだ。
いつだっていつまでもあなたを思う時間が終わる。それは何か一つのことに対するゴールとも言えないだろうか。
放課後の教室にはもう僕たちしかいない。
それが結果に何の変化ももたらさない事も知っているけれど、
「ごめんね。叶君の思いには答えられない」
彼女は気まずさに一度目を伏せ、言葉をどもらせたが、それでも最後には僕の目を見て真摯な答えを出してくれた。それは知っていたものだ。ずっと、知っていた。ずっと、君を横目で見守ってきた。だから、君の視線の先にいる男のことだってちゃんと知っている。
残念だけど、君の物語の横に立つ資格は僕にはないらしい。
「返事、ありがとう。倉敷さんはやっぱり彼が気になるんだよね」
「うん、バカでしょ。今、どこにいるかもわからない奴の事が忘れられなくて、叶君みたいな良い男を袖にしちゃうなんて」
「その言葉が聞けただけ言葉にして良かった。君を好きになってよかった」
「叶君は私を買いかぶり過ぎだよ」
それでも言葉にしなきゃ僕はいつまでも君を諦めきれなかった。
辛い思いをさせてごめんね。君に解釈してもらいたいなんてあまりにも自己中心的で気持ちが悪いにもほどがあるかもしれないけれど、どうしても僕には必要だった。
「多分、もう少しだけ君を好きなままでいると思う。直ぐには切り替えられないと思う。それは許されるのかな?」
「ふふ、あいつを忘れられない私が君に駄目なんて言う資格あると思う」
「ありがとう。先に出るね」
僕はこれ以上彼女と一緒に居ちゃいけない気がして、教室を後にした。
ガラガラと教室の前の扉を開けては静かに閉める。
「……なんで、お前が泣いてるんだよ」
そこにはぐしゃぐしゃの顔で体育座りをする女の子。
僕なんかを今も好きでいてくれる睦美。
「だって、だって、叶が可哀想なんだもん」
「いいのか、今、大チャンスだぞ」
「それどころじゃないでしょー」
本当にいい奴だなこいつ。
僕は睦美に手を差し出す。
「帰るぞ」
「もういいの?」
「馬鹿、これ以上何言ったらいいんだよ」
都合がいいなと僕は僕に悪態をつく。
弱った時に睦美がいて良かったなんて。
多分、憧れと恋は違うのだろうな。




