第310話 程々に明日へ
学校なんて辞めてしまおうか。
暗く沈む闇の中、頭は熱く、心臓はうるさい。昨日までバラ色とまではいかぬまでも、たんぽぽ色程度には陽気で楽しい学園生活を送っていたのだ。
しかし、俺は今日体調を崩したと嘘をつき、学校をサボった。
いや、体調が悪いのは本当かも知れない。
学校に行けばいやでも会わなければいけない。
あぁ、何故俺は月曜日にしたんだ。
いつもいつも浅慮だと自責するが、今回の罪は本当に重い。
俺は湯浅めぐみの顔を思い出す。
いつでも俺に振り撒いてくれた優しさはそのままに少しだけ眉尻を下げるのだ。
『ごめんね、伊本の気持ちには答えられない』
俺は枕がマントルに沈むほど深く深く頭をこすりつけた。
何故、何故、月曜日なんだ。今日、学校をサボったところで週末まであと三日もあるんだぞ。
親だってそんなにサボらせてくれるわけないだろ。
あぁ、学校を辞めたい。
第三者の目から見れば、なんて低俗でくだらない悩みだって思うのだろう。
だけど、今の俺にはそれが全てなんだ。
次の日、俺は凄腕の殺し屋にでも狙われているかのように周囲を警戒して登校した。
下足箱を見ると、湯浅はまだ登校して来ていないようだった。
「あっ」
思わず声が漏れた。そこには湯浅がいたのだ。
どれだけ警戒していてもやはりゴルゴでもない限り背後には気が付かない。
湯浅は俺の前を通過し、下足箱から上履きを取った。
そして、あっという間に教室へ向かう階段を昇っていった。
俺に気付いていないはずがない。
それでも一瞥もくれなかった。
告白する前はこんなこと一度もなかった。
俺はかえって踏ん切りがついてすっきりした。
時期が悪かっただろうか、そもそも勝ち目のない試合だったのだろうか、独り相撲だったかもしれない。
他人から見れば大したことのない彼女と交流した思い出が酷く懐かしい。
これが過去になっていくと言う感覚だろうか。
俺はもう彼女を諦めてしまったのか?
だとすれば、なんて薄情なのだろう。
でも、多分違う。
俺はまだ彼女が好きだ。
そして、俺たちの関係性は昨日の告白で一度変化点を迎えた。
また、一から頑張ろう。
俺は大人になった気がした。




