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第29話 [コンビニ2]デートとは?

「園田さん、来月の頭の土曜はシフト入れないでもらってもいいッスか?」

 俺が来月のシフトを打ち込もうとしていた時、コンビニバイトの後輩兼彼女の上原がそう懇願してきた。

「上原よ、貧乏大学生にとって土日は働き時なんだが、そのシフトを入れるなとはどういった理由だ?」

 妙な提案をするものだ。

 俺は上原の真意を知ろうとじっと見つめていると上原はもじもじしながら歯切れが悪く理由を述べた。

「いや、あのへへっ、もしよろしければ二人で遊びに行かないかなーって」

 あぁ、成程。

「なんだ、デートがしたいのか」

 その単語を口にすると上原は顔を真っ赤にした。

「デッ、デート、そっ、そうッス、デートッス」

「……今日日、デートの単語でそんなに赤面する女がいるなんて思わなかったぞ」

「ほっといてください」

 成程デートか、付き合い始めて二週間ほど経つが、驚くことに俺たちはまだデートと言うものをしたことがない。

 俺が土日びっしり一日中シフトを入れてたのもあるし、何やかんやで上原とはかなりの頻度でバイトで一緒にいたから、その発想が抜け落ちていた。

 これは上原に知らないうちに我慢させてたかもしれないな、悪いことをした。

「わかったよ、確かにまだ一度もデートに行ってなかったのは俺の落ち度だ。土曜は開けておくよ」

 そう告げると上原の顔はパァァっとひまわりでも咲いたのかと思う程明るくなる。

「ありがとうございます」

 なんだが、そこで感謝されるのも変だと思ったが、ツッコむのも野暮かと思い口を開くのを止めた。

 来週の土曜日か。

「まぁ、楽しみにしておくよ。どこに行くんだ?」

 上原は「?」と首を傾げた。

「え? デートプランは園田さんが考えてくれるんじゃないですか?」

 そっかー、それが一般的かー。

 俺は年上の意地からなのか「まかせておけ」と言ってしまった。

 



 俺はオンボロアパートの一室で頭を捻った。

 デートってどこに行くんだっけ? 

 上原が楽しめそうなところってどこだ?

 そもそもデートって「行こう!」って決めてから場所決めるもんだっけ? 

 行きたいところが発生してからデートに行くんじゃ駄目なのか?


 俺は大学の単位のかかった試験ばりに真剣に考えた。

 上原と二人で行って楽しい場所…………駄目だ、あいつとなら無人島に行っても楽しい気がする。

 俺は充電中のスマホを手に取る。

 そして、ポチポチとデートの定番を探し始めた。




 目的の土曜はあっという間に訪れた。

 結局、俺は無難にお昼前に駅前に集合し、映画を見ることにした。

 俺は駅前についてチラッと腕時計を見ると集合時間より二十分ほど早く着いていた。

 少し早かったかなと思っていると目線の先にパタパタと運動神経の悪そうな小走りをして近づいてくる上原がいた。

 補足しておくと男子は運動神経の悪そうな走り方をする女子が好きだ。

「園田さーん、待ったッスか?」

「いや、今来たと―」

 その言葉を言いかけて、あまりにもべただなと言い淀んでしまった。

 いや、べただけど今は用途が合ってるんだから使ってもいいはずだけどな。

 それを察したのか上原は嬉しそうにフフッと笑った。

「なんだか、デートみたいっすね」

「まぁ、正真正銘デートだ」

「それで何の映画見るんすか?」

「一応話題になってたパニックものを見ようと思うんだが、まだチケットは取ってないし希望があるなら変更するが?」

 確かこの映画は上原も気になってると言っていたはずだ。

 しかし、上原の反応はいまいちだった。

「うーん、初めてのデートだし、せっかくだったらもっと雰囲気のあるやつがいいッス」

「そういうもんか」

「そういうものッス」

 まぁ、特に逆らう理由もないしそうするか。


 映画館は土曜だけあってそれなりに混んでいた。

 券売機に行って、一番時間の近い恋愛映画を選んで一度映画館を出た。


 上映時間まで一時間半ほどあったので、二人で近くのファーストフード店に入った。

 上原は常時上機嫌だ。

 俺はシェイクを飲みながら、話しかける。

「楽しそうだな」

 上原はニコニコしながら元気よく返事した。

「はい、なんか夢みたいッス」

「そうか」

 安上がりな彼女もいたものだ。

 俺はトイレの為に席を立ち、用を済まして洗面台の前に立つと日頃の不愛想な自分の顔からは想像もできないほどにこやかだった。

 あぁ、成程、恋人たちが用もなくデートに行きたがる理由が分かったよ。

 ただ、一緒にいるだけで楽しいわけか、そりゃ無敵だ。




 因みにこの後見た恋愛映画で俺と上原は号泣し、帰りに本屋で原作小説を買う程だった。





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