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第261話 時は霞まない

 今日の夜空に月は見えなかった。

 灰色の雲が覆い、月がいるであろう辺りが仄かに黄みがかる。

 僕は夜道を独り歩き、彼女の顔を思い出す。


『返してよ』

『無駄だった』


 もう彼女の顔は月の周りにかかる雲たちのようにうすぼんやりとし始めた。

 言葉にはされなかった。


 でも、それが彼女の答えだった。

 そして、僕は答えを出せなかった。


 僕と彼女では生きてきた時間が違って、まっとうに歩めたとすれば残りの時間も当然違った。

 僕は今しか見ていなくて、彼女は一歩先を見て欲しかった。

 まだ若いなんて恥ずかしい思い上がりで自分を誤魔化し、誰の声も気が付かないふりをした。


『まだいいだろ、そんな先の事は』


 この言葉がきっかけだった。

 彼女にとってはとっくに先ではなくなり、今の話になっていたと言うのに僕はあんな形になるまで本当に分かっていなかった。


 何が怖いのだろう。


 紙切れ一枚に自分の名前を書いてあげればみんな喜ぶんだ。

 長く生きてれば何千枚という書類に名前を書いてきたじゃないか。


 結局、僕は人を深く愛せなかったんだろう。


 あの日から僕は年上の恋人を作ることはなくなった。

 先なんて見たくない。

 今だけ楽しく生きたい。


 間違っているのに、これから間違うのに、

 それを止めるキッカケが欲しいと隠れた月に願う。


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