第25話 加減が本当に難しいんです!
縛りプレー。
と言うものをご存じだろうか?
SM的なものではないぞ。
本来しなくてもいい制約を敢えて自分に課すことで、本来以上の力を出させたり、簡単な作業にスリルを持たせたりするのに使うあれだ。
まぁ、何でそんな話をしたかと言えば、ようは僕が好きなのだ。
でも、それを他人に強要したり、僕の縛りプレーで他人に迷惑を掛けてはいけない。
そんな奴は信用されない。
話は変わるが、僕の人生に僥倖と言える事態が起きた。
僕に彼女が出来た。
大学の研究室で一つ後輩の子と飲み会で意気投合していき、趣味も合ったことから付き合い始めた。
名前はあーちゃん。
少し垂れた大きな目と本人は気にしているけど身長がちっちゃいところが可愛い子だ。
僕は地味目な見た目と男子校だったことから、恥ずかしながらあーちゃんが初めての彼女である。
僕は彼女を大切にしたいと思った。
彼女の良い彼氏でいるには何が出来るだろうと無い知恵を絞って考えてみた。
そして、まずこれだけはしなくてはならないと考えた。
彼女を心から信頼しよう。
僕は得意の縛りプレーを自分に課した。
『絶対に彼女を疑うようなことはやめよう』
いちいち疑ったりして、彼女に束縛してくるような気持ち悪い彼氏だとも思われたくないしね。
一週間の締めとも言えるべき金曜日。
僕はあーちゃんと教授の手伝いにかりだされ、それを何とか日が暮れるまでに終わらせ一緒に帰っていた。
「ねぇ、あーちゃん、この間言ってた映画明日見に行かない?」
僕はあーちゃんに最近話題になっていた映画に誘った。
すると、あーちゃんはバツが悪そうなかおをして頬を掻いた。
「あぁ、明日はちょっと無理かな、出掛ける用事があって」
へぇ、どこに?
と言う言葉を僕はごくりと飲み込む。
いやいや、それぐらいは聞いても大丈夫だよね?
普通に会話の流れじゃん。
いや、でもいちいちウザいと思われるかな?
「へー、そうなんだ」
結局僕は聞かなかった。
「うん、ちょっと友達と買い物する約束しちゃってね」
へぇ、誰と?
と言う言葉を僕はごくごくと飲みまくった。
いやいや、どこはまだしも誰は完全にアウトじゃない?
疑ってるじゃん。
きっと、女友達でしょ。
そうじゃないと、そもそも買い物の約束の話自体しないって。
「そうなんだー、楽しんできてね」
くっそー、聞けねー。
そんな僕との葛藤なんて露知らない彼女の携帯がピロリンと着信の知らせを告げる。
彼女はトートバッグから携帯を取り出し、受信をチェックする。
やめてー、僕の前でそんなに分かりやすくロック解除するの止めてー。
つい覚えちゃいそうになる。
いや、勿論何もしないよ?
でも、ほら、何か目の前でそうされると気になるっていうか、いやこれは信頼の証なんだ。
僕が目を背けてればいい話だろ。
「んじゃ、今日の研究室の飲み会遅れないようにね」
そんな気持ち悪い思考をぶった切るように彼女との帰り道の別れる場所になった。
んー、陽もまだ暮れてないのに送っていこうかって言うのもおかしいよな?
でも、不審者は夕方とかも意外と多いって聞くしなー、心配だなー。
でも、抜き打ちで家に来るなんて浮気疑ってるとか思われるのもなー。
「あーちゃん、僕このままの服でいくし、家について行っていい?」
今度は言ったぞ。
まぁ、これぐらい不自然じゃないよね?
すると、あーちゃんの顔が少し曇った。
「えー、横着は良くないよー、鞄とかも置いてきた方がいいし、一回帰ったら?」
うっ、拒否された。
まぁ、そう言われたら僕にこれ以上押すことなんて出来ないんだけどね。
僕は大人しく一度帰宅することになった。
飲み会はいつも通りのメンツでいつも通り終わった。
ただ、いつもより少しあーちゃんが飲み過ぎたみたいで、フラフラしてたので彼氏の僕が送っていくことになった。
僕は肩を貸しながら、何とか最寄り駅まで着いた。
ギリギリ終電があって本当に助かった。
「うー、寒い」
駅から出て、夜風に当たったあーちゃんが寝言のように呟く。
えぇ、そりゃ寒いでしょうとも。
頼むー、他の男どもがいる飲み会でそんな薄着は止めてー、あいつらのいやらしい目が気になって俺まともに酔えないよ。
まぁ、彼女の衣服にいちいち注文つけるなんて何様だよってなるから言いませんけどね。
今日は土曜日の夕方。
あーちゃんが友達と買い物に出掛けている日だ。
うーん、そろそろ終わったかな?
いや、何も言ってなかったし、夕ご飯も食べてる可能性あるかな。
ここでラ○ンを入れるのはありか?
いや、普通に日常会話的にね?
でも、探り入れてるみたいで気持ち悪いかな?
悩んだ末、僕は何もしなかった。
と、思ったが、そう言えば月曜のあーちゃんと同じ抗議の課題がなんか出てたような気がするけど何だったか忘れたのでライ○をしてみた。
僕『月曜の谷崎の課題何かあったっけ?』
……返信が帰って来たのは日曜の昼だった。どうやら、友達と盛り上がって飲みに行ったらしい。
いや、いいんですけどね。
「きー君、私たち別れよ」
僕はその言葉を理解するのにどのくらいかかっただろうか?
「えっ? なんで? 僕が何かした? 駄目なところあったら直すよ」
自分で口にして思ったが、完全に終わったカップルのセリフだな。
「きー君、私に興味ないんでしょ? いつも相槌適当だし、ラ○ン少ないし、私が他の男と二人で話し込んでても割って入ってこないし、もう私辛いよ」
えー、そう取るんですね。
そして、僕の最後の抵抗も虚しく、僕の初めての彼女はいなくなった。
信頼や信用は目に見えません。
やり過ぎない程度に行動で示しましょう。
疑うのではなく、嫉妬してるよ、寂しいよ光線を出しましょう。
ちなみに、あーちゃんが浮気をしていたかは迷宮入りです。




