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第21話 [漫A 2]あなたに隣にいるその人は

 その子は僕の一つ上の女の子

 初めて会ったのは小学校低学年の時だった。

 家が近所で、よく一緒に登校してた。

 とても可愛いお姫様みたいな子だった。

 笑うと、可愛い八重歯が覗いてもっと可愛くなる。

 その笑顔を見たとき、僕は思ったんだ。

 幸せにしようと。

 だから、僕は彼女を幸せにしてくれる男を探している。




「……なんでやねん」

 僕の隣の席の相良が気だるげにツッコミを入れた。

「何が?」

「いや、お前が幸せにする流れかと思って」

「……お前、まさか僕の心を!」

「いや、普通に口から洩れてたぞ」

「そうか、思考が読まれたかと思ってひやひやしたよ」

「俺はお前のやばい思考に現在進行形でひやひやしてるよ」

 全く、僕の思考の何がヤバいって言うんだ。

 相良はお昼御飯のパンを取り出すと、ため息交じりに次の話題に移った。

「なぁ、うちの高校に転校生が来たって知ってるか?」

 僕も弁当を取り出すと、適当に相槌を打ちながら答える。

「あぁ、確か一つ上の学年だっけ、それがどうした?」

「そいつは、とんでもなくイケメンで金持ちで運動が出来て性格がいいらしいとうちの部の女子たちが騒いでたんだが、どう思う?」

「え? 死ねばいいなって」

 僕は素直な感想を吐いた。

「いや、そうじゃなくってお前的にユーちゃんさんにぴったりと思わないのか?」

 あぁ、なるほどそういう事か。

「うーん、確かに優良物件だね。でも、そんなに凄い奴がユーちゃんに興味なんて持たないでしょ」

「……お前の中のユーちゃんさんの評価浮き沈み激しいな」

「そっ、そんなわけないだろ」

 僕は全く動揺する姿を見せることなく、お箸を落とした。

 このお箸が落ちたことと、僕の動揺には全く因果関係はない。

 僕の様子を見てか相良が深い溜息をついた。

「あのなぁ、ユーちゃんさんはずっとお前の事好きだって言ってるし、お前も好きなんだろ? 適当な男がユーちゃんさんに告って来た時は彼氏のふりして断らせて、いざ優良物件がいたら今度はこっちが釣り合ってないって、無茶苦茶じゃないか?」

 僕は相良の言葉に内心ドキッとしながら、何とか平静を保ち、お箸を落とした。

 因みにこのお箸を落としたことと、僕の内心の因果関係は特にない。

 僕は子供のように「……だって」と小さく漏らした。


「だって、世界で一番いい女をお前だったら、自分は幸せに出来るって言い切れるか?」


 好きな相手が出来たとき、みんなは自分じゃ力不足だって思ったことはないか?

 あんなに優しい人に、可愛い人に、カッコいい人に、自分はそんな人の隣に立つ資格があると思えるか?

 僕が彼女を幸せに出来るビジョンが見えない。

 臆病者だと笑ってくれてもいい。

 でも、その言葉を笑うことなく、相良は下手な相槌を打つだけだった。

「……まぁ、俺じゃないって思う気持ちはわからんでもない」




 今日は漫研がなく、ユーちゃんと一緒に帰っていた。

「なぁ直幸、先週うちのクラスに転校生が来たの知ってる?」

 また、転校生の話題か。

 そうか、ユーちゃんのクラスだったのか。

「うん、なんか聞いたことあるよ。確かイケメンだとか、それがどうしたの?」

 僕が聞き返すと、ユーちゃんはどこか嬉しそうに体をくねくねさせている。

「えっとな、その転校生が、私に告白してきたんだけど、断っても諦めてくれないんだよ。だから、また、彼氏のふりしてくんない?」

「…………え? なんだって」

「だからー、彼氏のふりしてってば」

 僕は思考をクールに保つ、そして、鞄の中からお箸を落とした。

 因果関係は以下略。

 流石、校内でも指折りの美人と名高いユーちゃんだ。

 もう、告白されていたとは。

 でも、どうする?

 今回の相手は断る理由がないほど優良物件だぞ?

 これを断るってのは、流石に勿体無くないか?

 ってか、それはしていいことなのか?

 相良にも言われただろ、それをやったら無茶苦茶だ。


「……でも、その転校生、イケメンみたいだよ」

「そうだね、アイドル顔だったよ」


「運動もできるみたいだね」

「そうだね、こないだの体育で逆転ホームラン打ってた」


「たしか、結構大きな会社の社長の息子とか」

「そうだね、いっつもCMやってるあの会社みたいだよ」


「性格もいいんでしょ?」

「そうだね、人当たりも良くてノリもいいね」


 決定だ。

 彼氏のふりは終わりだ。

 ユーちゃんを幸せに出来るのは、そいつしかいない。

 僕はその意思を伝えようとする。

 喉がやけに乾いて、上手く音が出ない口をいっぱいに開く。

「―っ、あの」

 言葉にする前に、その口はユーちゃんの口によって封じられてしまった。

 密着した顔はゆっくりと離れていく。

「直幸に前から言いたかったこと言ってあげる」


「うん」


「まず、直幸は間違っている」


「どうして?」


「幸せになる為に、誰かと付き合ったり、結婚するんじゃないよ」


「じゃあ―」


「一緒にいて幸せな誰かに、ずっと隣にいて欲しいから付き合ったり、結婚するんだよ」

 ユーちゃんは真っ直ぐに僕の目を見た。

「私の隣は直幸がいいんだけど、お願いしてもいいかな?」

 あぁ、僕ってカッコ悪いな。

「……うん」

 この人の隣にいる為には相当の努力をしなくちゃいけないだろうな。








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