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第11話 [陸6]彼女のバレンタインチョコの味

 甘党のアイツに合わせて目一杯甘めに作った。


「ほら、副部長様からありがたーい義理チョコだぞ。ひれ伏せ男子ども」

 私は副部長という立場上、モテない悲しき男子部員たちにチョコを配ることにした。


「マジですか‼ 沢田先輩の手作り何ですか? 偽物じゃないですよね?」「ありがたや、ありがたや」「うぉぉぉ‼」

 疑う者、拝む者、奇声を上げる者と反応は様々だったが、大体の奴らが喜んでくれた。

 だが、肝心な奴の反応は芳しくない。

 そいつは力なく水色にラッピングしたチョコを受け取ると、小さく会釈をした。

「……あざっす」

 そして、太田は男子部員の輪の中に帰っていった。

 私は胸のあたりがチクリと痛む。


 お前のために作ったんだよ。


 それらしい建前でっち上げて、わざわざ手作りで、可愛いラッピングの仕方調べて、


 お前のために作ったんだよ。


 でも、この思いは届かなくて当然だ。

 あいつの中では、私は何がしたいのかよくわからない先輩だろう。

 私はこの間、ファミレスで太田の恋をしている早紀に恋人がいることを告げた。

 そして、その場から立ち去ってしまった。

 あれから数日が過ぎたが、太田とは気まずい状態に陥っている。


 私は言葉にするのが苦手だ。

 どうでもいい言葉は大きな声で出るのに、大事なことは口からちっとも漏れちゃくれない。

 着替え、部室から出ると私よりも早くグラウンドに出ている二人の話し声が聞こえてきた。

 早紀と太田だ。

 私はなんとなくグラウンドに出て行きずらくなって、他の部員たちが出てくるまで物陰から二人を見つめていた。

 早紀は好きだ。

 太田も好きだ。

 二人とも好きなのに、二人が話していると心臓が握り潰されそうになるぐらい痛い。

 醜く、汚い感情。

 少なくとも私はそう感じてしまう。

 何故、素直に応援出来ないのだろう。

 そんな自分に嫌悪が止まらない。


 世界にはたくさんの人がいて、その中の一人に恋をして、その一人に私も好きになってもらえる確率ってどのくらいあるんだろう?


 選ばれる人と選ばれない人の違いって何?


 あぁ、相変わらず女々しいな。

 どれだけ強そうな言葉や粗暴な態度をとっても、根本的な中身は変わらない。

 幼馴染みに振られた中学時代にもう恋なんてするかと枕を濡らし、男に舐められまいと高圧的な性格になったつもりだったが全然だめだな。




 私は太田を駐輪場で待ち伏せた。

 トボトボと歩いてくる様子を見るに大事なことを伝えることは出来なかったみたいだな。

「よっ、告白できた?」

 私は色んな感情を押し殺し、笑顔を作って話しかけた。

「…………」

 太田は無言だった。

 だが、強く握られた拳や結ばれた唇を見ればわかる。

 目に涙を浮かべないのは、男の子の最後の意地だろう。

「……その様子じゃ出来なかったみたいだな」

 太田は目を伏せる。

 そして、強く結ばれた口がほどける。

「……沢田先輩……俺の事……」

 

 あぁ、その先は聞きたくない。


 私は太田の胸に飛び込んだ。

 太田は避けなかった。

 あぁ、やっぱり男の子だな。

 胸板が厚いや。


 太田から困惑の声が上がる。

「……沢田先輩?……」

 そうだよな。私のキャラじゃないよ。


「……ごめん、これで察しろ」


 本当に私はずるいな。

 聞きたくない言葉は聞かない。

 言わなきゃいけないことは言わない。

 自分が嫌いで仕方ない。


「俺、他に好きな人いるよ?」

「知ってる」

「その人の事諦めきれないかもよ」

「待ってる」

「先輩のこと傷つけるかも」

「大丈夫」


 でも、神様許してほしい。

 彼を好きでい続けることだけは許してほしい。




 自分の家の前で足を止めた。

 余ったチョコを食べてみた。

 彼の為に作ったとっても甘いチョコレート。

 私はスンっと鼻を鳴らす。

「……しょっぱい」

 彼の前だけでは見せまいと堪えていた涙が、口にまで伝わってきてしまったようだ。


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