0:天里京子
本作品に登場する人物、場所、名前などの一切は、実在のものではありません。
一部、作者の偏見に基づく不適切な箇所があるかもしれませんが、容認できる方のみ閲覧ください。
「はぁっ、涼しい」
窓を全開にして、狭いアパートの自室に夜半の空気を流し込む。
今日は酷い夕立で、夜の9時を回ってから止んだ雨は残暑を一気に吹き飛ばした。
私はこの心地よい肌寒さが好きだ。
私の名前は天里京子。とある私大の医学部生。
身長153センチ、体重43キロのミニサイズ。で、ぺチャパイ。
美術部所属だけど毎週ジムで汗を流すのが習慣。
大学に入ってからなぜか姫キャラで通ってるけど、田舎の公立高校に通っていたときの私のあだ名は「うんこ」だった。
しかも家でくつろぐ姿は半裸のオッサンであり、特技は汚れ系ピン芸人のモノマネである。
ブブーっと携帯のバイブが鳴り、私はベッドに寝そべっていた体を半回転させて音の方向に手を伸ばした。
めいっぱい伸ばした指先はピンクゴールドの相棒には届かず、しぶしぶながら四つん這いで目的地まで移動する。
「受信メール、1件」
ちょっとどきどきしながら決定キーを押す。
「マキちゃんだ」
マキちゃん、本名は牧原一輝。同じクラスのイケメンサッカー少年だ。
中東を思わせるような日焼けした肌に、切れ長の眼差しが爽やか。そしてちょっとセクシー。
去年からずっと気になってたけど、話す機会がなくて。
でも今年からマネージャーを始めたことで、ちょっぴり距離が縮まった…ような。
そしてそして、なんとこの間の合宿で、彼をデートに誘ってしまいました!
我ながら、やるぅ!!
――「待ち合わせ、何駅にする?」
文面を見た瞬間に心が躍る。
あの日、練習から帰る車の中で偶然2人っきりになり、私は思い切って『一緒にビアガーデンに行かないか』と持ちかけたのだ。
返事はオッケー!
私はさっそくウェブで検索し、お目当てのアクセス情報をコピペして彼に返信する。
なるべくしつこく見えないように、それでいて適度に絵文字を用いた可愛らしい文面を心がける。
彼はいま友達と海外旅行中で、メールの返事はなかなか帰ってこない。せいぜい一日に1件か2件。
でもだからこそ、それが余計にボルテージを高揚させるのだ。
ああ、なんか私ハマりかけてるよーな…