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馬鹿のふりぁ役に立つらしい。

「そうであろう?」

その言い方が癇に障りやがる。

その言い方は、俺がすぐさまこの美少女に心を奪われて、何でもするかのような物言いだ。

気に入らねぇな。

しかしそれをおくびにも出さないってのも、大事なわけだ。

俺は笑顔を作ったまま、この美少女である、クリスティアーナ姫を見やった。

そして心底そう思う、という調子を作ってこう言う。


「こんなにも美しい女性を、俺は生まれて初めて見ましたよ」


これは真っ向からの事実である。

俺はこんなに、完成された美貌の女を、見た事がない。

でもなあ、俺好みじゃねえんだよ。

それもあってなのか何なのか、この美少女に心を奪われると言う事は、おそらく俺は一生ないに違いない。

しかしそんなのを、国王相手に言うわけがなく、俺はニコニコとほほ笑んでいる、美少女を見ているふりをする。


「吟遊詩人が歌にしないのが不思議ですね。これだけの美しい方ならば、国を超えて知られてもおかしくないでしょうに」


「吟遊詩人たちは、私の宝の美しさを、半分も世間に出せないのだよ、あまりに美しいからね」


言った国王は自慢げだ。

……アリアノーラだって、俺からしてみりゃずいぶんきれいなんだが。

この国王は、自分の好みじゃない娘を、かわいがると言う事がねぇんだろう。

親としてどうかとも思うんだが、そういう親父はいっぱいいるからな。

俺はちらりと思った事を飲み込んでしまう事にした。

今大事なのは、彼らの信用を勝ち得る事だ。

そうすりゃ、あの方の知りたい事を入手できる。

俺の好感度は、二の次さんの次にしなきゃいけないのが、俺の職種の特徴だ。


「大国の王子だって、この美しい女性の前には、一人の男になってしまうでしょうに」


お世辞も大盤振る舞いだ。事実っぽく述べていれば、こういう人種は気持ちよくなると知っているからな、俺ぁ。


「そう思うだろうか? クリスティアーナはあちこちから縁談が来ていてね。結婚相手に事欠かないから、一番幸せにしてくれる男を選ぶ事にしているんだ」


自慢げな国王がそういう。

しかし言い方と言い回しが微妙な感じだ。

この調子だと、あの、アリアノーラはそうではないと言う事なのだろう。

覚えて置かにゃならねえな。

きっとこの情報たちは役に立つ。

そんな直感は、俺にとって良く当たるものなのだから。

国王はそこまで言ってから、はたと手を打った。


「どうだろう、イリアス殿。あなたはあちこちを見て回っているのだろうか」


「見識を広めるために、さすらっているようなものですからね」


嘘も方便、俺はすらすらとあの方に教わった、いかにもな言い訳を述べて見せる。

できない俺じゃねえ。

出来なかった、素直で単純明快だった、七年前のイル・ウルスはこの場所にはいねぇんだから。

俺も成長したもんだ、全く。

ちらりと考えてから、俺は国王の言葉を待った。

俺から話しかけるのは、作法的にいけないのだ。

これくらいの作法は、しっかり覚えたぜ。

それと同時に、裏社会での礼儀作法ってのも、俺は実地で叩き込んだがな。

実際に裏社会の下っ端になって、半年ほど前に覚えきった。

あれはつらかったな。何って貴族以上に目が厳しいもんで、襤褸が出ないかどうかでひやひやして、精神がすり減っちまったんだ。

しかし覚えたおかげで、俺ぁあちらの側に入り込んでも、目立たなくなったし、目もつけられなくなったがな。

そんな事を思い出しつつも、国王の言葉を待っていた時だ。


「どうだろう、イリアス殿。この美しく可憐な、愛しい娘にふさわしい男の話を、知らないだろうか?」


「お父様」


姫君のたしなめる声である。なんで止めるんだか。

どっか、よそに行くのが嫌なのか?

普通王女ってものは、よそに嫁ぐか、国の地盤を固めるために自国の貴族に嫁がされるか、修道院行きってあの方が言ってたんだが。

まああの方の常識が、若干古いのかもしれないんだが……


「私は国の王になるのですから、どこかの方のもとに嫁ぐわけにはいきませんわ」


へえ、この国の女王様になる予定ってのが、こちらのお姫様なのか。

俺はまた情報を手に入れた。

バスチアの王位は最近ごちゃごちゃしたせいで、詳しい中身が外に正しく伝わってねぇんだ。

それもあって俺みたいなやつが、小国バスチアに突っ込まれたという事情があるが。


「未来の女王陛下でいらっしゃいますか。これほど美しく聡明なお方が次の王とは、バスチアも安泰でしょう」


さらりと、美麗字句を並べ立ててみる。意外とこういうのは、俺だからこそ効果がある。

それは俺が、見た目が野蛮で、頭が悪そうで、嘘が付けなさそうっていう前提を、貴族が持ちやすいからだ。

田舎者が、純朴っていうのは古いんだぜ、と思わねぇでもないんだが。

俺はそれを利用させてもらっているから、別段構いやしない。


「クリスティアーナはとても優秀な娘でね、将来が楽しみなんだ。それに比べてバーティミウスは……」


いかにも、な答えと同時に、ため息が吐かれる。

アリアノーラは、俺が接した限りでは、ちょっとばかり気位が高いだけだと思うんだが。

そこまで接触していないからな、何か知らない事はあるだろうが。


「花嫁修業もろくにできない、本当に困った娘で。イリアス殿、どこかにあの娘のような子でも、喜んでくれる殿方を知らないだろうか?」


「……」


それで政治的に、アリアノーラを利用するんだろう。

それができない国王ではないと思うからな。

しかし、父親にここまで言われている娘を、喜ぶ男ってのはろくでなしが多い。

色狂いの狒々爺とかな。若い娘なら何でもいいという、醜聞の多い男だとかな。

俺が世界を回ってきた中で、割合共通しているものはそこらへんだ。

返り血が、寒気がするほど似合っていた、まっちろい肌のアリアノーラだ。

男のつけたがる痕跡は、よく残るだろう。

それで男はかなりの割合で、征服欲を満たされる。

……かわいそうな未来しか、アリアノーラにはねえのかねぇ。

俺は内心で、アリアノーラを哀れだと思った。

父親に愛されない娘ってのは、この世界じゃ欠点持ちだからな。

どんなに美しくできた娘でも、父親に愛されなかったら未来ってのが良くないんだ。

実際に見た事があるから、断言できるんだがな。

答えに窮したふりをした俺を見て、国王が言う。


「まあ、どんな男であっても、バーティミウスを愛してくれればそれでいいんだがね」


「お父様、バーティミウスには、きっと素晴らしい男性が現れますわ」


夢見てんのか、なんなのか、姫君がそう言うのを聞いて、国王が微笑む。


「そうだな、バーティミウスにも、身の丈に合ったふさわしい男が現れるに違いない」


……おそらく、俺ぁよっぽど馬鹿だと思われてんだろう。

国の内情を、俺にさらりと言うのだから。

もしくは俺が、アリアノーラの花婿を紹介してくれると、踏んでいるのか。

しかし俺の知り合いに、アリアノーラに釣り合う男はいない……よな。

いい男は既婚者と決まってんだから。


「イリアス殿、バーティミウスを救ってくれた事を、誠に感謝しよう、いくら言葉にしても足りないほどだ。……今宵は娘二人の誕生日、どうぞこの良き日の宴に参加してほしい」


双子の王女ってわけか。

片方がひいきされて、片方がよく思われてない。

典型的なもんだな。

その典型的さこそ、あの方が付け入る隙ってもんを与えちまう、絶好の機会をもたらすんだが。

さて俺は、どう動くかね。

とりあえずまずは。


「国王陛下、温情がありましたら、私がその宴に出席しても問題のない衣類を、用意していただけないでしょうか」


この与えられた衣服じゃ、その誕生日の宴とやらにはあまりに場違いなんだよ。

真面目に言った俺を見て、国王は頷き、言った。


「我が国の恩人のお願いだ、それ位ならば安い物だろう」

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