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今朝は寝坊して遅刻ギリギリだったため、
朝食どころか水一杯飲まずに会社へ行った。
だからすっかり忘れてたんだ。この桃の事…
僕は、帰り道の途中で買って来た牛乳と冷凍のピザをしまいながら、
桃をじっと見つめてみた。
機能より微かにピンクが濃くなった気がする。
いや、この場合は、やはり
『桃色』
というべきか。
この桃色は、あのとき見た桜の花の色に似ている。
それは、僕がまだ中学生だった頃の話…
僕は片思いの真っ最中。ずいぶん考え抜いた末、
二年生から三年生へと進級する春休み、
電話を掛けて意中の彼女を呼び出した。
桜の木を背にしてベンチへ座り、彼女を待つ。
やがてやって来た彼女へ、
僕はたどたどしく愛の告白をした。
その時、無数の桜の花びらが、
僕達の間を演出するかのように舞っていたのが印象深い。
結果として僕は振られてしまったわけだが、
今思えばその桜のおかげで、
キレイな思い出として心に残った気がする。
あの彼女は、今どこで何をしてるんだろう…
よく見れば、彼女のほっぺたのようにも見える桃を、
僕は人差し指で押してみた。
まだ硬い。
食べ頃まであと二~三日ってところかな。
なので、甘酸っぱい思い出も一緒に入れて、
今日もまた扉を閉めることにした。