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《Blade Online》―Before Dawn―  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
《The reason of a mask 》
8/11

第一話「倉橋綾女」

  

 ――面倒な事になりましたね。


 倉橋綾女は周囲の状況を冷静に判断しながら、内心でそう呟く。


 白い部屋の中、運営の人間と思われる者が《Blade Online》からのログアウト不能、そしてデスゲームの開始を宣言した。それによりプレイヤー達から怒声や悲鳴があがる。


 ――うるさいですね。静かに話が聞けないのでしょうか。


 そんな彼らを冷めた目で見ながら、倉橋はこれからどのように行動していくべきか、Web上で公開されていたβテスターによる《Blade Online》のプレイ体験を綴ったページを思い出す。

 確か《セーフティタウン》という大きな街がスタート地点だった筈だ。その街の隣にある《ワイルドフォレスト》という巨大な森が、プレイヤーが攻略すべきエリアとなっている、と書かれていた。

 

 恐らくゲームが開始されてしばらくの間、他のプレイヤー達は恐慌状態に陥ってまともに行動することが出来ないだろう。その間に寝泊まりするための宿を見つけ、それからアイテムを買い、適当に使えそうなプレイヤーを見繕ってパーティを組み、エリアに出て行くとしよう。

 倉橋の選択肢の中には、街の中に引き篭もるというものは無かった。状況を変えたければ人に頼らず、自分で動くべきだと考えているからだ。


「早く帰って男同士の友情が描かれた二次元の本でも読みたいものです」


――


 倉橋綾女。

 《Blade Online》の世界での名前はらーさん。

 長い黒髪をポニーテールにした、能天気そうに見える大き目の目が特徴の、可愛い外見のアバターに設定されている。

 現実での倉橋の顔つきや目つきはもう少しキリッとしており、可愛いと言うよりは美しいという外見だ。




 《セーフティタウン》に転送された後、倉橋は頭の中に浮かべていた計画通りに、まず寝泊まりするための宿を探した。パニックになって叫んだり、地面にへたり込んでいるプレイヤー達に目もくれず、倉橋は一番最初に目に入った宿に入った。

 古びた宿で、所々木が腐っていた。歩く度に床がギイギイと嫌な音を立てる。倉橋はそれに構わず、カウンターに座って本を読んでいる老人に話しかけた。

 老人の頭上にはNPCと表示されており、本物の人間と殆ど見分けがつかないその外見に、少し驚く。

 老人に宿泊分の金を渡すと、無愛想に部屋の番号を告げられる。倉橋は小さく会釈して、自分の部屋へと向かった。


 部屋の中も宿の内装と同じでかなり古びていた。小さな部屋の中にあるのは固そうなベッドのみ。

 Webの情報ではもっと上質な宿もあるらしいが、倉橋は「まあここでいいか」と早々に妥協する。どうせヴァーチャルリアリティの世界だ。部屋に拘るのはもう少し先でも良いだろう。

 

 ベッドに腰掛けて倉橋は自分のステータスを開いてみる。そこにはレベルやスキル、称号といった色々なプレイヤー情報が記載されている。当然倉橋のレベルは1で、持っているスキルと称号の数も初期状態だ。

 スキルは最初に選んだ武器で使えるものが変わるらしい。倉橋が選んだのは使いやすそうだった槍だ。直接敵に斬り掛かるよりも、長いリーチで相手を突いたほうが有利に戦いを進めそうだと考えた、槍を使うことに決めた。

 この槍の使い方も覚えないといけませんね、と倉橋は背中に背負っている槍の重さを感じながら思う。

 しばらくの間考え事をした後、倉橋はベッド立ち上がって部屋を出た。嫌な音を立てる階段を降りて一階に降りる。


「お」


 そこで宿の老人に金を渡して部屋番号を教えてもらっていたプレイヤーがいた。降りてきた倉橋の顔を見て、小さく声を出す。

 高校生くらいの少年で、前髪を目が隠れるくらいに伸ばしている。襟足もかなり長くギザギザしているのを見て、倉橋は自分の高校時代にいた男子の顔を思い出した。名前は出てこないけれど、彼と似たような髪型の男子が何人かいた覚えがある。


「いやぁ……大変な事になりましたね」


 少年はポリポリと頭を掻きながら、笑顔で倉橋に話し掛けてきた。少年は童顔で、笑うと人懐っこそうな印象を受ける。口から覗く鋭い犬歯が特徴的だ。

 話し掛けてきてくれたのは好都合だと、少年を仲間にすることを考えて倉橋は対人様の仮面を被り、自身のアバターネームである『らーさん』のキャラを演じることにした。


「まさかデスゲームが始まるとは思わないよねぇ。かなり昔に流行ったライトノベルみたいな設定でびっくりしちゃったよ」

「あははは、そうですね、俺もそれ思いました。その小説が頭の中に思い浮かんだおかげで、比較的冷静でいられたんですよ」

「私もだよー。何だかこの状況は自分が小説の主人公になった様な気がして、ちょっと中二心を擽られるよね」

「ああ、そうですね。この状況やべぇ……とか思いながらも、ちょっとワクワクしてる自分がいるって感じですよ」

「これからどうなるんだろうねぇ。あ、君ってどんな名前? 私はらーさんって言うんだけどさ」

「らーさんですか。面白い名前っすね。俺は剣犬って言います」


 本来の倉橋とは真逆の、明るくてふにゃふにゃしたキャラを演じながら、倉橋は剣犬と名乗った少年を観察する。相手の発言に同調してリアクションを取り、少々大袈裟に笑ってみせる姿から、少年は人との付き合い方の上手さが感じられる。この状況でも他のプレイヤーのようにパニックにならず、内心はどうあれ相手に合わせて笑う余裕があるというのは凄いことだと思う。


「良かったら、私と一緒にパーティ組んでくれない? 仲間がいなくて困ってたんだー」

 

 折角の仲間を作る機会だ。見逃す理由はない。

 倉橋は剣犬と同じように明るく、受け入れられやすい笑みを浮かべながら、手を合わせてお願いする。十中八九断られる事はないだろうという確信があった。


「あ、それ俺からもお願いしようと思ってたんですよ! ぜひお願いします!」

「わーい! じゃあ早速フレンド登録しようぜ-」


 無邪気な子供みたいな、少し馬鹿っぽいキャラを演じる倉橋。明るく話しやすいキャラであると同時に、馬鹿っぽいという隙を相手に見せることで、相手に親しみやすい印象を与えるのだ。


少年が送ってきたフレンド申請を受理し、倉橋のフレンドリストに『剣犬』という名前が載る。それを倉橋が確認している間に、剣犬がパーティ申請も送ってくる。これにより『らーさん』『剣犬』二名のパーティが結成され、晴れて二人はパーティメンバーとなった。

 パーティを組むことにはいくつものメリットがあり、例えばモンスターを倒した時、倒したプレイヤーだけでなくパーティメンバーにも経験値が入るというものがある。これにより弱いプレイヤーをエリアに連れて行き、強いプレイヤーがモンスターを倒して経験値を入れるなど、仲間のレベルをあげる手助けをすることが可能となる。ソロで活動していればパーティで組んでモンスターを倒したときに得られる経験値は増えるものの、ソロで活動するにはかなりの数のデメリットがあり、安全かつ確実に経験値をあげるにはパーティを組むのが一番とされている。


「登録完了ー。よろしくね、剣犬君」

「はい、よろしくお願いします。えっと、なんて呼んだらいいですか?」

「ああー。名前ね、そのまんま『らーさん』でいいよ」

「あはは、分かりました。よろしく頼みます、らーさん」


 こうして、らーさんこと倉橋は、剣犬とパーティを組んで活動することになったのだった。


――


パーティを結成二人はまずアイテムを購入しに行った。このゲームには通常の家の外装をしているが、中は店や宿になっているという『隠し店』や『隠し宿』という物が存在しているらしいが、生憎、倉橋も剣犬もその場所を知らなかった。


「うわー、金、ギリギリになっちゃいましたね」


 購入した必須アイテムと残りの金額を見比べながら、剣犬が苦い顔をして呟く。

 すぐに目に付いた店でアイテムを購入した所、最初から持っていた金の殆どを消費してしまった。因みにこの世界での金の名称はテイルというらしい。


「まぁ仕方ないよ。取りあえず、エリアに出る前にクエストを受注しに行こっか」

「クエストですか?」

「うん。何かね、街の中央広場のすぐ近くにある酒場でクエストが受けられるんだってさ。クエストをクリアすることで報酬にお金とかアイテムが貰えるみたいだよ」


 全てβテスターがネットにあげていた情報だ。「詳しいですねー」と感心する剣犬を引き連れて、倉橋は酒場へと向かう。

 酒場には酒を飲んで酔っ払っているNPCがいるだけで、プレイヤーは一人もいなかった。

 倉橋はクエスト内容が書かれた紙が貼り付けてある掲示板に向かい、内容を覗く。まだ誰も手をつけていないようで、内容以上の報酬が貰えるクエストがたくさん貼り付けてあった。

 それらから特に良い物かつ二人でクリアできそうな物を選択し、二人は合計三つのクエストを受けることになった。

 

 ハングリーツリーから採れる葉っぱ三枚。

 フロータイボールの眼球二つ。

 巨大芋虫クローラーが体内で作り出す糸を四本。


 難易度が低く、しかし良い報酬が貰える。そしてモンスターと戦うことでレベルあげもできて戦闘も経験できる。

 クエストを受注し、二人はすぐさま攻略エリアである《ワイルドフォレスト》へ向かった。


――


「槍って使いにくいですね」


 クエストを終え、倉橋達は宿へ戻ってきていた。老人に金を払ってパンとスープを出してもらい、それを食べながらエリアへ出た感想などを話し合っている。

 

「そうかなー? 私は使いやすかったけど」


 剣犬の言葉に倉橋は首を振る。相手よりも長く間合いを利用し、相手が近づいて来た所を狙って攻撃すればいいだけなので、倉橋にとっては非常に使いやすい武器だった。


「うーん。俺はもうちょっと前に出て、ガッと戦える感じの武器の方が扱いやすそうです」

「槍の方が長く間合いがとれて、安全に戦えると思うけどなぁ」

「そうなんですけど、いまいち相手にダメージを与えた手応えが感じられないんですよね」


 よく分からないが、どうやら剣犬は選択した武器が合わなかったらしい。パーティを組んでいる以上、どうでもいいと切り捨てるわけにもいかないので、倉橋は自分が持っている知識で助言した。


「確か、次のエリアくらいから武器の変更が出来るようになるって掲示板に書いてあったよー。結構お金掛かるみたいだけど、鍛冶屋で武器変更してもらえるみたい」

「本当ですか!? だったら、次のエリアで俺は双剣に変更しようと思います」


 それから剣犬が何で双剣が使いたいかという理由を説明し始めたが、倉橋は笑顔で相槌を打つふりをして、今日のエリアでの自分の戦い方の反省点を探す。

 モンスターと戦うなんていう非日常的な状況だけ合って、どうしても勢い良く飛びかかってくるモンスターに見が竦んでしまう部分がある。間合いが長いおかげで、攻撃を喰らう前に対応する事が出来たが、これは直すべき所だろう。取り敢えずはモンスターと戦うという非日常に慣れ、それを日常に変えなければならない。

 逆に今日の戦いで良かった点は何か。それは剣犬とのコンビネーションだろう。彼と倉橋は意外にも相性が良かったらしく、お互いに状況に応じてフォローしあう事が出来ていた。まだ拙い部分も多かったとはいえ、これは良いことだと思う。いつまで剣犬とパーティを続けるかは分からないから、誰かとパーティを組んでお互いにフォローしあって戦うという事に慣れておこう。その技術を身に付ければ剣犬以外とパーティを組んだ時にもやっていけるだろう。


 トライ&エラーを心掛けている倉橋は、そんな風に几帳面に自分の戦いに関して分析し、改善点などを見つけていく。現実でも毎日自分を見直すことで、メキメキと仕事を上達させていた。


「じゃあ、そろそろ寝ましょうか」

「そうだねぇー、おやすみ」


 剣犬が話に満足したようでそう提案してきたので、倉橋は頷いておく。別れる前に明日の集合時間を決め、二人は解散した。

 倉橋は老人からお湯を入れた桶とタオルを貰い、軋む階段を登り、自分の部屋へ。

 この時間帯にはこの宿を利用しているプレイヤーもかなり増えていた。すれ違うプレイヤーを一瞥しながら、倉橋は自分の部屋へ入った。

 相変わらずベッドしかない寂しい部屋だ。倉橋は電気を付けずに、部屋を暗くしたまま鎧と槍をアイテムボックスへ戻し、下着姿になる。


「やはり入浴できないのは不便ですね」


 『らーさん』の仮面を脱ぎ捨て、素の自分に戻る。それからお湯に浸したタオルで身体を拭き、渇くとすぐにベッドに寝転がった。慣れないことをしたせいか、疲労感が強い。

 目をつぶるとすぐに睡魔が倉橋を襲い、夢の世界へと引きずり込んでいく。その直前に倉橋はある事を考えていた。


 ――あの剣犬という少年はどれだけ利用出来るだろうか。


 必要がなくなれば、すぐに切り捨てる。

 所詮、人間は自分で生きていくしか無いのだ。人を信用するということは、思考を放棄する事に等しい、常に疑って掛かり、裏切られる前に切り捨てる。

 それが倉橋の考え方だった。


 ――私は生き延びてみせる。

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