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第七話「だけど」

 ボスが撃破されたことによって、その経験値がボス戦に参加していた全てのプレイヤーのステータスに加算される。同時にボス撃破によってポップするアイテムも、それぞれのアイテムボックスに収納された。

 レイドの設定では経験値とアイテムは平等に分配される事になっている。ただし分配されるアイテムはランダムで、ボスの撃破に貢献したプレイヤーによりレアリティが高いアイテムが渡る可能性が高くなっている。経験値も同様だ。


 加算された経験値により、栞のレベルも一つ上がっていた。新しいスキルと称号も入手していた。アイテムボックスを見ると、見慣れないアイテムが幾つも入っていた。その中に一際レアリティの高い素材アイテムが入っており、これで新しい剣が作れそうだと栞は少し頬を緩めた。


 ふと、仲間の元へ戻っていったシオンを見ると、彼女もアイテムボックスを覗いていたようで、中から何かを取り出した。

 彼女の手に現れたのは、ふた振りの黒い剣だった。どす黒い光を放つ双剣はどこか禍々しく、同時に第一攻略エリアの中では相当なレアリティのある武器だという事がよく分かる。

 モンスタードロップした武器や防具は高い能力を持つ、レアリティの高い物が多い。栞が手に入れた素材アイテムの一ランクは上のレアリティがあるだろう。利用した鍛冶屋のレベル次第では、栞もあれと同等の武器を手に入れられるかもしれない。


 なんとなくずるいなぁ、羨ましいなぁ、という気持ちが栞の中に生まれる。戦闘の貢献度は自分もかなりの物だったのに、と。

 そんなゲーム時代によくあった嫉妬の感情がまだ自分の中に残っているという事に気付き、栞は苦笑を浮かべた。


 それにても、あの時何故シオンは栞達の突撃に参加したのだろうか。

 ボス攻略の貢献度をあげ、経験値やアイテムを得るため? もしかしたらそれもあるかもしれないが、栞は何となくそれだけでは無いだろうと思った。栞が発言した後、明らかにシオンは今までと違う表情を浮かべていた。何かが彼女の心の琴線に触れたのだろうか。


 栞がそれが何なのかを悩んでいる間に、ハングリーツリーが居座っていた部屋の中央に緑色の光を放つ門が現れた。


 ボスを撃破すると、次の街とエリアへと進むための『転移門ワープゲート』が、ボス部屋の中に出現する。それを利用して次の街へ転移する事で、他のプレイヤーも《セーフティタウン》の転移門ワープゲートから次の街やエリアへ移動することが出来るようになる。

 

「さて――戦いの後で申し訳ないのだけれど、早速次の街へ行こうと思う。キミとキミはボクに着いてきて。残りは街に戻ってボスの攻略成功を知らせて《コウズィ》で待機していてくれ。追って連絡する」


 他のプレイヤーがヘトヘトになっている中で、シオンは全く疲労の色を見せず、テキパキと仲間に指示を出していく。それを聞いているパーティメンバー達の顔には疲労の色が張り付いているが、それでも背筋を伸ばしてシオンの指示に従っている。

 シオンは二人の仲間を引き連れて、転移門ワープゲートへと向かっていく。その途中でチラリと栞に視線を向けると、ニマァといった感じの何だか挑発的な笑みを浮かべた。栞がそれに反応するよりも早く、シオンは門の中へ入っていってしまった。


「逞しいっスねぇ……」


 ようやく息を整えたところてんが、身体を起こしなから呆れたように言う。シオンが栞に向けた笑みには気付いていないようだった。

 殆どのプレイヤーの体力が尽きかけていたというのに、全く疲労の色を見せなかったシオンは少々逞しいという範囲から離れているように思えた。そう考える栞も十分に逞しいという範囲から逸脱しているレベルという事に、彼女は気付かない。


「さて……私達も休んではいられませんよ。早速次の街へ向かって、宿を取ったりしなければなりません」


 仲間の体力が回復したのを見計らって、栞は手を叩いて注目を集め、そう言った。彼女の言葉に同調するように、林檎と七海も口を開いた。


「早いもの勝ちですからね。急ぎましょう。前にところてんが行っていた隠し宿を取りに行きたいですわ。確かお風呂が充実してるんでしたよね。ジャグジーが付いてたり、泡風呂があったり」

「サウナもあるって言ってた」

「どんだけお風呂入りたいんっスか……」

「仕方ないな……」


 盛大に溜息を吐きながら、立ち上がる男性陣。女性陣は既に体力が完全回復したのか、次の街にある豪華な風呂についての話に華を咲かせている。女性って逞しいなぁ、と思う二人だった。


「そういえば、どんなアイテムを手に入れましたか?」

「素材アイテムばっかっスね。モンスタードロップの武器とかは出なかったっス」


 どうやら、ボス戦で手に入る一番美味しいアイテムはシオンに持って行かれてしまったらしい。仲間のアイテムボックスにもモンスタードロップやユニークアイテムは入っていなかった。

 少々の悔しさを覚えながら、栞は考えた。次のボス戦ではもっとアイテムが手に入るように頑張ろう、と。

 それから自分の思考にハッとする。

 デスゲームなのに、次のボス戦の事を考えるなんて楽観的すぎるのではないか、と。

 だけど――と周りにいる仲間を見て、栞はある事を思った。


「さぁ、そろそろ行こうぜ」


 立ち止まっていた栞をドルーアが促した。

 鳥居に近い形をした、緑色の光を話す転移門ワープゲートに五人が向かう。

 

「お疲れ様!」

「……お疲れ」


 四人が門を潜ろうとしている時に、後ろから声を掛けられた。振り向くと、ウイと金髪の少年の姿があった。


「さっきの戦いっぷり見たけど、皆凄かったですね! 特にそこの貴方が!」


 労いの言葉を掛けてきたかと思うと、ウイは急にハイテンションになって栞を指さした。面食らう栞にウイはズケズケと近づき、その両手を握った。


「貴方の戦い方って、何か凄い綺麗だった! シオンさんも凄かったけど!」

「え、えっと……ありがとうございます?」

「いやー、名前何ていうの?」


 前に会議の場所で話していた時の印象とはかけ離れているウイの姿に、栞は目を白黒させる。ウイの後ろにいる金髪の少年は顔を抑え、呆れたような表情を浮かべていた。


「私は栞といいます」


 栞が名乗った後、それからウイのテンションに若干引いていた四人も自己紹介をした。ウイと一緒にいる金髪の少年の名前はアーサーと言うらしい。あまり喋る方ではないようで、自分の名前を言って軽く会釈をし、それから口を閉ざしてしまった。


「そっかそっか! 皆仲良くしてね! これから次の街に行くんだよね! だったらその前にフレンド登録しようよ!」


 無口なアーサーの分まで喋っているかと思うくらい、ウイはペラペラと喋った。

 フレンド登録とは、プレイヤー同士が連絡を取り合ったり、安否を確かめたりする事が出来るシステムだ。パーティを組むにはフレンド登録をする必要がある。

 自分のフレンドリストに五人の名前が登録されたのを確認して、ウイは満足そうに頷くと、アーサーの手を強引に掴むと「ありがとね! メッセージ送るね-! ばいばーい」と言って転移門ワープゲートの中へ飛び込んでいった。


「何というか…嵐のような人だったな……」


 唐突に現れ、唐突に去っていったウイにただ圧倒されるだけだった五人。五人はしばらく二人が消えた転移門ワープゲートを見つめて立ち止まってしまった。


――


 次のエリアでも、《ワイルドフォレスト》以上の苦難が待ち受けているのだろう。辛い事がたくさん待っているのだろう。

 だけど――。

 四人の頼もしい仲間が一緒にいてくれれば、これからもやっていける様な気がした。


 ――兄さん、私はこんなに強くなりましたよ。友達もたくさん出来ました。


 昔、イジメを受けていた事が合った。兄に頼るばかりで、自分では何も出来なかった。でも今は強くなって、自分を頼ってくれる仲間も出来た。


 ――今の私を貴方に見て貰いたい。

 ――貴方は今、何をしているのですか。


 兄の事を考えると、途端に心が揺らぎそうになる。だけどその揺らぎを止める事が出来るくらいに、栞は強くなった。

 それに今は――暗い気持ちにならず、明るいままでいたい。

 今は立ち止まらずへ、先へ。

 その先に兄の姿があることを信じて――。


 仲間達の顔を見て、栞は頬を緩めた。

 それから口を開いて言う。


「――先へ進みましょう!」

次章からはらーさんがメインのお話になります。

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