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第六話「突撃の六人」

短めです。


「早く飲むんだ!」


 救助に駆け付けた男が痺消しを取り出して麻痺で倒れている女性の口に含ませる。瓶に入った液体を全て嚥下させると、倒れていた女性がフラフラと立ち上がった。


「あ……ありがとう」

「礼は後だ、早い所――」


 男が言葉を言いかけた時、彼らに巨大な影がさした。見上げれば、ハングリーツリーが地面からつきだした根を持ち上げ、彼らに振り下ろそうとしている最中だった。

 絶句して固まる二人。頭上から迫ってくる『死』に見がすくみ、呼吸も忘れて見入ってしまう。


「危ないぞ!」


 彼らに根が振り下ろされるよりも早く、男達の後方から何かが大きく跳躍して根にぶつかった。見れば二人の男女が槍を根に突き刺し、巨大な穴を穿っている所だった。

 力を失い地面に倒れる根を尻目に、二人はすぐに着地して固まっていた男達の元に駆け付けた。


「ほら、早い所逃げてくれ」

「ここにいると危ないよーん」


 一人は高校生くらいの、どこか幼さの残った人懐っこい顔の少年だった。息を乱し肩を揺らしている姿は犬を連想させる。

 もう一人は二十歳くらいの女性だ。長い黒髪を一つに結んでポニーテールにしている。こんな状況だというのに、どこか気の抜けた明るい表情を受けべていた。


「お、おい後ろ!」


 そんな彼らの後ろから、複数の枝が伸びてきた。男が慌てて叫ぶが二人は動じた様子を見せず、身体を僅かに逸らして枝の攻撃を回避すると、クルリと振り返って怒涛の勢いで槍を突き出していく。その攻撃によりあっという間に枝は設定されたHPを失い、地面に落下していく。

 

 二人の無駄のない動きに面食らっている二人の背中を少年が叩き、早く下がるように言う。二人は呆けたように頷くと、彼らに背を向けて去っていった。


「ふぅ。数が多いと面倒くさいなあ」

「怪我人も多いし、早く倒すか逃げるかしないとねぇ」


 二人は溜息を吐き、再び他のプレイヤーの救出に向かった。


――


「ドラァ!!」


 人の背丈ほどもある巨大な刃を軽々と振り回し、近づいて来る枝を片っ端から蹴散らしていく。赤髪の大男――ガロンは麻痺で倒れたプレイヤーの救出を仲間に任せ、自分は前方に出て枝の注意を引き寄せていた。

 一撃で幾つもの枝を屠っていくガロンだが、一向に枝の数が減っている気がしない。

 枝の鋭い先端が肩を掠る。小さな痛みに顔をしかめながらも、動きを止めずに身体を動かし続けるガロン。一回の枝の攻撃で削られるHPは多くないが、それでも何度も繰り返されればダメージが蓄積されていく。

 このままではマズイ。

 焦りを吹き飛ばすように、大剣を大きく振り回して枝を爆散させるが、迫ってくる枝は増えるばかりだ。

 β版では枝を切り落とし、動きが止まったハングリーツリーをボコる。そんな単調な作業を繰り返していれば勝てた。単調と言ってもそれなりの難易度はあったが。しかし、今はハングリーツリーの攻撃パターンが増えている。枝がこんなに増える事は無かったし、巨大な根が襲ってくるなんて事態も無かった筈だ。


 ハングリーツリーの現在のHPは既に残り三割程度だ。一定のダメージを受けると第二段階に入り、枝の分裂と根の攻撃が追加されるのだろう。あと一歩で倒せるというのに、戦線が崩れてしまったせいで攻撃する所ではない。今回のボス戦が失敗すれば、他のプレイヤーに与える影響は大きいだろう。まだ第一エリアだというのに、何人もの犠牲者を出してボスが倒せなかったとなれば、今後ボス攻略に参加しようとするプレイヤーは減ってしまう。


「どうすればいいんだッ!」


 ガロンが短く叫んだ時だった。

 後ろから十数名のプレイヤーが枝と格闘しているガロンの助太刀に入ってきた。


「状況はどうなってる!?」

「あらかたの救助は完了しました。そこで撤退するかこのまま陣形を立て直して戦いを続行するか、決定しようとしたのですが――」


 苦い顔をしてそう言った男の視線の先で、六人のプレイヤーがハングリーツリーに特攻をかけていた。


――


「このままでは埒があかないので、直接ハングリーツリー本体に攻撃します」

「おいおい、それは少し無謀じゃないかな。これだけの枝と根を潜り抜けていくんだよ?」


 栞達のパーティ五人は救助したプレイヤー達を下がらせていたシオンの元にやってきていた。栞の発言に眉をひそめ、諫めるように発言する。


「ハングリーツリーのHPはあと僅かです。ここで撤退しては今後の攻略に響いてしまう」

「確かにそれは痛手だと思うよ。だけどこれ以上戦えばさらなる犠牲者を出してしまう。ボクはそれを許容することは出来ないな」

「ええ、ですのでシオンさんは他のプレイヤーを撤退させてください。私達五人だけでハングリーツリーを倒して見せます」

「……正気かい?」

「私達になら出来る自信があります」

「そういうのを勇気じゃなくて、無謀って言うんだぜ」

「他のプレイヤーに被害が出ないように退かせてください。私はハングリーツリーの残りHPを削る力があると、自負しています」


 栞の言葉の何かが彼女の琴線に触れたのか、シオンはフッと笑みを浮かべた。


「おとなしそうな外見だけど、なかなか過激なんだね。ギャップ萌えしちゃったぜ。いいよ、挑戦してみるといい」

「ありがとうございます」


 シオンは後ろに控えていた仲間にプレイヤー達の撤退を指示した。指示を聞いたプレイヤー達はこぞってエリアの入口を目指していく。

 逃さないと言わんばかりに、ハングリーツリーが新しい枝を伸ばす。背を向けて走るプレイヤー達を貫こうと枝が迫った時、横から枝に攻撃が加わった。


「ここは通さないよ」


 水色の髪を揺らしながら、ウイが双剣を振る。その隣には金髪の少年や、槍を装備した男女の姿もあった。そこに後退してきたガロン達が加わり、プレイヤーを追う枝を退けていく。


「では、行きましょうか」

「ちょっと待ってよね」


 ハングリーツリーに向かって走りだそうとした五人をシオンが遮った。怪訝そうな表情を浮かべる五人に、シオンは笑いながら言う。


「ボクもその特攻に参加させてもらうぜ。奇遇だけど、ボクもあの大木を切り倒す力があると、自負しているんだよね」


――


 エリアの中央に位置するハングリーツリー目掛けて、六人のプレイヤーが突撃をかけた。

 先頭を走るのは二人の少女だ。風のような速度で走りながら、目の前から襲ってくる枝を物ともせず切り落として進んでいく。

 

「なかなか強いんだね」


 複数の枝を踊るようにして躱し、双剣で枝を切り落しながら、シオンが隣を走る栞に話し掛ける。栞は「貴方こそ」と短く返すと、地面を蹴って飛び上がって枝を回避し、落下しながら枝を斬り付ける。

 行く手を阻む枝を強引に切り崩して進んでいく二人の後ろを、他の四人がサポートする。枝や根は正面だけでなく、横からも襲ってくる。ドルーア達はそれを斬り伏せて、二人の後を追う。


「うぉっと!」


 地面から巨大な根が突き出てきて、殿を務めるところてんに襲い掛かった。ところてんは驚きの声を上げると同時に、真一文字に大剣を振るった。根に線が入ったかと思うと、そこから横にズレて地面に落下する。ところてんはそれを一瞥し、「栞に負けてられないっスからねぇ」と小さく呟いて仲間の後を追った。


 無数の枝を斬り伏せ、とうとうハングリーツリーの目の前にまで六人が迫った。近づいて来る彼らに巨大な口を開いて怒声を放ち、先程使用した麻痺の粉を放出する。

 それを確認してすぐに、六人はバラバラに散会し、粉を回避してハングリーツリーに迫る。



「私は、生きて帰る!!」


 ――友達と五人全員で現実に戻る!

 ――兄にもう一度会うんだ!


 揺れていた心の行き先を定めた栞が、真っ直ぐに突き進む。枝が四方八方から殺到するが、もはや栞の速度に追いつけず、置き去りにされていく。

 黒色の樹皮に一閃。

 ――まだだ。

 もう一閃。

 ――まだ。

 一閃。

 ――まだ足りない!


「――――ッ!」


 光を帯びた片手剣が樹皮を切り裂く。樹の破片を撒き散らして、ハングリーツリーの口から絶叫が迸った――――。


――


「終わったぁ……」


 消滅したハングリーツリーにを見て、ドルーア達四人は地面に倒れ込んだ。栞も息を荒くして、地面に膝をついた。

 後ろではボスを倒したことにより、退避していたプレイヤー達が歓声をあげている。

 

「やっと第一か」


 シオンはボスの消滅を確認すると、倒れている栞達に「お疲れさま」と声を掛けるとすぐに自分の仲間の元へ去っていった。全く疲労を感じさせないその足取りに、五人は密かに戦慄する。

 それから息を整えた栞が、倒れている四人に言った。


「皆、助けてくれてありがとうございました。嬉しかったです」


 

次の話で一章終了予定です。

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