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《Blade Online》―Before Dawn―  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
《The reason of a mask 》
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第四話「仮面の理由」

――世の中には汚い人間ばかりだ。

 それが自分の人生を振り返った、倉橋の世界への感想である。

 

 倉橋の両親は彼女が小学三年生の頃に離婚している。離婚の原因は父の母へのDVとなっていて、父は母に多額の慰謝料を支払っていた。しかし倉橋は父がDVなどしていないと知っている。母は浮気をしていて、父を捨てて浮気相手とくっつくためにDVをでっち上げたのだ。

 母は倉橋の親権を父に放り捨てて、離婚してすぐ浮気相手の元へ去っていった。母方の祖父母、親戚はは父を散々罵倒し、倉橋にも鬼畜の混じった女と喚き立てた。

 父は仕事をやめ、家の中で一日中酒を飲み始めた。必要な金を渡すだけで、父は倉橋に関して全くの無関心になった。ただどれだけ荒んでいても、皮肉な事に父は一度足りとも倉橋に手を上げなかった。


 それから数週間後、更に父を追い詰めるような出来事が起こった。父方の祖父母、つまり父の両親が交通事故で亡くなった。父が無表情で涙を流していたのを、倉橋は良く覚えている。

 両親が亡くなったことで、父にはそれなりの金額、遺産が転がり込んできた。それを知った母と浮気相手、祖父母や親戚が毎日のように家にやってきて「DVを受けた母には遺産を受け取る権利がある。遺産の半分を寄越せ」と喚き立てるようになった。

 結局、父は遺産のほぼ全てを母に譲渡した。


 母に遺産を渡してから、父は新しい仕事をするようになった。かつての明るさを失い、家の中では何も喋らなくなっていたが、倉橋は少し父が立ち直ってくれたようで嬉しかった。

 父の友人に新しい会社を作るという人がいたそうで、父はそこに参加させて貰ったらしい。その起業は成功し、父は以前働いていた時よりも多くの給料を貰えるようになっていた。

 離婚してから二年が経過し、仕事が順調に進み出した父は少しずつ生気を取り戻し、ぽつりぽつりと家の中で倉橋と話すようになっていた。

 壊れて歪んだものが、元の形には戻らなくとも、新しい形で安定しようとしていた。

 

 それを再びぶち壊したのが母だった。

 浮気相手が働かずに金を食い潰し、働かず、DVをするダメ男だった。

 浮気相手と別れた母は父に擦り寄り始めた。

 涙を流して、父に「やっぱり私には貴方しか居ないの」と口にした母を見た時、倉橋は吐き気すら覚えた。

 当然ながら、父は母との復縁を断った。

 その次の日から、母は執拗に父に付き纏い、挙句の果てには祖父母まで父に「娘を任せられるのはお前しか居ない」と言い始めた。

 

 毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日。

 毎日、母と祖父母は父を追い詰めた。


 その結果、父は家で首を吊って自殺した。

 ブラブラと振り子のように宙で左右する父の姿を倉橋は生涯忘れることが出来ないだろう。

 

 倉橋は母の実家に引き取られたが、すぐに寮のある中学に進学し、出来る限り付き合いを絶った。

 

 この時はまだ、倉橋は世の中には屑のような人間がいる、という認識でしか無かった。


 中学に上がって、倉橋には新しい友達が出来た。

 正義感が強く、虐めや不正などを見逃せない真面目な女の子だ。それ故に彼女を嫌う人は多くいたが、それでも彼女に救われた人は多く居たはずだった。

 なのに。

 クラスメイトを虐めていた女子を、彼女は注意した。それにより、虐めの標的は彼女に変わった、その途端に、彼女に助けられた筈の人達は彼女に背を向け、無視をし始めた。

 

 ――私のしたことは、無意味だったのかなぁ。


 倉橋が最後に彼女から聞いた言葉。

 翌日、彼女は学校の屋上から飛び降りて自殺した。

 決定的に倉橋が人を信じられなくなったのは、その後のクラスメイト達の姿を見た時だ。

 彼女を虐めていた連中、無視していた連中、虐めを知っていて許容していた教師、彼女達は死んだ友人を悼んで涙を流していた。自分達が自殺の原因を作り出したというのに。

 誰もが虐めの事実をもみ消していた。

 

 倉橋はそれを見た時、トイレに駆け込んで胃の中身をぶちまけた。

 ただひたすらに気持ち悪かった。

 母も、祖父母も、親戚も、クラスメイトも、教師も。


 ――結局、誰もが自分の事しか考えていない。


 そう悟った時から、倉橋は仮面を被った。

 誰かに疎まれないが、他人の都合にも巻き込まれない。

 明るくて人当たりがいいが、全ての人間に一線を引く。

 そんな仮面だ。


 誰も信用に能わない。

 誰もが自分の事を考えている。

 だったら、私も誰かの事を考える必要はない。

 利用出来るだけ利用してやる。

 


 そして倉橋は、《Blade Online》の世界でも『らーさん』という仮面を被る事にした。

 

 ――ネットでも現実でも、結局、人の本性は一緒なのだから。


――――

 

「本当にありがとう。これでまた狩りをする事が出来る」


 包帯のNPCがいる酒場へ戻り、ナムラプトルの討伐に成功した旨を伝えると、何度も感謝の言葉を伝えられ、それからクエストの報酬を手渡された。

 受け取ったのは幾らかのテイルと武器の耐久値や攻撃力などを一つだけ上昇させる事が出来る、特殊な金属片数枚だ。

 三人はその後、鍛冶屋へ向かった。


「この材料で双剣を作ってくれ。その後、出来た双剣の『耐久値』の強化を頼みます」

「私は槍の『スピード』の強化をお願いー」

「斧の『攻撃力』の強化をおなしゃす」


 寝ているのか起きているのか分からないほど、目を細めた白髪の老人が表示したアイテムストレージに、倉橋達がそれぞれ武器や素材などを入れる。老人はそれを確認すると、何も言わずにフラフラと覚束ない足取りで奥の鍛冶部屋へ続く扉の中へと消えていった。


「明日は取り敢えず、新しいエリアの確認と、双剣の試し切りに行こうか。掲示板の方でもうこのエリアのモンスターについての情報が出てるけど、自分の目で攻撃パターンを確認しておきたいし」

「そうだねぇ。クエストだけじゃなくて、エリアの攻略の方も進めないと行けないし。ポップするモンスターも有限じゃないし、あんまりノロノロしてられないよ」

「ああ。そこでさ、ちょっと相談があるんだけどいいかな?」


 瑠璃が鍛冶屋の棚に展示されている防具を興味深そうに眺めている間、二人は彼女から少し離れた所で話をしていた。

 声を潜める剣犬を怪訝に思いながら、倉橋は「なぁに?」と聞き返す。


「エリアは進む毎にモンスターやトラップが過酷になっていく。そうだよな」

「うん」

「今は俺達、二人でもある程度やっていけてると思う。だけどさ、これから進むのに、二人だけのパーティじゃ少し不安じゃないか?」


 そこで倉橋は剣犬が何を言わんとしているかを理解した。つまり、瑠璃をパーティに入れたいと、彼は言っているのだ。

 

「瑠璃に俺達のパーティに入ってもらわないか?」


 瑠璃をパーティに入れる。

 そのことへのメリット、デメリットを倉橋は頭の中に思い浮かべる。

 人数が増えることで人間関係はややこしくなる。今までになかった面倒事も増えてくるだろう。しかし、瑠璃は最前線で戦ってきた自分達と同程度の実力を有している。彼女をパーティに入れれば、飛躍的に攻略は楽になるだろう。

 一瞬で計算を終えた倉橋は、朗らかな笑みを浮かべて「そうだね、いいと思うよ!」と剣犬の提案に頷いた。剣犬は「よっしゃ」と笑うと、斧を物色していた瑠璃の元へ提案しに行く。

 結果、瑠璃は倉橋達のパーティに加わることになった。


「私ぃ、ずっと一人でぇ、やってきてぇ、仲間が出来てぇ、嬉しいだぁ。おいおいおいおい」

「あんたのキャラが段々分からなくなってきてるんだが……」

「よろしくねー」



 その後、倉橋達は新しい武器を受け取り、宿に帰った。

 宿の部屋はもう一杯になっていたので、瑠璃は倉橋の部屋で泊まることになった。

 幸い、最初から宿の部屋は一つの部屋に二つのベッドが設置されていたので、一人増えても問題なく宿泊することが出来る。

  装備の点検などを終わらせ、後は寝るのみとなった。倉橋がベッドで横たわっていると、唐突に瑠璃が話し掛けてきた。


「ねぇ、らっちゃん」

「ら、っちゃん?」

「らーさんじゃなんか固いでしょー。らっちゃんの方が可愛いよ」

「ん、んん……そうかね」

「だかららっちゃんって呼ぶね」

「うん、いいよー」

「らっちゃんと犬君って付き合ってんの」


 何を言ってるんだこいつは、と倉橋は突っ込みたくなった。


「あはは、違うよ。たまたまゲームが始まった時にパーティを組んで、一緒に行動してるだけ」

「ふぅん。そういえば、らーさんって何歳くらいなの?」


 らーさんに戻ったな……と倉橋は心の中で呟く。


「えー、内緒ー」

「やっぱ女性ってのは年齢を言いたがらないものなんかなぁ。私、そういうの分からないんよ。因みに私の予想は二十歳前半くらい?」

「……どうかなぁー」

「らっちゃんは私はいくつくらいに見える?」


 らっちゃんに変わった……。


「え、えっと、二十代……前半かなぁ?」

「はは、もうちょっと行ってるよ。ふぁぁ、眠くなってきた。寝る」


 唐突に話を切り上げて、瑠璃はベッドの中に潜ってしまった。

 倉橋は瑠璃のマイペースさに唖然とし、しばらく固まっていた。

 こんなにマイペースな人は初めてだ。これから上手くやっていけるのか?

 倉橋はそんな不安を抱きながら、自分も目をつぶった。 



 

 

 

 

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