誘拐
「ホリミカの記憶」第2話です。
よろしくお願いします。
1
峠川公園にシノはいた。漆黒の闇に覆われた公園にいた人間は彼女ただ1人だけだ。いや、その時はそう思っていた。ミカはシノがいるベンチに近づいた。
「大事な話って何? 」ミカはシノが真剣な顔をしているので自然にまじめな顔になった。
「今から話すね」シノの声がいつもより小さく感じられた。「あのね、わたし・・・」そう言いかけた瞬間後ろから笑い声が聞こえた。声の主は3、4人の男。ミカとシノは顔を見合わせた。
「こんな時間に何をしているのかな? お嬢ちゃん」金髪の男が話しかけてきた。ミカは呼吸が止まりそうになった。きっと誘拐事件の犯人だ。犯人というかグループだが。ミカとシノはとっさに逃げ出した。こんな奴らに捕まるわけにはいかない。案の定彼らは追いかけてきた。小学生が大人に勝てるはずもなくすぐに出口がふさがれた。「ゴツッ」という鈍い音が響き渡りミカは倒れた。
ミカが目覚めた場所はつぶれた映画館だった。父が映写技師なのでここには何百回と来ている。忘れるはずもない。最近は新しい映画館ができてここはつぶれてしまったけれどミカはこの場所が大好きだった。
誘拐されたらしいがミカの手足は縛られておらず、自由だった。横にはシノが寝ている。ミカはあたりを見渡してみる。
スクリーンのほうでは4人の男たちがゲラゲラ笑っていた。こちらには気づいていないらしい。そんな男たちをみてミカはとても憎たらしいと思った。この部屋からの唯一の出口は10メートルほど先にあった。大きなさびれたドア。ここから出るにはそこを通らなければいけない。
「シノ!起きて」ミカはシノの体をゆすった。シノは目をこすりながら起き上った。最初は状況が呑み込めなっかたみたいだがすぐに理解したらしい。「はっ ミカちゃん!ここどこ? 」シノが大きな声を出したので驚いたが、男たちは気づいていないらしい。
「シッ」「ここから脱出するよ」
2
「いい?ここから脱出する唯一の方法はあのドアから出ること」ミカはシノに確認した。
「あの人たちに気づかれないようにドアに近づけばいいのね」ミカは男たちに顔を向けた。相変わらずゲラゲラ笑っている。何が面白いのだろうか。しかし、このチャンスを利用しない手はない。
ミカとシノはゆっくりとドアに近づいた。何回も男たちのほうに振り向いて、座席の死角になるように進んだ。
ドアにたどり着いたミカとシノは嬉しくて飛び上がりそうだった。
なんとドアには鍵がかかっていなかったのだ。これなら外にでることができる。
「しめたわ。ここからでられる!」ミカは歓喜の声をあげた。「やった」
だがそんなに甘くはなかった。後ろから足音が聞こえる。「どこに行くのかな?」
ミカが振り向くとそこにはアロハシャツを着たリーゼントの男がいた。ミカがこの世で見た顔の中で一番恐ろしい顔だった。男の手にはナイフが握られている。
ミカは凍りついた。
男はミカにナイフを近づけてきた。ミカは涙をにじませ「やめて!」と叫んだがそれもむなしく
逆にそれは男の行為を促すだけだった。シノは金髪の男に捕まり手で口を押えられていた。
ミカがもうだめだとあきらめかけたとき「やめろ」という低い声がとどろいた。声を出した男は1人の男をつれてやってきた。どうやらこのグループのボスらしい。リーゼントの男が「大将!」と言ったからだ。大将と呼ばれるめがねをかけた美形の男は続けた。「そいつらはまだまだ使い道があるんだ。何。どーせここから逃げることなんてできないんだ 泳がせとけ」
「でも・・・」リーゼントの男は何か言おうとしたが、大将ににらまれたのでそれ以上は言わなかった。大将はかなりの力を持った人物らしい。
ミカとシノはリーゼントの男から解放され、映写室のほうへ集まった。4人の男たちはほかの場所に行ってしまった。
男たちは何のためにミカとシノを誘拐したのか、これから何をするつもりなのか全くわからなかった。